表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

300/383

300話 海中回想

 あれから三か月が経過していた。


 この、短くも長い期間で変わった事、進んだ事が幾つかあったが、真っ先に取り上げるとすれば海の状態についてだろう。


 初めの頃、それこそ油膜の張ったゴミの掃き溜めの様な状態で、とてもではないが海中を覗き込む気にはなれなかった。それが、このたった三か月足らずで全くと言って良いほど別物。別の場所に移動したのではないかと疑いたくなる程の、変わり様を見せていた。


 目を向ければ澄んだ青。海面から覗き込めば、その先まで見通す事ができ、悠々と泳ぎまわる魚の姿まではっきりと見える。


 誰がどう見ても、劇的な変化と言えるはずだ。


 ここまで大きな改善を図れたのも、ひとえに今井さんが新たに開発し完成した新兵器のおかげだった。


 そう、それは何を隠そう"収集機(スイーパー)"。


 それも、これまで稼働してきた物をより特化させ、独自の学習知能を持たせた特別な分類であり、自動で働き、ゴミを集め、その過程で得た情報でもって、より効率的に清掃する方法を学び続ける。海を綺麗にするためだけの機械だ。


 この"収集機(スイーパー)"、いや、収集機(スイーパー)たちは、基本的に海を綺麗にすることを目的としていて、その範囲や制限を設定している訳ではない。おまけに、必要な機体数を独自で計算し、必要な限り作り続ける仕様になっている。


 これも、今井さんの「海が繋がっていて分けられない以上、範囲を決めても仕方ない。どこかの海が汚ければ回り回って僕らの海も汚れるんだから、いっその事全部綺麗にしてしまおう」という、冗談かどうかもわからない言葉が原因でもある訳だが、それは一先ず良いだろう。


 問題なのは、一向に止まる気配のない"収集機(スイーパー)"の生産ラインなのだ。このままでは、いつ作りすぎで資材が底をつくか分かったものではない。


 流石にそうなる前に止まるとは思うが、いよいよとなる前に一度確認をしておいた方が良いだろう。


「……いや、いっその事コレを一種のサービスとして、他国にビジネス展開するのも手かもしれないな」


 それこそ、海が汚れて困ってる国など腐るほどあるだろう。問題なのは、汚してる国ほどそこにお金をかけようとしない事であって、そもそも興味を持たない可能性すらある事だったりするのだが。


「まあ、それだってこの状況を見れば考えも変わるか」


 海を綺麗にしようと話が出た当初、泳げるようになるまで半年という話だった。それが、現時点で既に顔をつけるのに抵抗を感じないほど綺麗になったのだ。


 仮に汚染された海を持つ国でなくとも、美しい海で有名な国なんかが興味を持つ可能性は大いにあると思う。


「そうすれば、ある程度の費用は回収できるか……っと、そんな事より皆んなへのサプライズだな」


 頭の中で弾き始めていた皮算用に苦笑する。


「プールか、みんな楽しみにしてるみたいだもんな」


 新たに用意しているのは、海の中に作っている海中プール。


 プールはプールでも、屋内と屋外。それも海のような広く自然の中にある物とそうでない物とでは、全くの別なのだ。


 一応これもサプライズではあるのだが、サイズ的にもそうだが造っている場所がみんなの目につく場所という事もあって、ほぼ隠すことは不可能な状態だ。


 みんな知っているけども、こちらに配慮して知らないふりをしている。いわば、公然の秘密のような扱いになってしまっている。


「まあ、喜んでもらえれば、別にそれでも良いんだが」


 使用ルールなど決める事も多少残ってはいるが、早ければ一ヶ月後にでも解放できるだろう。みんなが知っている中、サプライズとして発表するのは少し恥ずかしい部分もあるが、それはその時、みんなの新鮮な驚き(えんぎ)に期待しようと思う。


 海に関してはこんな処だが、関連した部分で個々人の泳ぎの上達度合い(・・・・・)があった。


 恐らく、一番上達したのはミューだろう。元々泳げなかったミューだが、他の子供達に教える為かギリギリまで毎日練習していたし、合間を縫っては練習相手を頼まれたりもした。


 その甲斐あってかすっかり泳げるようになり、今では『泳げない子に泳ぎを教えるのはミューが一番』と言われるほどに上達していた。


 きっと、自分がそうだったように、泳げない子の"上手く行かない部分"が分かるのだろう。


 そんなこんなで、ミューはすっかり泳ぐのが得意になっていたが、加えて最近では今井さんの着ていた泳ぎを補助する"スーツ"を使う練習をしているらしかった。


 普段使わない筋肉を使うらしく、スーツを着て練習し始めた当初は帰って来ると手足をプルプルとさせていたが、それも最近では少なくなって来ている。その内、完全に使いこなす事だろう。


