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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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251話 白の海に揺られ

新章は、前話より"三か月後"から始まります。三か月の間にあった出来事は、ストーリー内でフォローして行きますので……そのつもりで、よろしくお願いいたします。

 ぼんやりとした世界に、フワフワと綿毛が舞っている。


 何となく掴むと、ほんの数舜留まった後で消えてしまった。


 不思議な事に、掴むと消えてしまう綿毛も、触れずにいると積もって消えなかった。


 何処からか舞って来た綿毛が、ゆっくりと降り積もって行く。


 その様子を眺めながらぼうっとしていたが、気が付くと一面真っ白な"海"になっていた。


 ふわふわと揺らめく海、頭から飛び込めば心地よい気がする。


 そんな事を考えたからだろうか、自然と体が動いていた。


 足を揃え、体重を前へとかけ始める。


 自然と倒れ始めた体に、無意識のうちに姿勢を保とうと踏ん張っていた。


 しかし、ある地点でその支えも外れ――ゆっくりと視界が回り始める。


 衝撃に備えた正巳だったが、幾ら待とうともその瞬間は来なかった。


 恐るおそる目を開くと、フワフワした感触と共に白い毛が目に入って来る。


 てっきり、綿毛の海に入ったのだと思ったが……


「……う、ううん?」


 何となく、先ほど迄とは何かが違う気がする。


 違和感を覚えた正巳だったが、頬に触れる感触が心地よく暫くそのままでいた。


 ◇◆


 ――10分後。


「ふぁ~よく寝たな……」


 体を起こすと、横に寝る白い猫へと視線を動かす。


 ここ最近毎日だが、寝ている間に潜り込んでいたらしい。抱き心地も良いし特に寝相が悪い訳でもないのだが、問題はそれに伴って増える同伴者だった。


「やっぱり、お前達も一緒だよなぁ」


 それなりに大きなベッドなのだが、一人と二匹のせいで少しばかり小さく感じた。


 横に添い寝するボス吉は、丁度抱き枕に良いような大きさだし、その下でボス吉の腰を掴んでいるシーズは、元から人の子ほどの大きさがあった。おまけに――


「サナ、お前はサクヤと一緒だったんじゃ……」


 昨日していた二人の会話を思い出しながら、規則的に呼吸を繰り返すサナを見た。


 相変わらず天使の様な寝顔だったが、その半分はシーズの身体に埋まっている。丁度、ボス吉からサナまでがぐるりと半円状になっているが、全体的にモフモフ率が高い。


 真横に並んだボス吉に手をうずめる。


 しばらく触っていると、薄目を開けたボス吉がのそりと体を起こした。


「にゃお~」

「ああ、おはよう」


 飽くまで触れられる距離に居るボス吉に、こちらへの気遣いを感じる。体を伸ばしたそうだったので手を離すと、小さく頭を垂れてから大きく伸びをした。


 ボス吉の腰に掴まっていた為だろう、シーズが布団の端から落ちた。


「にゃズッ!?」


 変な声を上げたシーズだが、その下半身はサナにがっちりと掴まれていた。


「にゃお~」

「ナァー?」


 床に下りたボス吉が、ベッドから半分はみ出したシーズと何やら会話している。どうやらシーズも目が覚めたらしかったが、サナのホールドで抜け出せないみたいだ。


 何を会話しているかは分からなかったが、恐らく我慢しろとでも話しているのだろう。そのだらんと伸びたのが何となく不憫で、手助けする事にした。


「朝だぞサナ。ほら、ハンバーガーもあるぞ」


 体を揺らしても反応が無かったが、魔法の言葉を(ささや)くと効果てきめんだった。目を薄っすらと開けると、一度微笑んでから目を擦っている。


「はんばーがー……」

「そうだぞ、今日は大人の飲み物にも挑戦するか?」


 そう言って頭を撫でると、頷いてから口を開く。


「する! ……あのね」

「うん?」


 どうしたのかと首を傾げた処に、両手を広げ飛びついて来た。


「おはようなの!」


 難なく受け止めた正巳だったが、視界の端でシーズが落ちるのが見えた。


「……」

「なおーん」


 さすが猫だ、受け身でも取ったのだろう。何事もなかったかのように優雅に歩くシーズに感心していたが、我に返ると呟いた。


「不味いな、そろそろ出ないと間に合わない」


 のんびりしたくなる雰囲気だったが、そうも言っていられなかった。


 ――五分後。


 急いで着替えを済ませた二人と二匹は、程なく部屋を出発していた。


「おはようございます、パパ!」


 どうやら、部屋の外で待っていたらしい。


 人間としか思えないような見た目をしたマムが、手を広げて近づいて来た。それを軽く受け流しながら、応えると同時に聞いた。


「おはよう。それで、今度は映画か? アニメか? それとも――」


 ここひと月ほど、人間に近い機体(からだ)を得たマムは、色々なシチュエーションの"再現"をしているらしかった。その情報元は、多くの場合創作された物だったので、こんな風にチープな……。


