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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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291話 海の大掃除

 一通り説明し終えると、黙って聞いていた今井が呟いた。


「なるほどね"海を泳ぎたい"か……。まぁ海の中心地(こんな場所)だからね、何処かでそんな話も出るんじゃないかとは思ってたよ。それに、正巳君の言う通り"心身の健康"の為には、適度な運動と自然との触れ合いが重要だろうしね」


 どうやら前もって、出て来るであろう"要望"として予想していたらしい。


「それじゃあ?」


 可能なのかと驚いた正巳に、少し得意げな顔をした今井が頷いた。


「うん、ある程度はね!」

ある程度(・・・・)と言うと?」


 どの程度なのかと聞いた正巳に、笑みを浮かべた今井が近くに浮いていたホログラム映像を使って説明を始めた。そこに映っていたのは、拠点を含めた付近一帯の簡易的な全体像だった。


「ほら、ここが今僕たちが居る研究所だね」


 そう言って指さしたのは、海面から二十メートほど下にある巨体な岩盤と、その岩に沿うように下へと延びる拠点の最下層にある箱型の部屋だ。


 こうして見ると、拠点が"アリの巣"のような構造をしている事がよく分かる。


「……この装置は?」


 そこに映っていた内、研究所の隣にあった装置のような物を指すと、あぁそうだったと頷いて説明をしてくれた。


「それは真水をつくる為の装置だね。今の処全部で五つあるんだけど、これも海面近くが汚かったのが理由でね、深い処に設置してなるべくごみ処理(・・・・)の手間を減らしているんだ」


 どうやら、これが水を生み出す装置だったらしい。装置の設置場所が分散されているのは、危機管理の一環だろう。感心して見ていると今井が続ける。


「初めにこのゴミ問題(・・・・)についてだけど、これは一旦置いておくよ。先ず考えるべきは、そもそも、水が綺麗になっても泳ぐには深すぎるし、そもそも泳げる子も少ないと言う事……だね?」


 これは、先程説明の中でも共有した内容だ。


 綾香を始めとして、そもそも泳ぐスキルのない子供も多いだろう。いくら海が綺麗になっても、泳げないのであれば何の意味もない。足の付かない場所では猶更だろう。


 頷いて同意を示した正巳だったが、若干視線を感じた。


 視線を感じた方を見ると、少しばかり頬を膨らませた綾香の姿が見えたが、きっと先程の話の中で綾香の名前を出したのが聞こえたのだろう。


 泳げない子供の例として挙げたのだが、失敗だったかも知れない。


「すまん……」


 小さく謝った正巳に、頬を少しだけぷくっと膨らませた後で息を吐いていた。少々デリケートなお年頃らしい。後でフォローを入れなくてはと思いながら、首を傾げた今井に先を促した。


 すると、気にした様子もなく頷くと続けた。


「ふむ、それで提案なんだけどね。新しく建設中のエリアに"プール"を入れたらどうかな。ここで水に慣れて貰って、その間に海のゴミ問題をどうにかすれば良いんじゃないかな」


 言いながら操作すると、そこに設計図が表示された。


 そこに表示されたのは、何処となくレジャー施設を思う浮かべる構造だったが、どうやらきちんと年齢に応じた深さなども考慮しているらしい。


 その、長さも深さも様々な様子を確認すると頷く。


「なるほど、これなら子供も大人も使えそうですね」


 ただ、気になる部分もあった。それは、エリア分けされた中でも特に深い場所だ。軽く見積もっても水深十メートル近くあった。


 正巳の視線に気が付いた今井が、嬉しそうに近寄る。


「ふふ、これはね水流を生み出したり、波も再現出来るようにもなっているんだ。これが結構面白くて、水流の種類によっては正しく泳がないと戻れなかったりするんだ。波に関しても同じで――」


 楽しそうに話す今井は、その後しばらく再現(・・)に成功したと言う"水流"と"波"について熱く語っていた。その技術的な凄さはいまいちよく分からなかったが、役立ちそうだと言う事だけはよく分かった。


 水での事故は"油断"と"焦り"と"知識不足"でより厄介な状況になる。人と言うのは初め慎重でも、慣れるにつれ油断する生き物だ。


 この機能はきっと、本当の水の怖さを知る為に十二分に役立つ事だろう。


「そこまで考えていたとは……」


 この機能、実は単なる今井の探求心の結果生まれたモノだった。しかし、そうとは知らない正巳は、純粋に学びと教訓が含まれた"今井設計"だと思い感心していた。


 その後も話は続いたが、途中で遮らなかったのが良かったのだろう。程なく新しい設備に関して十分に語り終え、満足そうにしていた。


 その様子にほっとしながら言った。


「これで一先ず、水に慣れる為の基本は問題ありませんね。あとはその先、つまり問題の海でという部分ですが……深さの問題はともかく、ゴミはどうしましょうか」


 そう言って聞くと、首を傾げて「深さの問題はどうにかなるのかい?」と聞き返して来た。そこで、それに頷くと「拠点から受け皿を伸ばすような形で、足場を海面から少し低い位置に作れば良いんじゃないですか?」と答えておいた。


