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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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227話 掌握率 "99%"

 ――少し時が遡る。


 正巳は、地下に蓄えられた戦力を、確認し終えていた。


 戦闘用と言うよりは、救出及び拘束用の機体が多かった。それらを一通り確認し終えた正巳は、予定していた午後の合同訓練へと向かった。


 合同訓練の相手は、ハク爺達傭兵団だ。


 ハク爺達に関しては、その面倒を見ると約束しており、既にハゴロモの一員として認識していた。その上で、ジロウとサクヤを筆頭にしたハク爺の傭兵団『ホワイトビアド』の正確な戦力を知る為に、合同訓練を行ったのだった。


 正確な戦力を知る必要がある理由、これは簡単な事だ。


 今でさえいつ襲撃が有るか分からない状態だが、宣戦布告すれば更にその危険が増えるだろう。もし敵が攻めて来た際に正確な戦闘能力を知らなくては、戦闘員を適切に指揮できない。


 合同訓練は、訓練中に集めたデータを元にして、戦闘能力を分析する為のものだった。


 ただ、戦力として考えるとは言っても、誰かを敵地に送り込むような事は考えはない。そもそも、守ろうとしている仲間をわざわざ、危険な場所に送り込む事ほど、本末転倒で間抜けな事は無いだろう。


 任せるのは拠点防衛だ。


 "拠点防衛"――これにしたって、基本的には外壁防御虫(シールドインセクト)で防げば済むのだが、いざと言う時の事を考えると、幾ら準備してもし足りる事は無いだろう。


 因みに、防衛の際に指示をするのは正巳ではないし、マムでもない。


 かと言って、ハク爺や他の誰でもない。防衛の際の指揮官をするのは、最近新しいVR訓練のフィールド"迷宮(ミノス)"を提案して、"鬼"とか"悪魔"とか呼ばれているリルだ。


 リルを他の大人に会わせるには、まだ少々時間が必要な為、リルは個室住みだ。ただ、そのままだと寂しいとも思うので、サナやミューと共に時々顔を出す事にしている。


 また、良い事だとは思うのだが……


 部屋を訪れると、かなりの確率で綾香とユミルのコンビが部屋にいて、そこではリルを着せ替え人形にしたファッションショーが開かれていたりもする。


 どうやら、綾香はリルの事を最初女の子と思っていたらしく、――恐らくは着替えの際に気が付いたのだろう――男の子と知って驚いていた。


 男の子だと知って尚、着せる服がフリフリした服である事には何とも言えないものがあったが、リルが嫌そうにしていなかったので放っておいた。


 ……今度、リルに本当に嫌じゃないのか聞いておこう。


 まぁ、それは兎も角として、拠点防衛の指揮官はリルだ。


 正巳は、正確なデータを集めてリルに届ける必要があった。様々な状況下での合同訓練を行い、データを取った正巳は、それらをリルに届けてもらうようマムに頼むと、次は観光を行う事になった。


 ガムルスの地形データを元に作成したと言う、フィールドの"観光"を行った一同だったが、その際サナは四方に目を走らせていた。


 恐らくサナは、"ここで戦闘する"と思っているのだろう。


 他にも、ハク爺やジロウやサクヤなんかは、注意深く周囲を確認していた。その様子は、一周回って何となくとても熱心な観光客の様に見えて、少しだけ可笑しかった。


 その後、満足行くまで観光した一同は、夕食にした。


 夕食には肉料理も有ったが、豆腐や餃子などの料理も出て来て驚いた。


 どうやら、先輩から話を聞いた子供達がねだった結果らしいが、レパートリーが増えたのは良い事だと思う。何より、食事の時は普段の数倍賑やかで笑顔があった。


 その日、各々が新しい味や懐かしい味に満足して部屋に戻ったが、正巳の部屋には今井さんが来ていた――と言うより、正巳が呼んで来て貰っていた。


 サナとミューが寝付いた後で、話を切り出した。


「それで、問題無さそうですか?」


 "何が"かは言わなかったが、今井は頷く。


「うん。この前正巳君達を襲撃したって言う奴らに、マムがしっかり"打ち込んでいた"からね。そこから取得した位置情報を元に、つい数十分前に上空から専用機体を投入した所だよ」


