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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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326話 表面化する暗雲

 アブドラの来訪と、そのさ中にあって起こった収奪事件――通称"ゴミタンク事件"からひと月が経過していた。あっと言う間の一ヶ月ではあったが、あの事件の後はそれで大変だった。


 と言うのも、何か鬼気迫った様子でやって来たアキラにハクエン、そしてミューにユミルが「より実践的な訓練を!」と詰め寄って来たのだ。


 話を聞けば、沢山見つかった課題の中で、より緊急性があると感じたのが"実践時における柔軟な対応"だったらしい。正巳からすれば十分動けていた様にも思えたが……。


 まぁ、実際どうだったかは横に置いても、三人は其々護衛部と給仕部を統括しているのでまだ分かる。しかし、ユミルの「どうやら鈍ってしまったようなので」には苦笑しかなかった。


 何せユミルは、日課的に午前中綾香と汗を流した後、午後綾香が勉強や読書をしている間にハク爺たち傭兵に混じって、みっちりと訓練していたのだ。それなのに足らない(・・・・)とは。


 本人曰く「実戦の機会が減った事で勘が鈍りました」と言う事だったので、そういう事ならとサナに「隙を見つけてユミルと遊んでやれ」と言っておいた。


 それにサナは「分かったなの、遊ぶなの!」と目を輝かせていたが……その結果、しばらくの間強襲するサナとそれを防ぐユミル。この光景を見る機会が増えていた。


 サナは始終楽しそうな様子で、昼などこの後どうやって襲撃しようと考えているかなど、とても楽しそうに話していた。少し気になってはいたが、一応ちゃんと訓練(・・)になっていたらしい。


 また、場所や時間の指定をしなかったのもあって、最初の内は「大変な事が起きている」と通報が入ったりもしたが、日が経つ毎に見物人が出るような一種の見世物に変わって行った。


 この辺りの住民による順応力は流石だが、考えてみれば、そもそもが普段からこれまで見た事も無いような事のオンパレードで、刺激のない日が無いような環境なのだ。


 ある意味これも、日ごろから訓練された結果と言う事だろう。


 アキラとハクエンの護衛部には、シミュレーション以外の訓練として、定期的なハク爺たち傭兵"白髭部隊"との実戦型模擬戦を組んでもらう事にした。


 この為に、新しく訓練エリアを造設する事になったが、一先ず完成するまでは居住エリアの内空きエリアを使って貰う事にした。市街戦の要領だ。


 その後、実際に何度か顔を出したが、その度怪我人が居て「これは本当に訓練なのか」と確認したりもした。しかし、飽くまで「必要な訓練です」と本人たちが言うので、任せる事にした。


 その結果、中には骨折しているにもかかわらず平然としている者や、中途半端に折れているからと粉砕し、治癒薬で綺麗に治す給仕部の支援部隊など、数か月経った頃には若干"やり過ぎ感"とすでに"手遅れ感"を覚える光景が広がる事になったが……正巳としては目を背ける外なかった。


 ミューの指揮する給仕部には、正直何が必要か分からなかった。


 しかし、「避難誘導時に自分よりも年上の相手に対して強く出られず一歩引いてしまった」と言う話を聞いて、"説得術"と"心理学"を学べば良いんじゃないかと提案した。


 実践的な訓練とは少し違ったが、教育マニュアルに取り入れる事になったとだけ聞いた。


 後日、「今日は一日一緒に過ごします」と言って聞かないミューを見た給仕部の子が、正巳に「正巳様は、部下思いな人と自分優先で部下を悲しませる人、どちらが素敵だと思いますか?」と聞いて来て、答えを待たずに立ち上がったミューを、事も無げに回収して行く給仕部の子の姿を見る事になった。学習した事が活かされているらしい。


 ……そんなこんなで、それぞれが新たに課題を見つけそれに取り組んでいたが、それは正巳達も同じ事だった。何せ拠点を発見されたのだ。今後、穴が無いか確認しつつ対処する必要がある。



 ◇◆



 今井に呼び出され、上原も交えて三人で顔を合わせた正巳は、映し出された映像を前に状況を整理していた。


「つまり、これはつい先ほどの映像だと?」

「そうなるね」


 頷いた今井に、じっと映像を見ていた上原が言う。


「それで、理解が正しければですが……、この場で"宣戦布告"されたと?」

「そういう事だね」


 再び頷くもその表情は厳しかった。


 ……それもそうだろう。何せここに映されているのは、国連加盟国の内その大半が参加する"世界会議"とそこでの一部始終。つまり、世界の中心とも言える場所での出来事なのだ。


