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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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223話 不安の解消と上映会

 首相との間に、双方にとって利のある約束をしていた。


 それ自体は、単に人気取りとも思える内容だったがそれでも、思い出の詰まった持ち物が返って来るのは嬉しい事だろう。私費を投じてでもやる意義がある筈だ。


 中には、思い出して辛くなる。忘れていたいと言う人もいるかもしれないが……その場合であっても、出来る限りは保管しておければと思う。


「いやぁ~今日は中々良いお話が出来ました」


 機嫌の良くなった首相を見て、今井さんに頼まれていた件を片付ける事にした。


「いえ、こちらも有意義な時間を過ごさせて頂いています。それで、もう一つ相談したい事がありまして、禁止区域の内、国が所有する土地に関してなんですが……」


 今井さんに頼まれていたのは、普通の取引手段など存在しない取引だ。普通に実現しようとしたら、相当に苦労するであろう内容だったが、キーマンさえ見つかれば話が変わって来る。


「ほぅ……禁止区域と言うと、前回監督権を認めた地区の事ですか?」


 頭をひねる首相に頷く。


「ええ、そうです。その区域に関してお話がありましてね」


 実は既に、立ち入り禁止区域の内その殆どの土地を購入し終えていた。


 どうやったのかと言うと――マムによってその権利者が探し出されそこに先輩が送られる。次の権利者が見つかったら、また先輩が送られて話をまとめる――と言った、かなりアクティブな方法で成されたモノだった。


 先輩の苦労もあり、残るは元法人所有の土地のみだったが……


 法人所有の土地に関しては、国がその復旧支援・損害補填として購入していた。これがあって、対象エリアの土地の権利に関しては、国所有の部分を残すばかりだったのだ。


 そもそも、何故土地を買っているかと言う話になるが……


 土地を購入する――これ自体は、手違いによる"事故"が発生した際、他に影響を与えない為、そしてその対策をする為の建築や設備を用意する為に必要な事だった。


 見方によっては、国を買う侵略者に見えなくも無いが……それであれば、こんな"毒の撒き散らされた土地"では無く、もっと自然が豊かな田舎の土地を選んだだろう。


 何を言おうとしているのかと訝しがる首相に、思わず苦笑する。


「いや、難癖を付けようとしている訳ではなくてですね。売って欲しいんです」


 そう言った正巳だったが、これに対しての首相の答えには思わず、声を上げて笑ってしまった。


「……なるほど、公安から情報が上がっていましたが、禁止区域の土地を買い漁っているのは貴方でしたか。いえ、てっきり他の国の工作員かと思いました」


 どうやら、土地の権利やその動きと言うのも、何らかの方法で監視されているらしい。それにしても、やはり土地を買い漁っていたのはかなり不審な行動ととられていたらしい。


「ハハハ、工作員ですかっ……」


 笑いながら(あれ? あながち間違っていないかも知れない)と考えてみて、冷や汗が流れる。


「いや、笑い話では無いですよ。ほら、『正体不明の男が、信じられない速度で土地を買収している。下手をすると、このまま何か事を起こす気かも知れない』――なんて受けた身になって下さいよ……ハハハハハ」


 笑い話で済んだらしいが恐らく、この前ハゴロモを襲撃した件があっての"冷や汗"だったのだろう。確かに、自分が首相の立場だったら警戒する。


「いや、申し訳ない。遺留物の除染を急がなくてはいけなかったみたいで……」


 首相に合わせるように誤魔化した正巳だったが、そこで自分のミスに気が付いた。


「うん? そう言えば、その除染(・・)はどうするのですか?」


 通常汚染された遺留物は廃棄されるが、この遺留物は只の遺留物ではない。汚染は汚染でも"放射汚染"だ。通常の方法では除染する方法が存在し無いばかりではなく、特殊な廃棄が必要となる。