 どうやら、それを拾ったマムが形にしてくれたらしい。


 拠点の図面に、そこから伸びた楕円形の皿が丁度、海面の少し下辺りに出るのが見えた。それを確認した今井だったが、その単純な解決方法に逆に驚いたらしかった。


 しばらくジッと見ていたが、やがて可笑しそうに笑っていた。


「ふふ、この発想は無かったなぁ」


 きっと何か、複雑な超技術で解決しようと考えていたのだろう。しかし、今回の必要を満たすのであれば、別にそこまで高度な事をする必要も無い。


 最悪、海の上で少し泳げて足が付けばそれで良いのだ。


「問題ありませんか?」

「うん、これで行こう」


 映し出された映像を見ると、何となく金魚すくいに使う薄く張った"掬い"にも見えた。金魚すくいでは逃がさないよう破けないように掬うが、これが破けては困るだろう。


 縁起でもない名前が付かないよう、下手な事を口走らないよう気を付けながら、本題に戻した。


「それで、本題のゴミですが……」


 表示が変わり、海に浮かんだゴミが映し出される。その種類は様々だったが、共通していたのは、そのどれもが自然に生まれる類のゴミではない点だった。


 中には劣化した白っぽい(くず)のような物や、茶色くなった塊のような物まであった。それらを確認した今井が、頭を掻きながら言う。


「いやぁ、こっちは結構大きめのプラスチック片だね。で、こっちはビニール袋の切れ端、こっちにあるのはペットボトルかぁ……。ほんと、こんな所まで漂って来てるなんて大変な問題だねぇ」


 どうやらこの拠点は、丁度水の流れで海中のゴミが運ばれてくる位置にあるらしい。今井の話を何の気なしに聞いていた正巳だったが、ふと気になった事があった。


「これだと、ろ過した飲料水の方にも混入(・・)したりするんじゃないですか?」


 何も、こんな大きなゴミがでは無い。


 この自然では分解されないゴミが削れて小さくなり、それが漂う間に更に小さくなり、最終的にろ過装置さえも通り抜ける極小サイズの分解されないゴミが誕生し、それが混入しないかと心配になったのだ。


 少し心配そうにする正巳の問いに、今井が答えた。


「海洋汚染、中でも"マイクロプラスチック"問題の事かな? それなら問題ないよ、ろ過装置にはそう言った人体に有害な物を分解する過程も備えているんだ」


 どうやら、心配するまでも無かったらしい。


 ほっと息を吐いた正巳に、少しばかり胸を張って続ける。


「それで、その一部の機構を応用して、今回のゴミ掃除に役立てようと思っているんだ。これがその機械たちさ! 共通しているのは、全てにろ過装置が付いている事くらいだけどね」


 そう言って表示したのは、色々な種類の機械たちだった。それら、大きな物から小さな物まで多種多様だったが、その大半が大きく口を開けたような見た目をしていた。


「これはどんな風に動くんですか?」


 潜水艇のような形をした一つを指すと、説明してくれる。


「これは、海の中を移動して常にゴミを集める"収集機(スイーパー)"だね。内蔵しているのは小型融合炉だから、エネルギー切れはしないんだ。帰って来るのはゴミが溜まったらかな。それにほら、小さな偵察機も幾つか備えていてね、これらが動き回ってゴミの多い場所を探して回るんだ」


 説明を聞いて驚いたが、この機体は想像の五倍くらい大きいらしい。


 横幅で五十メートル近くと聞いて驚いたが、流石にこの機体の建造はまだ済んでいないらしかった。他にも幾つか説明して貰ったが、分かりやすかったのは、拠点を取り囲むようにしている清掃機体の事だった。


「つまり、この拠点の周りを囲むようにして"網"を張ると言う事ですか?」


 それは、何か漁でも行うかのようだった。


 いつもお読み頂きありがとうございます。書き上げて即投稿した為、少し荒い部分があるかも知れません。ご容赦ください。文章でおかしな点等あればご指摘ください。確認後修正いたします。


 ……少し疲れたので寝ます_( _´ω`)_ペショ

 ――――

 PS.改稿を加えて長くなったため、次話に分けました。

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