 この場での発言は、全世界が知る事となり撤回が効かない。そんな大変な場で以って"宣戦布告"をしたのだ。連合軍発足の宣言と国連理事国による決議付きで。


 当然、幾つかの国連加盟国からは非難と抗議の声が上がったのだが……。しかし、それも飽くまでパフォーマンス的な国が大半。本気だったのは、ほんの僅か数か国のみだった。


 仮想世界で生まれた市場と、その経済規模を前に油断していた。


 てっきり、向こうに資産を持つ資産家や、世界に分散するユーザーから反発が起こると思ったのだ。それが、蓋を開けてみればこれだ。きっと国が何らかの保証を出す事にしたのだろう。


 ……考えてみれば、そもそも大半の利益を得るのはハゴロモで、他国にとって無くなったとしても何の痛手も無い。これは、少しばかり失敗したかもしれない。


「いや、それにしたって強引に来たな……」


 そもそも、今回大義名分として掲げられた殆どの名目は只の戯言。「世界にとっての脅威」とか「侵略国家」とか「収奪国家」などという、分かりやすく幼稚な(・・・)言い分だった。


 中でも笑ってしまったのは「世界のネットを監視している」などという、呆れを超えて来るような内容だった。そもそもが、建前はともかくとして、国家間では常に情報と言うリソースの収奪戦をしているのだ。


 これは、言ってしまえば裏の戦争(アンダーウォー)


 戦争が近代化して行く中で生まれた争いの一つで、現代の主戦場の一つなのだ。


 その争いに圧倒的力で以って参入し、勝者となったのがマムだった。収奪したと言うのであれば、そもそもそれ以前同じ事をしていた各国が、その事実を公然とするべきだろう。


 ……まぁ、そんな事態さえ正巳としては、色々と予想外だったりもするのだが。


 何にしても、そこに存在する土俵に立ち、そこで勝者になったからと言って非難されるいわれはないはずだ。まして戦争を仕掛けられるなど。


 ……まぁ、得た情報を少しばかり用いて、ちょっとばかり速いスピードで、片っ端から"不可能"だと言われていた技術を実現して行ったという自覚はあるし、それを傍から見た時の恐怖と、もどかしくも表現し得ぬ怒りもまぁ、分からなくもないが。


 映像をじっと見ていた今井が呟いた。


「来るとは思っていたけど、まさかこういう形で来るとはね」


 その視線の先では、きっかけ(・・・・)として挙げられたある一人の男性と、その生涯について演説された映像が流されていた。


『――男性は愛国者であり、良き兄でもありました。重い病に苦しんでいた妹の為兵役に就く事を決めたラットン上等兵は、その献身さでも部隊の仲間から慕われており、将来を嘱望されていました。そんな未来ある愛国者であった彼は、任務中かの国の"犠牲"となったのです』


 その映像を見ていた正巳だったが、犠牲と言う単語に首を傾げた。


「これは?」


 心当たりがないがと首を傾げると、それに今井が答えた。


「うん、ある筈ないと思うよ。だって彼は、先月の"宴会"の最中に自爆した男だからね。正しくは『任務とは言え、盗みを働いたのがいけなかったのでしょう。愚かで短慮な我が国上層部の犠牲となったのです』――だろうね」


 にこやかではあるがこれは物凄く怒っている。そんな様子を前に話を聞いて頭に来た正巳だったが、今井の怒りを前に溜飲が下がるのを覚えていた。


「まあ、少なくとも男性に非はない訳ですね」


 正巳の言葉に我に返ったのだろう。深呼吸して口を開く。


「……すまないね、どうやら熱くなり過ぎたみたいだ。故人を貶める言動をしたのは謝るよ」


 頭を下げる今井に上原が応える。


「そうですね。確かに亡くなった者をどうこう言う事は、こちらの格を落とす事になります。しかし俺も、命令を出し死傷者を出した上その責任を取らず。堂々と出て来て、故人を弄ぶような事をしている奴らは許せませんがね」


 普段割と柔和な顔をしているのに、眉間にしわを寄せ顔を引きつらせ般若の様になっている。この怒りはきっと、男性の国とその上層部へ向けたものなのだろう。


 一歩下がってその様子を見ていた正巳だったが、顔を向けた先輩が首を傾げてきた。


「なに笑ってんだ?」


 その言葉に初めて、自分の顔が緩んでいる事に気が付いた。


 削ろうかと悩みましたが、前半の閑話(合間に会った話)をそのまま投稿しました。本筋のスピード感が削がれる為、本来は加えない方が良いんだとは思いますが……。これまでも書いた(書いてしまった)ベースでほぼ削らず投稿していましたが、今後は本筋以外の話しは削ろうかなと考えています。。スピード感無くて申し訳ないです(・_・;)


 明日も更新します。

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