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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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314話 第二の世界

「お前の仕業だな、マム?」


 そう言って白状しろと詰め寄ると、少しずつ本当の事を話し始めた。


「あの者達は、世界各地で見つけた"助けを必要としていた者たち"です。それも、命を対価に差し出すほど必要のあった(・・・・・・)者たちでもあり、それを助けた主に忠誠を誓っているのです。本当は今日も報告だけで終わる予定だったんですが、どうしてもと嘆願されまして……」


 呆れた事に、どうやら裏で動いていたらしい。


「その助けた(あるじ)って言うのは?」

「パパです!」


「はぁ……どうしてそうなった」

「確実な方法ですので」


「だが、調査書にある内容は――」

「多少アレンジを加えました」


「アレンジって……いや、加えちゃダメだろそれ……」

「ですが、肝心の部分は外していません」


「と言うと?」


 数か月前にチラリと会って、それ以来信頼していた経歴が"設定"だったと知ってショックを受けていた。そんな正巳を置いてけぼりにしたマムは、自信満々笑顔百点な顔で言った。


「信頼できると言う事です。何より、命を懸けて"忠誠"を誓っていますので!」


 それに若干引いた正巳だったが、今更だなと考えるのを止め、それより六人も救われた人がいると言う事実(・・)へと目を向ける事にした。


 その後、六人の本当の経歴を聞いたが、能力が高い事には間違いない様だった。


 元々名家の令嬢だった者や経営者一族の後継者だった者、敏腕トレーダーだった者など様々だったが……そんな彼らの転落話は、確かに聞いているだけでも胃が痛くなってくるほどだった。


 中でも衝撃的だったのは、アジア担当の男の正体だ。ただ者ではないとは感じて、若干警戒していたが、どうやらそれは本能的なものだったらしい。


 男の名は"フォン・ロウレイ"、ノーフェイスの()構成員。


 記憶が正しければ、"調査が得意な清掃員"と書かれていたはずだ。どういうつもりか知らないが、犯罪組織出身の男を招き入れていたらしい。


 理由を聞いた正巳に、マムがその悲しい経歴について教えてくれた。


 それは、ある意味予想通りで悲しい話だった。


 親に売られ、買われた組織に"人形"としてつくり上げられ、不意に生まれた揺らぎが以前と同じ生き方を拒むようになった。その結果"廃棄"される事になったが……。


 どうやらマムは、ノーフェイス関連の情報収集途中でフォンを見つけていたらしい。問題ないのかと聞いた正巳に、マムは頷いてこう付け加えていた。


 ――首輪がありますので。それがどの様な意味を持つのかまでは分からなかったが、きっと位置情報を監視とかその類の話だろう。


 何にしても、フォンを含めたこの六人がこの"事業"の肝だ。これまでの経歴はともかくこれから先、その力を十分に生かしてもらう必要があるだろう。


 開いた扉から入って来た二人を見ながら、今後の展開についてもう少し詰めておく事にした。



 ◇◆◇◆



 それから間もなく世界に衝撃が走った。


 噂はあったものの、一般に発売されるのはまだまだ先。そう言われていた筈の没入型VR機器、第二の世界とも言うべき"仮想現実"へのログインを可能とする製品が発表及び発売されたのだ。


 価格は国によって多少の差こそあったものの、凡そ二千万円前後で統一されていた。


 ちょっとした田舎では一軒家が買えてしまう値段だったが、ある意味正規価格で買えた者は幸運だっただろう。少し遅れて発表されたタイトル"MAMU"によって、その値段が跳ね上がる事になったのだ。


 "限りなく現実に近い非現実な世界"と銘打たれたこのゲームは、仮想現実大規模多人数オンライン――いわゆる"VRMMO"を、完全に再現していた。


 この年、"もう一人の自分を探す"と言う言葉が良く聞かれる事になるが、その頃には一台が数億円で取引されるほどになっていた。


 Type1と刻印されていたこの製品は、僅か一時間もしない内に全世界一万台を売り切った訳だが、いつ再販されるのかと言うのは常に上がる話題の一つだった。


 各地域には、販売の際"顔"となった担当者がいた。当然、話を聞こうと世界中のメディアはその姿を探したが、初めの発表を除けばその姿を確認する事が出来ずにいた。


 やがて、少し経って再販が発表される事になったが、その際ある条件が加えられた。


 その条件と言うのは、新しい通貨"アルマ"によって購入する事。アルマを入手するには"両替"する必要があったが、ネットを通して主に電子決済する事が出来た。


 きっと、新たに機体を購入したのが富裕者層だった事が大きく影響したのだろう。その後、段々とアルマに対応する店舗やサービスが増え始める事になった。


 そうして徐々に浸透し始めた新通貨"アルマ"だったが、その通貨と製品を通じて発行国であるハゴロモへの認知を進める事になった。


 結果として、世界でも名の知られた国の一つとなったが……名前は聞けども何処にあるか分からず、その名と共に語られるのは唯一無二の製品と技術、そしてサービス。


 きっと、ある事ない事妄想を掻き立てるには十分過ぎたのだろう。程なくして、本人たちの知らない所で様々な創作がされ始める事となった。


 創作を発表したグループは幾つかあったが、その内一つのグループは特に規模が大きく、自主制作した小説や漫画、そしてアニメや映画まで発表するほどだった。


 中には驚くべきクオリティの作品も幾つかあったが、不思議な事にその半数以上は製作者が伏せられていた。全て無料で配信され、あらゆる言語に翻訳されていたのも影響したのだろう。


