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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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274話 狭間にある闇

 その知らせは直ぐに届いた。


 知らせを持って来たのはマムだったが、その十分後には首相からも直接連絡があった。どうやら、移動途中の車内から掛けているらしい。警護の姿も見える。


 軽い挨拶をしてすぐ本題に入った。


「つい先ほど爆破テロがありました。詳細に関しては確認途中ですが……恐らく、そちらへ多大な迷惑が行くことになると思います。――申し訳ない」


 きっと、忙しい合間をぬって連絡して来たのだろう。普段より若干大きく見開かれ充血した目と、額に滲んだ脂汗とに事態の深刻さを感じた。


 あまり時間が無い事は分かっていたので、端的に答える。


「こちらでも把握済みです」


 即答した事に驚いた様子だったが、直ぐに思い出したように納得すると言った。


「なるほど……。その様子ですと、私共より情報がありそうですね。差し支えなければ教えて頂けますか? この後、緊急記者会見を控えていまして……」


 公表するにしろしないにしろ、状況を把握しておきたいのだろう。その気持ちはよく分かるが、情報と言うのは一種の資産で"武器(カード)"なのだ。本来、そう簡単に渡して良いものではない。


 しかし、今回首相はこの忙しい合間を縫って連絡をして来た。


 これは、誠実な対応として評価(・・)するべき事だろう。こちらにはマムがいる為、意味のあるなしで言えば無かっただろうが……。


 少し考えて頷くと、条件付きで情報を渡す事にした。


「分かりました。ただ一点だけ、これは私と首相との間の約束として"条件"を出させて頂きます。それでよろしければ、私の方で今回掴んでいる情報をお渡しします」


 つばを飲み込むのが見えたが、直ぐに答えがあった。


「条件を教えて頂ければ……」


 きっと、とんでもない事を要求するとでも思っているのだろう。


 緊張した様子の首相に苦笑すると言った。


「こちらで求めるのは、今後日本政府は"中立の立場でいる事"です」


 やはり意外だったらしい。


「それは……なるほど、了解しました。私の立場がある内は約束しましょう」


 一瞬呆気にとられた様に首を傾げたが、何を考えたのか頷いていた。


 条件と言っても、破ろうと思えばどうとでも出来てしまう約束ではある。それこそ、自分が首相と言う立場から降り、代わりに自分の派閥から代役を立てれば済んでしまうのだ。


 だが、これで良かった。この先どうなるかは分からないが、首相の対応から今後、データとして見えない部分の物事に関しても判断する事が出来るだろう。


 それに、現在ハゴロモが置かれた状況を考えれば、潜在的にであっても敵は減らしておきたい処だった。首相が頷いたので、それに返す言葉としてひと言口にすると言った。


「お互いの未来のために、信じます。――マム」


 正巳の言葉を受けたマムが、こくりと頷いて説明を始めた。


「負傷者十三名、うち重傷者四名、軽傷者九名、実行犯は即死。犯人は、一か月前に入国した二十八歳の男と確認済み。確認できるデータから、入国してすぐ準備を始めていた事、原料調達先が日用用品販売店であった事が分かっています。なお、今回の件で調査した結果、入国前につながりのあった人物が複数人入国しているのが確認できており――」


 この後、対応で忙しくなる事は確実だろう。


 マムの話を聞きながら、一点だけ伝えていない情報がある事に気付いたが、その意図と理由については十分理解できたので、特に指摘する事はしなかった。


 マムが外したのは、男の所属する組織とその経歴だった。


「情報感謝する」


 モニターの奥で頭を下げるのに応えると、降りて行く首相を見送った。


 情報を伏せた理由は単純で、その情報がもたらすのは"利益"でない事が確実だったからだ。それ(・・)の正体も知らずに触れてしまえば、きっと思わぬ事態になってしまうだろう。


顔無し(ノーフェイス)か、いったい何処まで根を下ろしているんだかな」


 過去少なからず因縁のある組織だったが、古いだけあってアナログな部分が多いらしかった。お陰で、完全に全体像を捉える事が出来ていなかった。


 だが、少なくとも、現代化された一番重要な部分は既に壊滅させている。組織を弱体化させた事は確かだが、それでも完全に潰さない限りは意味がないだろう。


「幼少期に捜索願が出され、見つかったと思ったらこれだもんな……」


 今回の実行犯は、恐らく幼少期に人攫いにあって、売られた先が犯罪組織だったのだろう。その経歴から、まず間違いなく"養成所"を出ている事は確定している。


 どうやら、実の両親との再会を目的に入国した様だったが、本人はともかく親の気持ちを考えるとやるせなくなってくる。きっと、激怒するとかそう言った次元の感情ではないだろう。


 何にせよ、全ての元凶――人攫いを実行した犯人――いや、組織が存在するわけだが。その内の一人で、重要な位置にいるであろう男は分かっていた。


「必ず捕らえないとな……」


 そもそもの原因であって、未だに捕らえていない男――"スズヤ"を思い浮かべていた。実は、以前追跡をしていたのだが、いつの間にか偽物(ダミー)にすり替わっていたのだ。


 何処にいるのか分かっていないのが、非常にもどかしい。


「落ち着かせてから行くか」


 感情が昂った時すると良いらしい"ハク爺のススメ"を思い出すと、両腕を床に付けて腕立て伏せを始めた。負荷だけで考えれば、更に激しい方法もあったが、目的は"溜飲を下げる事"なのだ。これくらいでちょうど良い。


