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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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233話 方針決定

 二つの策について説明し終えた正巳は、"方針"を決める採決に移っていた。


 ここでの決定が、下手したら数年先までの行動計画に影響するかもしれないのだ。若干緊張しながらも、どの様な結果になるか楽しみだった。


「先ず、国民を最優先で保護しその後制圧を行う案に賛成の者――次に、開戦後に首脳陣を制圧し即座に終戦する事を目指す事に賛成の……それでは理由を聞いても良いですか?」


 結果は直ぐに出た。


 その場に参加していたのは全部で二十名弱だったが、結局一人を除いて全員が後者を選んでいた。後者――つまりは、問題である"軍部幹部及び政権幹部の即時制圧を行う"という内容だが……もう少し票が分かれると思った。


 悩む素振りが全くなかったカイルに聞く。


「理由を聞いても良いか?」


 すると頷きつつも答えがあった。


「はい。辛い思いをする期間は、短ければそれだけ良いと思うのが一つ。もう一つは、単純に費用が掛かりそうなので、後の事を考えるとですね、ええ……」


 どうやら、かかった費用を請求されると思っていたらしい。その辺りは、全て任せているところだが、もしかしたら確かに請求する事もあるかも知れない。


 まぁ、あれだけの軍事兵器を作る技術と予算があるのだから、その辺りは問題なさそうだが。もしかするとその辺りの資金は、事を終えた後国を変える為の資金に使いたいのかも知れない。


「隣の人は?」

「私も、同国民が苦しむのはこれ以上見ていられないので――……」


 その後、順番に理由を聞いて行った。全員が後者を選択していた為もあってか、似たり寄ったりの理由ばかりとなったが、それはそれで(意思の一致と言う面でも)良い事かも知れない。


 因みに、先輩も同じような理由付けをしていたが、恐らく最終的に予算面から考えての結論を出したのだろう。判断は其々に委ねているので、其々の判断基準があって良いと思う。


 ハク爺と取り巻きは『得意だから』というシンプルな理由だったが、それもまた良いだろう。何より、自分たちが動く前提で話しているのだ。感謝こそすれ、否定的に受け取る理由がない。


