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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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241話 独立宣言

 目の前で扉の警備をしている男が、若干(こうべ)を垂れると扉を開き始める。


 どうやら半自動の扉らしく、重厚感のある割にスムーズな開閉が可能らしい。


 開き始めた扉の先には、光で溢れる会場が見える。


「うん?」


 一歩踏み出そうとした所で、服の裾を引く感覚に振り返る。


「どうした?」

「一撃必殺なの!」


 満面の笑みで言うサナに、思わず苦笑した。


「あぁ、そうだな」


 別に、この中で何か戦闘行為をする訳では無かったが、考えようでは確かに戦闘と同じようなものかも知れない。


 サナに応えながらその頭を一つ撫でると、そのまま横のマム、その後ろのカイル、ミンとテン、サクヤとジロウへと視線を回した。


 力付けるつもりで視線を向けた正巳だったが、返って来た視線に、却って自分が力を受けた事に気が付いた。其々の視線には、信頼と決意、希望と高揚があった。


 もしかしたら、サナはこれを伝えたかったのかも知れない。


「まったく、出来過ぎた子だ……」


 呟いた後、深呼吸を一つすると一歩踏み出した。


 その一歩は、薄明りの廊下から光溢れる舞台へと進む一歩であると共に、これ迄既に存在しながらもその姿を隠していた"新生国"を世界に知らしめるものだった。


 どうやらこの扉から通じる通路は、壇上へと一直線に続いているらしく、左右に扇状に広がった会場に在って、その中心を歩くものだった。


 左右に広く存在するのは、世界各国の代表者が座る場であり、その一つには見知った顔もあった。


「我が友よ!」

「ああ、アブドラか」


 通路横に居たアブドラが話しかけて来たので、簡単に言葉を交わす事にした。


「うむ、後で渡すものがあるぞ!」

「分かった」


 世界各国の代表者達が見守る中なのだ。


 長話をするのは、その分だけその国との友好度を示す事になる。

 現時点で不用意に情報を晒すのは、外交戦略上良くないだろう。


 正巳の考えを知ってか知らずか、苦笑したアブドラが握手だけ求めると、送り出してくれた。


「バシッと決めるんだぞ、友よ!」

「そのつもりだ」


 何処か嬉しそうなアブドラに、正巳は考えていた。


 恐らく、この会の後アブドラの国"グルハ王国"は、正巳達"ハゴロモ"の友好国として世界に認知される事になる。予め宣戦布告の件を伝えるのは論外だったが、もし何らかの影響がありそうだったら、その分は補填しよう。


 その後、最前列に座る日本の首相手前まで進んでいた正巳だったが、ふと視界に入って来た姿があった。それは、何となく懐かしくも忘れられない顔だった。


「……ロウか」


 それは、かれこれ一年近く前にデウと同じ"衛兵"として、ガムルスで働いていた同じ男だった。ロウには、かつて裏切られた過去があったが、何となく憎むに憎めないでいた。


 ロウがガムルスの代表として参加している事にも驚いたが、それよりそもそもガムルスにその"席"があった事にも驚いていた。


 確か、ガムルスはその国営事業(武器製造)とその取引先(テロ組織)を問題視され、国連への加盟を拒否されていた筈だ。それなのに、この場に居ると言う事は……


「マム――」


 振り向かずに、シート型通信装置で話しかける。すると、どうやら既に想定済みだったらしく、するすると返事が返って来た。


『はい。ご想像の通り、ガムルスには参加しなくてはいけない"必要"を迫り、国連側には、今回に限りガムルスの参加を承諾させました。尚、参加者が"元首"でないのは、国外での拘束含む何らかの事態を恐れたのでしょう。ただ、代表として参加している以上、その立場は有効ですので、ご安心ください』