「あ、パパ酷いです!」

「わかった分かった、ほら続きやるならやってくれ」


 苦笑した正巳だったが、それに頷いたマムがはじめた(・・・・)


 少し先まで歩いて行くと、壁にもたれ掛かり……、数秒おいてこちらを見ると笑顔を浮かべる。


「あ、パパ~!」


 駆け寄って来たマムを受け止めながら、欲しいのであろうセリフを口にする。


「待ったか?」


 どうやら、予測は当たっていたらしい。笑顔を浮かべ、首を振ったマムが言う。


「いえ、今来たところ!」


 それに苦笑しながら頷く。


「それじゃあ、行こうか……」

「はい、パパ!」


 無事茶番劇を終えると、不思議そうな顔でぽかんと見ているサナを呼んだ。


「ほら、サナも行くぞ!」

「お兄ちゃんどうしたの?」


 正巳の言葉に、首を傾げながら駆け寄って来る。

 それに苦笑すると、話題を逸らす事にした。


「何でもないさ」


 サナにまで変な趣味が移っても困る。


「それよりサナ、今日は何味の"ハンバーガー"にするんだ?」

「ん~とね、ミューちゃんと同じにするなの!」


 元気に答えるサナに頷きながら、隣を歩くマムに聞いた。


「ミューは何処に居るんだ?」

「はい。今朝パパの一時間ほど前に起き、朝の訓練をこなし、現在は朝食の準備中かと」


 相変わらず働き者だ。


 マムには、ミューが無理していたら教えて欲しいと伝えていた。今の処報告が無いので、問題は無いのだろうが……あまりマムに頼り過ぎず、時々労ってやると良いかも知れない。


 その後、廊下を歩きながら他のメンバーの事を確認していた。


 どうやら、ハク爺の傭兵団は既に起きて朝の訓練を始めているらしかった。


 他に、給仕のメンバーの内でも当番の子達、眠りの浅い"保護中"の人々、それに綾香やユミル、それに今井さんも起きているらしい。


 綾香たちはともかく、今井さんがこの時間に起きていると言う事は……


「なあ、もしかして今井さんは徹夜か?」


 早く寝る事など殆どない今井さんだ。てっきり、いつも通りの徹夜かと思ったが、どうやら違ったらしい。マムがニコリとして答えた。


「マスターでしたら……昨夜はぐっすり寝て、今朝は早起きしていました」


 珍しいなと思ったが、偶にはそういう日もあるだろう。頷いた正巳は、上原先輩から通信が入ったと聞いて、着くまでの間に用を済ませてしまう事にした。


「パパ、繋がってます」

「ありがとう。もしもし、先輩ですか?」


 その後、移動の時間を"物資購入用予算"の話で潰した正巳は、やがて見えて来たドアに言った。


「――と言う事で、一時的な食糧確保については、伝えた予算内で十分に使って下さい」


 現在外出中だが、先輩の事だ上手い事するだろう。


「分かった。予算は十分だ、何かあれば追って連絡する!」


 先輩の声に頷くと、通信が切れたのを確認して言った。


「マム、有事の際は先輩の安全を優先してくれ」


 頷いたマムに満足すると、ドアの前で待っていた二人と二匹に言った。


「待たせたな、それじゃあ入って朝食にするか」


 正巳の言葉と同時にドアが開いた。


 先に入れば良いものを、律義に待っている二匹に苦笑すると呟いた。


「さあ、入ろう……親父も待ってるだろうしな」


 部屋へと一歩入ると、リビングに居るであろう元へと歩き始めた。


 初めて会った時緊張していたサナも、今ではすっかり慣れたみたいだ。その足取りが軽いのを見て、何となく嬉しい気持ちになったのだった。

お待たせしました、新章再開です!

三か月後から描く物語、お楽しみいただけると幸いです。評価、感想、レビューなど励みになります。誤字報告して下さる方、本当にいつも助かっております、感謝!

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