 実は、先程地下の生産工場を見て回った際に、ある事を指示していた。


「なるほど、後は待つばかりですか」

「そうだね。マム?」


 今井さんがマムに促すと、マムがパネルに表示した。


「現在の掌握率は全体の48%程です」

「おや、随分とセキュリティが固いね」


 そう、ある事と言うのは、これから事を構えようとしているガムルスへのハッキング――それも、主要な軍事設備に関しての指揮管理権に関してのものだった。


 形としては既に戦争しているようなものだが、そもそも向こうから先に襲撃して来たのだ。あの時に開戦した、そう受け取っても間違いではないだろう。


 今井さんの意外そうな言葉を受けて、若干悔しそうにマムが答える。


「どうやら、ランダムに暗号化システムを切り替えているらしくて、それを食べるのに少し時間が掛かりました。ただ、もうそれは済んだので、残りは時間の問題です!」


 力こぶを作って見せるマムを見て、思わず微笑んだ。


 恐らく、このセキュリティは相当高度で重要な守りだったのだろうが、マムに掛かればこんな所だ。少しだけ哀れに思った正巳だったが、同情はしなかった。


 そもそも、相手が相手なのだ。


 これ迄非道の限りを尽くして来た奴らに、何か同情する事など一つもない。


「マム、徹底的に喰ってしまえ!」


「はい、パパ! こう言ってはしゃく(・・・)ですが、中々美味しいです! それに、他にはないシステム構造をしているので、少しは役に立ちそうですね。……全て綺麗にいただきます!」


 その後、リアルタイムでシステム掌握率が上昇して行くのを眺めていたが、ふと今井さんが呟いているのが耳に入って来た。


「マムをこれだけ手こずらせると言う事は、相当なセキュリティ設計だね。となると、技術者は絞られるだろうな……。アンリ・ゴルフェンか、それとも――いや、ロイス教授は専門外な筈。でもマムの解析パターンからは……」


 その後、今井さんの思考が終わるのを待っていた正巳は、頃合いを見て声をかけた。


「今井さん、マムの解析が止まりました(・・・・・・)


 今井さん自身は、未だに思考の迷路から抜け出せていないみたいだったが、傍から見て、答えの出ない答えを探しているのは明らかだった。


 若干強めに肩を揺すると、我に返った。


「ん? 止まった……?」


 不思議そうな今井さんに頷きながら指差す。


「99%で止まっています」

「おや、本当だね」


 パネルを見ると、その表示は99%で止まっていた。何となく、"100%は存在しない"と言う哲学的な美しい"掌握完了表示"だろうかとも思ったのだが、どうやらそういう事では無かったらしい。


「マム、これ以上は?」

「……マスター、これ以上はもう何も存在しないんです」


 マムが困惑したような表情で言う。


「存在しない?」

「はい、マスター。これでもう"完璧"な筈なのですが……」


 どうやら、残り1%はどうしようもないらしい。


「ふむ、これは興味深いね。マム、もう一度取り込み済みのキャッシュを出して――」


 今井さんが、本格的に解析を始めそうになったので、慌てて止めた。


「今井さん、それ以上は止めておきましょう。"0"を"99"にするよりも、"99"を"100"にする方が時間が掛かるでしょうし……」


 正巳がそう言うと、今井は渋々と言った様子で言った。


「むぅ、確かにそうだけどねぇ。それでも気にならないかい?」

「確かに気にはなりますが、1%位の穴は私達がどうにかしますよ」


 今井は、小さく『そういう事でなくてだねぇ……』と呟いていたが……このこだわりは、単に今井の探求心を刺激しているだけだと直ぐに分かった。


「もっと重要な事があります」


 真剣な顔をして言った正巳に視線を合わせてくる。


「……重要な事?」


 聞く体勢に入ったのを確認して、話し始めた。

"0"を"99"にするよりも、"99"を"100"にする方が難しい。


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