 そんな、"スーツ"を着たミューに生身で対抗するのはサナだった。初めから異様に泳げたサナではあったが、最近ではその泳ぎのレパートリーを増やすなどして、更に上達していた。


 そんな二人を中心に時々行われる"水泳競争"は、最近ではモニターで大々的に流されるほど白熱して来ている。その内賭場が開かれるのではないか、とそんな盛り上がりだ。


 他にも、アキラやハクエンから"水中組手"なる訓練への参加依頼があって、水中戦の手解きなどもした。これに関して言えば、ハク爺からある程度訓練を受けていたらしく感心する事になった。


 因みに、傭兵出身者の中で言えば一番スマートな泳ぎをするのはサクヤで、一番雑な泳ぎ方をするのはジロウだった。


 物は言いようだが、体力を大幅に使うはずの雑な泳ぎ(・・・・)で長時間それなりの速さで泳げるのは、ジロウの凄い処と言えなくもないだろう。


 上原先輩は……まぁ、察しの通りだ。この前「直線コースを泳ぎ切れた」と喜んでいたが、それが支えて貰っての事だと俺は知っている。


 そんなこんなで、ここ最近での中心ごとは"水泳"だった。


 ただ、当然の事ではあるが、泳いでいるばかりで何もしていなかった訳では無い。子供を中心に希望のあった大人たちも加え、日中の大半は基礎学習を行っていた。


 必要な仕事はローテーションで行っていて、その管理は全て登録された生体情報による"生体認証"によって行われていた。勿論、デジタル通貨"アルマ"での支払いも行っている。


 この"アルマ"は、ハゴロモの流通貨幣となる予定だ。


 現状では、国民への対価としての支払いと、食費や経費負担分の引き落としに用いている。その辺りは、必須項目として全住民に伝えているので問題は無いだろう。


 初め「助け出してもらった上、お金まで受け取れません」と言う人も多かった。しかし、社会と言うものは人と人とのやり取りの中で育まれ、成長して行くものだ。


 その点お金と言うモノは、良くも悪くも人と人との交流を活発化させる一つのきっかけになるだろう。つまり、それ自体が社会を成長させるため有効な、仕組みであり道具なのだ。


 皆には、その必要性を根気強く説く事で納得してもらった。


 因みに、一アルマはほぼ誤差なく一円と同等だ。基準を何処に設定するかが難しい処だったが、中心である三人が日本出身と言う事が決め手となった。


 今後は拠点を発展させながら、外貨を稼いで行く事になる。その為の準備(・・)としての"独自通貨"だったが……今の処、ミンのいるガムルス以外に、この"アルマ"での取引をしている国はない。


 恐らく、アブドラの国"グルハ"であれば交渉次第で可能だとは思うが、何にせよ強力な"呼び水"が必要だろう。例えば、近い将来生成できそうな"再生原料"とか、その他にもエネルギーや技術など……。


 そう言えば、マムが「宇宙空間もゴミで溢れています」と言っていた気がする。


 宇宙ゴミと言っても色々あるだろうが、過去廃棄された宇宙船を中心に希少金属や希少物質を集めれば、上手い事資源化できるかも知れない。


 綺麗になった海を泳いでいた正巳だったが、ふと視界の端から近づいて来る影があった。その影には小さなアームが付いていて、お腹部分には何やら収納スペースがあるみたいだった。


 どうやら、小型探索機が近づいて来たらしい。少し前であれば、汚れの為その姿さえ分からなかった筈だ。本当に、よくここまで綺麗になった物だと思う。


 近づいて来た探索機に寄ると、そのアームが動き収納から何かを取り出した。


『……?』


 差し出されたそれを手に取ると、四角い形をしている事が分かる。


 使い道が分からず首を傾げた正巳だったが、それを見てか目の前の探索機がアームをカシャカシャと動かし始めた。その動きを見るに、どうやら耳に近づけろと言いたいらしい。


 依然意味が分からなかったが、言う通り近づけた。すると、その四角かったのが形を変えたらしい。耳を覆う様にして取り付いていた。


『これは?』


 不思議に思った正巳だったが、直後聞こえて来た声に理解した。


「パパ、至急ご連絡したい事があります。お楽しみのところ申し訳ありませんが……」


 どうやら、これは水中用の通信機だったらしい。いつもより若干緊張感のあるマムの声に同意を返すと、海面へと向かうまでの間にその概要を確認した。


「――と言う事で、どうやらアブドラ国王延いてはグルハ国にて、少しばかり困った事になっているようです。加えて、先日どうや前拠点へと訪問があったようでして」


 どうやら、アブドラが会いたいと言っているらしい。


『そう言えば、拠点を移した事伝えてなかったな』


 思い出して苦笑した正巳だったが、見え始めた海面にその意識を向けた。


 僅か数メートルの合間には、真っ直ぐ射した光が揺らいでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