 程なくして世界規模でのブームとなった。


 しかし、一方で、その"目的"に首を傾げる専門家も多かった。と言うのも、そのクオリティも内容も話題になるほどだったのに、全て無料だったのだ。


 その点に関しては、やがて有料のコンテンツが出て来た為、マーケティングの一種だったと結論付けられる事となったが……有料のコンテンツは全て、後乗りした名の知れた大手制作会社と言う疑問点はあった。


 ――その裏にいたのはとあるAIだったりしたのだが、その実は純粋な趣味だった。


 少しして、自分達が原作になった作品が話題になっていると聞いた正巳だったが、それを確認した際、嬉々として見せて来るマムに色々と察したのであった。


 結果的に、印象操作に一役買う事になったのもあって強く注意する事は出来なかったが、それ以降少しは自重するようにと言い含める事になった。


 そんなこんなあって、話題と共に莫大な経済効果を生んだ"ハゴロモ"は、自国が手掛けるVR事業のみで年間売上高が三十兆円強。国家予算を十二分に賄えるまでになっていた。


 ここまで伸びる事になった理由は、仮想世界での"居住地"とその管理を運営管理側で行った事、そしてその取得にはリアルマネーが必要である事が影響したのだろう。


 仮想空間においても、現実世界と同じように"仕事"をする事が出来るようにして、その通貨を"アルマ"に共通化させた事など――商取引の活性化も一因にあった。


 まさに、第二の現実となったのだ。


 その間、僅か二年足らずだったが……その話題の輪に少しづつ危険視する声が目立ち始めた時、国際社会は社会全体としてある方向(・・)へと舵を切り始めていた。


 ――いや、きっとこれは既定路線だったのだろう。各種メディアがハゴロモとその国の成り立ち、保有する技術とその危険性、それらある事ない事騒ぎ立て始めたのだ。


 裏にいたのは指導者層、各国政府の人間だったが、その目的はハゴロモの持つ技術や製品に関わる権益の確保だった。


 掲げられたのは、"不当な技術の占有"、"非人道的な労働酷使"、"同意のない個人情報の搾取と活用"など、事実と反する内容にどうとでも言いようのある事。いわゆるイチャモンだった。


 これが個人や一般企業であればどうと言う事は無かったが、言い出したのが集団の単位としては上から数えた方が早い、大きな(・・・)組織――国家が言い出したから質が悪かった。


 説明責任を果たせと言うある国の代表者が現れたかと思えば、それが瞬く間に国際社会としての"要求"へと変わって行った。そして遂に、弁明の場と期日が設定される事になったが……


 当然、そんな一方的な要求には応じるはずがなかった。


 期日を過ぎても反応のないハゴロモに、業を煮やした各国は"国際社会"としての対応として、"国際連合新興国調査対策部"を組織した。


 これを組織した中心国の真の目的は、主に二つあった。


 その一つは、実力行使を正当化させるための後ろ盾。これまで秘密裏に行っていた作戦を大々的に行った際、それを他国に非難させない為の対策。


 そして、もう一つがリソースの確保。大国の殆どが既に数年前から動いていたものの、その影すらつかめていなかった。それを打破する為の建前が"協力"だった。


 衛星を使い、無人機を使ってもその"領土"を発見する事が出来なかった為、昔からの方法"圧倒的人力(ローラー)作戦"を行う事にしたのだ。当然、発見したらそれを共有すると言う条件付きで。


 そんなこんなあって、網目状の盤面を塗りつぶすように人力で行う、人類史始まって以来の地球規模"もの探しゲーム"が始まったのであった。


 この方法は時間が掛かるものの、時間さえかければいつかは見つかる方法だった。


 その時が来る事を察知した正巳達は、対応する為の"準備"を着実に進めていたが……それほど間を置かず必要な防備システムをつくり上げ、それを強化していた。


 完成した防備は柔軟にして強固だったが、それは同時に慢心を生む事になった。そう、そのシステムの余りの完成度の高さに、すっかり忘れていたのだ。


 ――いつの日も、問題になるのは人為的過誤(ヒューマンエラー)だと言う事を。


 決定的な"その時"は静かに、そして確かに近づいていた。


一息に二年の"時飛ばし"をしましたが、混乱があるといけないので改めて。

次話から、二年経過した時点から始まりますので、そのつもりでよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前までは市民視点からは最近できたただの小さい国ってイメージでしたけど世界初にして人類の夢のひとつである仮想現実を唯一実現した国として今や(二年後)世界一ホットな国としてメディア、ネットで有…
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