 放射能と言うのは、生物の細胞に影響を与える為、それだけ注意が必要なのだ。


「それに関してはこちらで除染の技術を持っているので、心配しないで下さい」

「それは――」


 何か言おうとした首相だったが、少し考えてから答えた。


「分かりました。その代わりに全ての遺留物に関して、返還前に検査をさせて貰います」


 普通ここで頷く事は無いだろう。


 首相が頷いた事には、何らかの意図や思惑があるのかも知れないが、一先ず良しとしておこう。何となく、これ迄の間に非常識さを含んだ"技術力"を見せたのが理由な気もしたが、もしこちらの"技術の底"を計ろうとしているのであれば、存分に計ってみて欲しい。


 後ろで控えていた秘書は、何やら言いたげな視線をずっと送っていたが、気付いているのかいないのか、首相は笑みを浮かべた表情を変える事なく手を交わした。


「それでは、そういう事で」

「ええ、よろしくお願いします」


 ここから先は、担当の人を相手に進める事になるとは思うが……立ち合いや調整に関しては、先輩に任せれば良いだろう。先輩が忙しければ俺自身が行っても良いが、一週間よりその先を想像するに、正巳自身暇が無い気がする。


 人員補強も予定しているので、先輩には頑張って貰いたい。


(後で労っておくか……)


 他に話すべき事は全て話したので、残る内容に触れる事にした。

 最後に持って来た内容だが、それには理由がある。


「それでですね、来週の国連での事なんですが――」


 それは、多少説明とその先が長くなるだろうと思われたから。


「はい。……はい?」


 予想通りの表情だ。


 きっと、正巳の口から出るとは思ってもいなかったのだろう。まあ、"ハゴロモ"自体つい先日独自自治を始めたばかりの集まりなのだから、当然と言えば当然だ。 


「ええ。それで、来週の国連の場で独立宣言を行う予定です」


 困惑した表情の首相に構わず言い切る。


「……ううむ、聞き間違いじゃないかな……ないようだね」


 正巳の顔を見て、自分の秘書の顔を見た首相は、困ったと言う顔をした。

 想像するに、他国からの追及やその先に予想される問題を考えているのだろう。


「黙っていても何れ伝わるものですからね。それに、中途半端に認知されている状態だと、それを利用する国や様々な不都合も出てきますから」


 正巳の言葉を受けて首相が言う。


「それは、先日起きた他国からの襲撃――いや、武力攻撃(・・・・)を受ける危険が増えると言う事ですよ? それに、ここは確かに独自自治を始めた"異法の地"です。ですが、同時に土地は日本国と繋がっているのです。もしここが、侵略され奪われでもしたら――」


 首相の心配はもっともだ。

 しかし、首相はその前提を忘れている。


「それは、我々が武力による制圧を受けると言う事でしょうが……」


 その心配自体が"不要"だと忘れてしまったらしい。


 先程まで、技術面に於いては多少の理解を示していたが、流石に体験した訳でも実際に見た訳でもない。単に人伝に聞いた話の場合、それ程印象が残らないらしかった。


 これから外で"実戦演習"しても良いが、確か首相はアブドラからの話を聞いていた筈だ。であれば、丁度良い"見せ物"がある。


「そうですね。それでは、心配ない(・・・・)証拠をここに示しましょうか。少し長くなると思いますので、椅子に座ってご覧いただければ……マム、頼んだ」


「承知しました。用意しますので、お連れの方も座ってお待ち下さい」


 静かに下がって行くマムの姿を見送った正巳は、用意された椅子に其々首相秘書とカイルを座らせた。正巳の勧めで仕方なく座った二人だったが、当の首相は状況が読めていない様子だった。


「これはどういう……」


 困惑する首相に笑みを向けた正巳は、戻って来たマムがちゃんと(・・・・)立体投影機の箱を持って来ている事に、若干ほっとしていた。


 以前のマムであれば、その場で手の平をパカっと開いて、その機体内に常備する道具を使っていただろう。少なからず成長している事を確認出来て嬉しく思う。


「さて、準備出来ましたので、室内の照明を少し落としますね」


 正巳の言葉と同時に、室内照明が薄暗いものへと変えられる。


 護衛の女性は、一瞬身構えていたが直ぐにそれが不要な心配だと分かったみたいだ。もっとも、単に意表を突かれただけだった――という可能性もあるが……


「これは……なるほどこれが"簡易"ではないホログラム技術ですか。やはり、技術面に於いては格段に進んだものを持っているようですね。ふむ、それはさて置きコレが防衛に役立つとは――」