 残るは、サナを残して今井さんの番だった。


「今井さんは如何ですか?」


 そこまでは皆が同じ意見だったので、流れで聞いていた。

 しかし、今井さんはそうではなかった為、間を取ったのだ。


「僕は、国民を守る機体を作る事に賛成だよ!」

「……はい。国民を最優先で保護して行く案ですね?」


 唯一違う案を選んだ今井さんだったが、何となくその理由が怪しかった。

 改めて問い直すと、喜色を浮かべて頷いて来る。


「そうさ、その保護機体を作る事が必要だと思うんだよね!」

「ええ、よく(・・)分かりました」


 ……やはり、そう言う事だった。


 どうやら今井さんは、単純に巨大な保護機体を作りたかったらしい。その事についてここで話をすると、大幅に脱線してしまうだろう。


 安易に承諾するのは若干怖いものがあったが……無駄になる事はないだろうし、取り敢えず今井さんには好きにして貰う事にした。


「何処か広い場所を確保してやって下さいね」


 正巳の言葉に嬉しそうにすると頷いている今井を見ながら、まとめる事にした。


「それじゃあ、そういう訳で戦略の柱として――」


 締めようとした所で、小さく唸るような声が聞こえて来た。その方向を見ると、そこには白い猫を両手で抱えながらも涙目になっている少女が居た。


「うぅぅぅ、おにいちゃサナは?」


 今更理由を聞くまでも無かったのだが、待っていたらしい。


「悪かった。それじゃあサナに質問だ!」


 頭を撫でて謝りながら、聞いた。


「サナが、首脳陣を捕える方を選んだ理由はどうしてだ?」

「それはね! "しゅばば"って倒すからなの!」


 ……ええ、最初からそう言ってましたもんね。分かってましたとも。


「流石だな、さすがサナだ!」


 そう言いながら頭を撫でると、サナの手が緩んだのだろう。ボス吉がサナの腕から逃れて、正巳の足元に横になっていた。


 しかし、サナはそんなボス吉には構わず、頭に乗せた手を嬉しそうに両手で掴んでいた。


 その後、サナが満足するまで手を引かずにいたが……周囲の生暖かい視線で、正巳がふやけて来た処でようやく満足したらしく、手を離してくれた。


「……途中でしたね。それでは同盟の方針として――"首脳陣の即時確保及び、確保した首脳陣の国際社会における処罰に委ねる"という方針を定めたいと思います」


 正巳が宣言すると拍手が上がった。


「よっしゃ、これで暴れられるな!」

「違う。確保するって弟言ってた」


 先日の救出作戦に於いて、酷い状況だったと言っていたジロウはやる気らしい。

 そんなジロウを抑えたのはサクヤだったが……


「そうじゃのぅ、確かに重要な部分は確保じゃな」

「それ以外は良いんだろ?」


 ジロウの質問に、ハク爺が力強く頷く。


「うむ!」


 いや、"うむ!"じゃないんだが……


 心配そうなカイルを横目に、やる気で溢れる傭兵達に言った。


「まぁそうだが、あまり派手には止めて欲しい所だな」


 正巳の言葉にサクヤが頷く。


「ほら、弟はこう言ってる」

「ふふ~ん、さては自信が無いんだな~!」


 ジロウに挑発されたサクヤがむっとして言う。


「チガウ」

「それじゃあ、どっちがターゲットをクリアできるか――っと、確保だったか?」


 ジロウに頷く。


「ああ、そうなんだが……そうだな。これも説明しておくか」


 その後、どうやって対象を確保するのかの説明に移った正巳だったが、途中で復活した今井さんに機体の説明を代わって貰っていた。


 それ迄、今井さんは何やらパネルを見ながら呟いていたが……恐らく、許可した保護機の建造計画でも立てていたのだろう。


「実働する諸君には、この"エッグスター"に搭乗してもらうよ。耐衝撃性能に優れていてね、高高度から投下しても内部には殆ど影響がないだろう」


 ……今井さんは安全だと言うけれど、一度強度の確認をしておこう。


「あとは、確保したターゲットを捕えるのも必要だね。うん、内部の作りを少しいじって、連行専用の自立型機体も用意する。あと、皆武器を持って行くと思うから、それ用のストレージも確保だね」


 頷きながらも質問するハク爺達と、それに応じる今井さんだったが、長くなりそうだったので一先ず場を閉じる事にした。


 実務レベルの確認は、全体でする必要はないだろう。


「それでは、会議の方は一度閉じましょう」


 確認しておく事が沢山ありそうな面々には、『終わった後もこの部屋を確認に使って良いですよ』と言っておいた。


「決定事項――開戦後、首脳陣の確保を最優先とする。作戦に参加する者は後で選出する事になるが、一先ずここでの決定は以上を以て終了、会議をここに閉じる」


 恐らく、今日中にエッグスターの試運転に立ち会う事になるだろうが、その際はカイル達にも立ち会ってもらえば良いだろう。


 少なからず心配している筈で、その心配を払拭する助けになれば嬉しい。


 そんな事を考えながらも、起立と共に低頭する面々に応えた。


「お疲れさまでした」


 ――……会議が終了して五分後。


 そこには、今井さんと機体の性能とその活用範囲について話すハク爺達以外は、先輩とサナしか残っていなかった。ボス吉も、会議が終了するやいつの間にか姿が見えなくなっていた。


「お前、本当に変わるよなぁ」


 先輩が面白そうな顔をしているが、正巳には何の事を言っているのか分からなかった。


「……何がですか?」

「いやお前、丁寧だったりトップらしい話し方だったりするだろ?」


 どうやら、先輩は正巳の話し方が気になっていたらしい。


「まぁ、それはあれですよ。円滑に場を進める為に必要ですからね」


 別に意識してやっている訳では無く、自然とそうなってしまうのだから仕方ない。


「俺も、交渉の時は気を付けているが……そういうのと違うもんな。カイル先生(・・)も『まるで外交官みたいだ』って驚いてたしなぁ、適性があるのかも知れないな」


 確かに、何方かと言うと実直な先輩が、人によって言葉遣いを使い分けると言うのはあまり想像できない。仕事ではしっかりとしているが、プライベートでは先輩は割とラフな話し方なのだ。


 今井さんに敬語なのは、これもまた癖なのだろう。


(今井さんの事、未だに"今井部長"って呼んでるしな……)


 不器用な先輩が何となく可愛く思えたが、サナの視線が合ったので自重しておいた。


「適性があるかは分かりませんが、まぁあれですよ。俺も出来る範囲でしかしませんからね、できない事は先輩に任せる所存ですよ」


 若干おどけて言った正巳に、先輩も笑いながら答えた。


「おお、任せるがいい。外交のイロハを習った処だしな! にしても"所存"って、今時そんな言葉づかいする奴いるのか?」


「いるんじゃないですか?」


 そう言った後で、『ほら、かっこ良い言い回しですし?』と続けると、先輩が苦笑しながらも『そうか?』と言って笑っていた。


 その後、他愛もない世間話をしながら、今井さんを待っていた二人だったが……じっと様子を見ていた小さな二人(・・)が呟いた事には気が付かなかった。


「"しょぞん"「です」なの!」


 それ以降、しばらくの間サナとマムを中心に、子供達の間で不思議な語尾が流行る事となるのだが……まさかその切っ掛けが、何でもない会話にあったなどとは、考えもしなかった。


 ――話が終わり部屋を出る頃、サナが小さく呟いた。


「……お昼ご飯が食べたいしょぞん(・・・・)なの!」

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