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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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284話 破壊と強奪と報復

「捕捉されるまで……3,2,1、敵艦レーダーに反映されました」


 どうやら、これから一戦交えようとしている対象に捕捉(・・)されたらしい。


「良いのか?」


 捕捉されたと言う事は、それだけで戦闘における優位性を一つ失ったと言う事になる。今回こちらが行なおうとしているのは、他でもない"戦闘"で"攻撃"だ。少なくとも最善手ではない。


 疑問を向けた正巳に、マムが答える。


「これは報復ではありますが、見せしめ(・・・・)の意味合いの方が強いですので」


 なるほど、言われてみれば理解はできる。


 不意打ちをして倒すよりも、正面から撃破した方が見せしめとしては良いだろう。


 機体を揺らす振動が僅かにあって、ぐるりと見まわしたが……どうやら問題は無いらしい。楽しそうに話している面々と、いつの間にか逃げ出したシーズが見える。


 相変わらずボス吉はサナに抱えられていたが、シーズは綾香の足元に丸まっていた。


「それで、いつ実行するんだ?」


 いつ攻撃を加えるのかと思っていたが、くるりと顔を向けたマムが言った。


「終わりました」

「……へ?」


 一瞬理解できなかったが、どうやら攻撃が終わった(・・・・)と言う事らしい。慌てて外を確認するが、厚い雲以外には何も見えなかった。


「小型の自立型戦略機(ステレイトドローン)を使い撃破しました。既に報復の宣告はしている為、今後の対応は向こうの出かた次第となります。乗船している兵の練度次第ではありますが、死傷者は出ない見込みです」


 マムが言うのだからそうなのだろう。


「環境的には問題ないのか?」


 これが原子力艦であれば、二次三次的な問題が出て来るだろう。

 頷いたマムの言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。


「問題ありません。リチウムイオン式の蓄電艦ですし、緊急時の対策保護も行われているので、仮にそのまま廃棄されても環境には影響しないと思います」


 リチウム金属は"アルカリ金属"である為、水や塩水と激しく反応を起こして発火する。


 恐らく、そもそもの運用場所が海中である事を前提に、不測の事態に陥っても、周囲に存在する"大量の海水"で抑え込む事にでもなっているのだろう。


 確かに、完全に反応し切ってしまえば、それ以上どうと言う事は無いのだが……。


「因みにだが、与えた損害はどの程度になる?」


 質問した正巳に、胸を張ったマムが答えた。


「潜水艦で約640億、兵装を含めれば700億円弱かと。良い勉強代となった事でしょう」


 当然とでも言うかのような様子に苦笑したが、笑っていられるような金額でもないだろう。これで戦争にでもなったら問題だと思った。しかし、それはマムも承知していた様で……


「問題ないのか?」


 声を抑えつつ聞くと、頷いて手を伸ばして来る。


「それだけの違反(・・)がありましたので、何か言いたくても表立っては言えないでしょうね。それに、他にも同型の艦が三十一艦あるので、もう少し沈めても良いくらいです」


