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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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211話 秘密の計画

 解散を宣言してから数分後。


 ハク爺と、その二人の側近ジロウとサクヤと挨拶を交わしていた。何か言いたそうな雰囲気を発してはいたが、二人して口を開く事が無かった。


 その後、一同が退室して行くのを見送っていた正巳は、ふと部屋の端でやり取りする二人の姿が目に付いた。そこに居たのは、褐色の肌に黒い髪のミンと、白髪に白い肌の少女ミューだった。


 はしたない事だとは思いつつ耳をすますと、その会話の内容が聞こえて来た。


「頑張ったのね、ミューちゃん」

「うん、すごく……頑張ったの。お姉ちゃんがいない間、頑張らないとって……」


 普段しっかりしているミューだが、本来の年齢はほんの6、7歳の少女なのだ。その事をしばらく忘れていたが、こうしてみると年相応の少女だ。


「そうね、一年もしない内に立派になってビックリしたわ」

「違うの、まだまだできない事ばっかりで……お姉ちゃんはすごいの……ぐすっ」


 あまり盗み聞いているのも趣味が悪い為、それ迄にしておいた。


 部屋を見渡し、そこに誰も居なくなった事を確認した正巳は口を開いた。


「……マム、何故防げなかった?」


 正巳の椅子の一歩後ろで控えていたマムが、一瞬の沈黙の(のち)に答える。


「申し訳ありません。全て、原始的な道具で以って送致されていた為、入り込む余地がありませんでした。移送には生物を用い、牢屋は鉄格子に鉄鍵、それに――」


 正巳の質問に答えるマムだったが、その様子はどこか必死さがあった。


(……やはり(・・・)、か)


 質問自体は、ミンが某国内で攫われた時の事に関してだった。

 しかし、正巳が質問した意図は、質問した内容とは別の所にあった。


「もういい」

「しかし、実際どうしようにも入り込めず。外部から、操作した飛行機器や兵器を向かわせる事は出来たと思いますがその点に於いては、パパに与える影響と余波の大きさから――」


 やはり、必死に取り繕おうとしている。


「もういいと言っている」

「パパ……あの、マムは……」


 不安そうな声色だ。

 その声を聞いて、言う。


「いいんだ。別に責めてなどいない。ただ、お前が俺の事を考えるあまり、少し頑張り過ぎている気がしてな。それに、恐らくそれは俺のせいなんだろう?」


「……そんな事ありません」


「なあ、マム。以前俺が『俺以外も同じように大切に』と言った事を実現させようとしているんだろうがな、それはそもそも俺の思い上がりだった――俺の過ちだ」


 正巳は、以前マムに"人間のように考える事"を強要した。直接的にそう言ったわけでは無いが、その本質的な命令を考えると、マムに『人間のように考えろ』と命令していたのだ。


 しかし、それはマムにとっては"不自然"な命令だったのだ。マムは、AIなのだ。全てに明確な優先順位を持つ――それが"自然"なのだ。


 にも拘らず、正巳の不自然さを生む命令によって、行動に歪さを生んでいた。


 "人間らしく優先順位を持て"


 ――実に残酷な命令だ。


 ここ数日間、自然な状態、本来あるべきあらゆる状態について考える機会があった。


「あのな、マムはマムだから別に"人間のように"をしなくて良いんだ。それを命令していたのは俺だったが、今ここでその命令を破棄したい」


 正巳がそう言って、隣に移動していたマムを膝に乗せると、マムは目を閉じてから頷いた。そんなマムを見ながら、正巳は続けた。


「それと、これ迄の間で裏で準備していた事があれば――それに関して、何か言っておくべき事があれば教えてくれ。勿論俺とマム、それに今井さんの秘密だ」


 敢えて、話すべき事を選択できる状況にした。こうしておく事で、正巳に言わない方が"成功率"が上がる話などは、マムが口にする事は無いだろう。


「はい……あの、すみませんでした。もっと早くにパパに相談すれば良かったのに」


 ……こうして見ると、やはり人間にしか思えない。外見とか質感とかそう言った話では無く、その感情の動き――会話の仕方、思考判断の仕方について考えた時の話だ。


 過去の自分を擁護する訳では無いが、これだけ"優秀"だと勘違いしても仕方が無いと思う。しかし、目の前に居るマムは、個体"マム"であってそれ以外の何者でもないのだ。


 少しきつくマムを抱きしめると、マムの言葉を待った。


 そして、その後程なくしてマムが口を開いた。


「……実は、遠くない未来にこうなる(・・・・)可能性が高いと思っていたので、予め色々と準備をしていたのです。その為、既に各国を代表して出席する委員には根回しが済んでいます」