 ……なるほど、つまりロウはガムルスによって遣わされた、害されても構わない"身代わり人形(マリオネット)"と言う事だろう。


 一瞬、正巳が向けた視線とロウの視線が合った気がしたが、その直後話しかけて来た首相の言葉で、そちらに視線を向けている訳にはいかなくなった。


「いよいよですね、大丈夫です。私達もサポートをしますので」

「ありがとうございます、首相……」


 首相とも握手を交わしたが、その時にはこちらに向けられていた視線は既に、逸れされていた様だった。もう少し視線を合わせれば、分かる事もあったかも知れないのだが……。


 どうやら日本の立場は、先日面会した時と一切変わらない"友好国"としての立場らしい。


 首相の言葉と態度からは、何方かと言うと"支援国"としての立場を取りたいようだが、我々には今の処"支援"は必要ないだろう。


 ……いや、"必要ない"訳では無いのだが、それもこれも全ては、今回の会が終わった後での話。宣戦布告した後、各国がどの様な態度を取るか――と言う話になるのだ。


「一先ずこの辺りで」


 話を終えようとした正巳だったが、流石にそうはいかなかったらしい。


「あの、一つだけ……」

「何でしょうか?」


 首相の言葉と視線に、何となくその先を察しながら聞くと、半ば予想通りの答えが返って来た。


「あの、ミンやその他の人達は分かりますが、ここにカイルさんが居るのは一体どういう……」


 どうやら、流石にアブドラと同じようにやり過ごす事は出来なかったらしい。


 そもそも、"独立宣言"に来たこの場所に、元とは言え他国の外交幹部が同行しているのは異常だろう。そして、そこに違和感を感じると、一気に違和感は増幅して行き――


「カイルも"仲間"ですから。それでは、そろそろ時間ですので……」

「あっ、ちょっと――」


 首相の取り乱した声が小さく聞こえたが、そのまま壇上へと上がって行った。他に何処にも向かう先が無かったからの行動だったが、どうやら問題なかったらしい。


 やってしまったかと密かに確認すると、視界の端で首相がカイルに一言声を掛け、ミンには微笑んでいるのが見えた。どうやら、首相も流石に正巳以外に根掘り葉掘りするつもりはないらしい。


 その様子に安堵しながら、自分はここからどうしようかと思った。


 ――実は、前もってそのルートを伝える事になっていたのだが、その役割を担っていた通訳にして橋渡し役の"ジョルバン"が、すっかり忘れていたのだった。


 見ると、壇上には演説台とその横に司会用であろう台があった。


 次の一歩が定まらない正巳だったが、そこでようやく助けが入った。


『正巳様は、そのまま中心の演説台に向かって下さい。後の者は、マムが誘導します』


 マムに感謝しながら、言われた通りに歩き出した。


 若干の間があったが、それもそれ程長い時間では無かったので、恐らく周囲の目には不自然には映ってはいないだろう。……そうあってほしい。


 歩き出した正巳だったが、その後ろにはマムがサポートとして付いており、演説台に着いた後も正巳の右後ろにはマムが収まっていた。


 その他――サナやカイル達は、まとめて正巳の左後方へと控える形となっていたが、マムの位置取りは、何かあった際即時対応する為のものだった。


 中心の演説台の手前に立った正巳は、司会の男の紹介に一歩進む事で上がった。


「さて、先程ご紹介しました新独立国ハゴロモ、その元首――国岡正巳首相です!」


 どうやら、入場する前にも軽い紹介があったらしい。

 司会の言葉に合わせて、軽く会釈する。


「それでは、これより宣言が行われます。国岡首相――」


 何となく、首相と言う事呼ばれ方にしっくり来なかったが、それでも頷くと口を開いた。


「元は一人でした。それが、二人となり三人となり、段々と理想を持ちそれを語り、人が集まり、そうしてここ迄やって来ました」


 そこで初めて、その会場に居た一人ひとりの顔を見る事になったが……全世界の国の数を示す人々を改めてぐるりと見渡すと、少ないようで多く、多いようで少ないなと感じた。


「これ迄困難の中にあった子らも多くいましたが、今では未来を見ています。そして、今後も未来へと進み続ける事でしょう。未来への発展を誓い――」


 正巳は、その宣言を若干の威圧を込めて放ったが、どうやら効果があったようだ。それ迄、若干の話し声がしていた会場が、正巳の宣言が始まると同時に段々と静まり返っていった。


 そして、最後の言葉を終える瞬間には、皆が耳と目を一点に集中させていた。


「我々は、その名を"ハゴロモ"として、建国した事をここに宣言する!」


 正巳がそう宣言した瞬間、それ迄込めていた力も解放した。すると、それ迄の緊張感からか、一点に集中していた一同が一斉に拍手を送っていた。


 中には、明らかに何処か安堵したかのような表情を浮かべている者も居たが、その事には本人も気付いていないだろう。


 拍手に応えながら壇上を降りた正巳は、ふと司会の男が、懐から何か紙束を取り出した事に気が付いた。そちらが気になった正巳だったが、マムによる説明に納得した。


『司会の者には、前もって進行予定表(プログラム)を渡してあります』


 どうやら、全ての下準備は済んでいるらしい。


 ――本番はここからだった。

夏風邪をひきましたが……皆さまの支えもあり、どうにか書き終えられました。誤字脱字報告や感想や評価をして下さる皆さんには、重ねて感謝、感謝です!

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