 フンスと息を吐くのに「やめておけと」返しながら、少し考えた。


 きっと、ちょっかいを出して来たと言うのは、マムなりの濁し方なのだろう。潜水艦一隻沈めるだけの何かがあったと言うならば、開戦レベルの事件があったとしか思えない。


 マムの言う通り、今回の報復でその"ちょっかい"は止まるだろう。それはそれで良いのだが、それ以外――まったく関係のない部分に、何か影響が出て来ないかが心配だった。


「その辺りは追々だな……」

「パパ?」


 両手を開いて向けてくるのを抱え上げると、聞いた。


「いや、あとどれ位で着く?」

「到着まででしたら、残り五十三分ほどです」


 どうやら、到着まではもう少しかかるらしい。首を傾げて、「他に聞きたい事があるのでは?」と続けるマムに苦笑すると、着くまでの間の何処かで確認する事にした。


 その後、超高高度まで上昇した機体が、窓の外に大気圏と宇宙空間との分かれ目を映し始めた。どうやら、この機体は通常の旅客機が飛ぶ遥か上空を移動しているらしい。


「これは、何処を飛んでるんだ?」

「成層圏と中間圏のちょうど間くらいです」


「と言う事は、地上からだいたい50㎞前後の位置か……」

「はい、ここから拠点まで真っ直ぐに滑空して行きます」


 窓の外には、青と白のマーブルが美しく見えていた。


 普通に暮らしていても、そうそう見る事の無い光景だ。年齢関係なくすっかり夢中になったらしい一同と、そちらに向けられた意識を確認すると少し移動した。


「よろしいのですか?」


 その様子から、これがマムからのサプライズの一つだったらしいと気が付いた。きっと、正巳が気にしていた"追い出された意識が根付く事"に配慮したのだろう。


 デモで集まった人々の事を、"見送ってくれる人たち"だとすり替えたのには、多少無理があったかも知れない。しかし、この光景を見ればそんな小さな事は吹き飛ぶだろう。


 そのくらいのインパクトがある。


 見なくても良いのかと聞いて来るマムに、頷くと答えた。


「ああ、俺に遠慮して見れない人が居るといけないからな。それに、今回でなくてもまた次があるだろうからな。その時の楽しみに取っておくよ」


 そう言って、もう少し距離を取る為に歩き始めた。


「マムは、パパとマスターにプレゼントをと……ふぅ。失敗でしたね」


 背後で小さく聞こえて来たが、それに応える事は出来なかった。取り敢えず今井さんは見ているのだ。マムには、それで満足して貰うほかないだろう。


 移動して来た正巳は、振り返ると言った。


「それじゃあ詳しい経緯を教えて貰おうか」

「経緯、仕事の話ですか。仕方ないですね……」


 残念そうにしながら近づいて来たマムは、先程避けていた部分の話をし始めた。


「実は、少し前からちょっかいは受けていたんです。しかし、昨夜決定的な事態を受けまして、今回の処置を実行しました。具体的に言うと、私たちがガムルスに置いていた治安維持機体の破壊(・・)強奪(・・)。これが一つ目です」


 それを聞いて感じたのは、純粋な驚きだった。


「……ほう、アレを壊したのか」


 ガムルスに置いて来たのは、マムのデータベースにアクセスできる"連携機体"だ。作りは頑丈で、いざと言う時は"要人保護"も可能な機体なのだ。


 通常の対戦車ミサイル程度であれば、何発かは持ち堪えるだろう。どうやって破壊したのか不思議に思ったが、続けたマムになるほどと納得した。


「どうやらこれを行ったのは、"人道支援"名目で派遣されていた外部部隊のようです。通信が途絶えた事とその後受信した情報から、きっと電波を通さない特殊な空間を用意し、そこで無理やり破壊したのでしょう」


 そこまで下準備しての行動なら、計画性を以って行った"作戦"に違いないだろう。そこまでして手に入れたいものと言ったら、一つしか考えられない。


「目的は技術(テクノロジー)か?」


 半ば断定するように聞くと、頷いて答えがある。


「はい、十中八九間違いないかと思います。その証拠に、分解された部品にアクセスして来たのは、軍事施設のスーパーコンピューターでしたので。生憎、私の部品は単体でも多くの役割をこなせるので、先方にとっては残念な結果だったでしょうが……」


 どうやら、こちらの技術を盗もうとしたらしい。それ自体はある意味当然で、これまで繰り返されて来た事に過ぎないだろう。言ってしまえば、盗られる方が悪い――の世界なのだ。


 まぁマムがいる限り、その勝負に負ける事はあり得ないが。


 伺うようにしているマムに苦笑しかけた正巳だったが、どうにか抑えた。今は最後まで確認するのが先だろう。どうやら、マムは怒られるのではと心配しているようだが、それは全くの逆で勘違いだ。


 まず間違いなく、マムがいなければこの事実は分からなかった。きっと、壊された機体に関しても『行方が分からなくなった機体の一つ』と処理する他なかったに違いない。


 褒めさえすれ、怒る理由など存在しない。


「続けてくれ」


 一つ目と言ったので続きがあると思ったが、正しかったらしい。


「二つ目は、国際司法の場で裁判待ちをしているガムルスの()首脳陣達、これを釈放するようにと圧力をかける存在の確認です。少なくない数の国家が圧力をかけていて、実際にそれが通る予測です」


 どうやら、国連自体既に腐っているみたいだ。


 ――いや、きっと正しい人も少なからず居るのだろう。それでも、現状でこうした"不当な圧力"が効いてしまうのは、間違いなく権力を持つ側に"害悪"となる存在が入り込んでいるからだ。


顔無し(ノーフェイス)か?」

「尻尾は掴めませんでしたが、恐らくは」


 これまで幾度となく絡まって来た因縁の相手だ。その大半がロクでもない、クソみたいな闇に絡んでいた。きっと今後も、手を引いて大人しく善良に――なんて事は望めないだろう。


「そうか……」


 小さく息を吐くと目を閉じる。


 現在世界を支配しその枠を形成する者達を"古き支配者(オールドルーラー)"と呼ぶならば、その枠からはみ出てしまった正巳達は"枠外の存在(イレギュラー)"と言った処だろう。


 きっとこれは、そんな相容れない両者の、どちらかが淘汰され消え去るまで続く"生存"をかけた闘いなのだ。


 もしそれが、平安を手に入れる為の大切な欠片(ピース)なのだとしたら、負ける訳には行かない。これは自分一人の命を背負った事ではないのだ。


 正巳が背負った子供たちの、一緒に来た人々への"命の責任"がある。


「奪いに来るなら"対価"を貰わないとな、つり合うだけのな……」


 その呟きを聞いたのはマム一人だけだったが、まさかこの呟きが先の未来に影響するなどとは思わなかった。その後、下降し始めた機体に足を進めると、迎えに来た今井と途中で合流した。


 特別言葉を交わす事は無かったが、一言だけ呟いたのが聞こえた。


「地球は綺麗だったよ。とてもね」


 それに対して、心の中で「次は二人で見ましょう」と返した。機体は下降を続けていたが、やがてマムのアナウンスと共に僅かな浮遊感を生じ始めていた。


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