 いつから読んでいたのかは分からないが、どうやらいずれ某国(ガムルス)とは事を構える事になると、ある程度の確率を以って予測していたらしい。


「うん……そうだな」

「それと、実はその後を考えて新しい"拠点"についても既に手配、及び工事を開始しており――」


 明らかに、今居る"新しい拠点"以外の話をしているマムに、思わず突っ込みそうになるが、どうにか堪えた。そう、重要なのはマムの言う事を肯定する事だ。


「ちょ……うん、そうだな。今井さんは知ってるのか?」

「半分は知っています」


「半分?」

「はい、コンセプト設計をしたのはマスターなので……」


「なるほど、で、それを実際に造っていると」

「はい、場所も知りたいですか?」


「……いや、それはもう少し後で構わない……うん」


 恐らく、拠点に関しては今後を考えての事だろう。


「後は、パパが以前言っていた『星の――」


 これ以上聞くと、とんでもない――今目の前の事に集中する処ではない内容――が出て来そうだったので、マムの口を止めておいた。


「ちょっと待て。そうだな、それよりも今の事……そう、マムの話したい事について話そう」


 マムの気を逸らす為に選んだ話題だったが、思いの他マムの食いつきが良かった。


「はい! パパが、マムの事を考えてくれるんですね!」

「うん? ああ、そうだぞ」


 ひざの上で嬉しそうにするマムに頷くと、マムが見上げる形で聞いて来る。


「それでは、マムが入り込めない場所ではどうすれば良いですか?」

「"入り込めない"か、そうだな……」


 恐らくマムが言っているのは、今回のミンを守れなかった事に関連して、マムの入り込む余地のない場所――電子機器の存在しない、全てがアナログな世界の話だろう。


 少しばかり考えていた正巳だったが――


「……やっぱり、他の場所にある飛行機なんかを突っ込ませれば……被害は出るかもしれないけれど、その辺りは計算すれば……」


 マムの呟きに、思わず突っ込みを入れていた。


「いやいや、それはダメだぞぅマム!」

「でも、そうでもしないと……」


 とんでもない事を言い出すマムに、慌てて正巳は言った。


「いや、そもそもそこに無いなら、予め置いておけば良いじゃないか。ほら、飛行機に機体なんかをを積んで近くに投下するとか、目標地点近くに先に必要な機器を置いておくとか――」


 正巳が話したのは、軍の侵攻時に良く行われる"補給物資の投下"に着想を得た単なる"思い付き"だった。当然、その場限りの口八丁だったが、正巳の言葉を聞いたマムは目を輝かせていた。


「そうですね、流石パパです!」


 どうやら、マムは納得したらしかった。


 ほっとしたのもつかの間、マムの呟きを聞いた正巳は少し不安になった。


「……そっか、そうだ。パパの言う通り"ない"なら、予め"ある"ようにしておけば良いんだ。そうなれば、例えどこであっても問題が無いように……」


 ここ迄は良かったが――


「いま最小でナノ単位サイズだから、これがピコサイズ、いずれはフェムトサイズのマシンを散布して……その為には、常に生産を続ける極小サイズの移動型生産工場(コロニー)を大量に生産する事から始めないと……」


 何処かうわ言でも呟くようにしていたマムだったが、正巳としてはマムを抱きしめて(変な事になりませんように)と祈るほかなかった。


 そんな正巳を、部屋の隅で見ていた少女が言った。


「……正巳様、ミューもぎゅってしてくれるかな」

「ふふ、大丈夫だと思うわよ。だって、ミューも頑張ってるもの」


 マムを必死に抑えていた正巳だったが、まさか勘違いされているとは思いもしなかった。


 ◆◇


 その後、自分の横で何処か羨まし気に――使えるべき主人とその創造物を――見ている少女(ミュー)を眺めながら、心の中で呟いていた。


(もしかして、正巳様はロリータコンプレックスなのかな。だとしたら、今井様――いや、美花お姉ちゃんが可哀想……そうね、私が大人の魅力に目が行くように、誘導しなくてはいけないわ!)


 自身が、盛大なおせっかいを焼こうとしている事に気が付く事がないまま、帰還した少女ミンは密かにその機会を伺う事にした。


 ――全ては、お姉ちゃん(・・・・・)に幸せになって貰う為。


 普段慕われる事の多いミンに芽生えた感情だったが、その根本に"自分も誰かに甘えたいのだ"と言う感情があると気が付くのは、もう少し後の事だった。

誤字報告、感想、評価等頂き有難うございます。多少現実が忙しい中ですが、皆さまの支えが合って、続けて書く事が出来ています。いつも本当にありがとうございます!

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