 確か、正巳達がアブドラの依頼を受け、革命を制圧した時の映像が残っていた筈だ。そう考えた正巳だったが、しっかりと正巳の意図を汲んでいたらしい。


「それでは、これより正巳様一行の活躍をまとめた映像を"上映"させて頂きます。全てが事実であり、この映像も実際のものを素材に使用した内容である事を前提に、ご覧ください」


 マムのナレーションと共に始まった映像は、その内容に加えて若干の状況説明が加えられていた。以前上映された際途中退室していた正巳だったが、期せずして最後まで鑑賞する事になった。


 実際の内容と比べ、若干の改変がされていたが……該当部分は全て、アブドラに配慮したであろう部分。軍事防衛面において、機密であると考えられるような部分の削除であった。


 当初、首相の護衛と同様に正巳の背後に控えていたサナだったが、我慢が出来なかったらしく、二十分ほど経過した所で正巳の膝に座って来た。


「いいなの?」

「静かにしてるならな」


 その後、十分に正巳達"ハゴロモ"の戦力を目にした首相は、その顔を引きつらせていたが同時にアブドラの話を思い出したらしかった。


「はぁ……確認しなくてはとても信じがたいな。これが事実であれば……ううむ」


 何やら呟いていた首相だったが、最後は諦めたようだった。


 因みに、ゴンが登場する部分は全てカットされていた。首相に聞かれたらどうしようかと思っていた正巳は、その事に安堵していたが……サナは少しだけ不満そうであった。


「お兄ちゃ、ゴンいなかった!」


 小さく抗議するサナに、『後で出て来るやつ見ような』と言うと、満足したみたいだった。何となくマムの機嫌が気になったが、どうやら正巳が映像を見ているという事で満足しているらしかった。


 ◆◇


 大人しく見えていたマムであったが……


 その実、裏で進めていた調整とその結果の整理。そして、リミットが一週間の中でどうやってより良い環境を構成するか。それ等を再計算していただけであった。


 幾ら、国連の場での独立宣言に対して"評決がない"とは言っても、その場で反対意見が出ては不都合が生じる。そして、何よりケチが付けられることになる。


 ――晴れ舞台にケチを付けさせない。


 これは、マムの中での優先順位に於いて、決して譲れないモノだった。


 ◆◇


 その後、上映時間90分と言うちょっとした"映画"を見終えた面々は、其々の感想を持って会談の終わりを迎えていた。多少短くはまとめられていたが、十分に見ごたえのある内容だったと思う。


 部屋から出た首相が、若干老けて見えたのは気のせいだったかも知れないが、その表情は晴れやかなものだった。対して、女性の護衛は色々と諦めた表情をしていたが、サナに対しての警戒が強くなった事には、ただ苦笑する外なかった。


 秘書の男には、特に変わった様子は無かった。ただ、正巳が『ご苦労様でした。お疲れでは無いですか?』と声をかけると、光の速さで首を横に振っていた。


 部屋から出た時、第一応接室に残っていた面々からの視線を受け、そう言えば仮面を着け直していなかったと思い出したが、今更だったのでそのまま対応した。


「食事をして帰られますか?」


 そう聞いた正巳だったが、首相の答えは凡そ予想した通りのものだった。


「いえ、色々とやる事が出来たのでね。これで失礼します」

「分かりました。それでは、一週間後にまたお会いしましょう」


 正巳の差し出した手を握った首相は、最後にミンの見送りに笑顔を見せながらも帰って行った。拠点を出た際に、護衛の内一部の者が大きく息を吐いているのが見えたが、それが安堵から来るモノなのかそうでないのかは分からなかった。

次話は、閑話を挟もうかそれともどうしようかと悩んでいますが……

なるべく早めに投稿致しますので、どうぞよろしくお願いします!

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