 途中、マムに背中乗って負荷をかけるよう頼んだが、結局十分以上続けていた。


 その後、部屋を出ようとした正巳だったが……


「これ以上煽るような"追い打ち"が無ければ良いのですが」


 ぽつりと呟いたマムの言葉が、しばらく頭を離れなかった。



 ◇◆



 目の前には、険しい表情を浮かべた先輩がいる。


「……何してるんですか?」


 苦笑しながら聞くと、力の入った眉をしかめたまま言った。


「何って、みりゃ分かるだろっ……くうぅ!」


 ギリギリな様子の先輩とは打って変わって、ニコニコと楽しそうにしているサナも続く。


「あのね、すもうしてるなの!」

「あぁ腕相撲(・・・)な、それは分かる」


 朝食を食べてすぐ、「仕事なの」と出て行ったサナが、こんな所で何をしているのかと思ったが、どうやら今井さん関連の仕事だったらしい。


「おや、正巳君じゃないか。どうしたんだい?」


 歩いて来た今井さんと、その後ろで荷物持ちをするデウに目を向けた。デウの手には、幾つかの"部品"が持たれている。


「いえ、少し共有事項がありまして……で、それは何ですか?」


 正巳の問いに答えようとした今井だったが、それより早く"結果"が出た。


『"バンッ!"』


 見ると、どうにか持ちこたえていた先輩の腕が、台座に着いている。


「勝ったなの~!」

「くうぅぅ……分かってはいたけど、悔しいな!」


 悔しがる上原に、手に持っていた部品を差し出しながら今井が言った。


「それじゃあ、これを着けてみてくれ」

「良いですけど、部長……これ腕吹き飛んだりしませんよね?」


 不安そうな顔を見るに、それが冗談で言っている訳では無いと分かる。


「まさか今井さん……」


 恐る恐る目を向けた正巳に、口元をヒクヒクとさせた今井が答える。


「あのねぇ、流石に安全は配慮してるさ。命の危険は無いから……ない筈だから大丈夫だよ!」


 勢いよく言った今井だったが、それを聞いた正巳は余計に不安になった。そもそも、腕の心配をしていた筈なのに、いつの間にか命云々の話になっている。


「……なるほど、であれば大丈夫ですね。先輩、そういう事で」


 余計な事を言えば、正巳が実験台になる事は確実だろう。納得したふりをして頷くと、観念するように先輩の肩に手を置いた。


「ちょ、おいっ!?」


 慌てる様子の上原だったが、その様子を見ていたサナが言った。


「大丈夫なの、次は本気なの!」

「……つっ、お~い正巳ぃ~」


 助けてくれと腕を伸ばしてくるが、それをかわすと、機嫌良さそうにしている今井に声を掛ける事にした。そもそも、誰が一番酷いと言えば、それはデウかもしれない。


 護衛であるはずのデウだったが、今は淡々と持って来た部品を先輩の体に装着していた。


「また実験ですか?」


 そう言って声を掛けると、嬉しそうに頷く。


「うん、毎日実験さ!」


 ……どうやら、毎日何かしらの実験をしているらしい。


「そうですか、それで今日のは何の実験ですか?」


 凡その予測は付くが、敢えて聞いておく。


「今日は、小型化した"強化外骨格"のテストなんだ。こう、義手や義足と違って、既にある手足の動きをサポートするとなると、これはこれで難しくてね」


「なるほど、それでテスト(・・・)なんですね……」


 きっと、これは飽くまでプロトタイプであって、これから更に実用性を考慮しての"改良"を加えるのだろう。その為には、ある程度頑丈な実験台が必要な訳で――


『"バッッゴーン!"』


 盛大な音を立てた方を見ると、そこには体を反らせた先輩が転がっていた。


「どうやら、強度不足だったみたいだね。やっぱり、構造を単純化させると強度に問題が出て来るね。ふむ、後で皆で話し合わないとね」


 課題だと呟きながらも、その横顔は何処か嬉しそうだった。


 ロイス教授を始めとした研究者には、それぞれ研究ラボを用意していたが……きっと、新しく加わった仲間たちと"議論"する話題が出来たと嬉しいのだろう。


 研究者と言えば、未だに100億円の技術大会(ハックコンテスト)受賞者の一人が見つかっていなかった。しかし、現在マムが探している途中なのだ。(じき)に見つかるだろう。


 勝負に勝ったと嬉しそうに跳ねているサナを抱え上げると、頭を擦りながら起きて来た先輩と、デウから破損した部品を回収する今井さんを見て言った。


「先程、ついに日本国内で爆破テロがありました」


 驚いたのは二人とも同じだったが、程度の違いはあった。


「大丈夫なのか!?」

「重傷者多数、下手すれば死傷者も……」


 心配そうにする上原に、今井が言う。


「大丈夫さ、即死でなければどうにでもなる」


 きっと、その頭には"治療薬"の事があるのだろう。今回の爆破テロは、確かに正巳達と無関係とは言えないだろう。場合によって手を差し伸べるのは賛成だ。しかし――


「ええ、ですが、飽くまでも"知られないように"する必要がありますけどね」


 欠損した部位を再生させるなど、普通(・・)ではない。


 それが知られずに行われれば、まだ良いかも知れない。それこそ、幸運だったとそれで終わるだろう。しかし、それがもし人為的な方法で行われた"奇跡"だったらどうなるだろう。


 正巳の言葉に、唇を噛んだ先輩が言った。


「そうだな、でないと最悪"実験体(モルモット)"だもんな……」


 自分でそれに近い事を体験し、自分の目でこの世界の裏を見たからこその実感だったのだろう。それは正に、日常の狭間に存在する"闇"そのものだった。


 同意した上原に頷いて返すと、本題に入る事にした。


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