表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

209/383

209話 その正当性

「名前と話を聞こうか」


 正巳の言葉を聞いた男は、息を深く吸うと言った。


「私は、カイル・デルハルンと申します。ガムルスではサカマキ様率いる方々に助けて頂きましたが、私はかつてあの国で外務処理官として働いていました」


 ガムルス、つまりは某国の事だが……どうやら、このカイルと言う男はあの国で外務処理の仕事をしていたらしい。


 ここ数年のガムルス(あの国)の外交について考えると、とても褒められたものではなかったが……そもそも、あの国が今のようにおかしくなったのは、ここ数年の話だった筈だ。


 カイルの言葉を聞きながら記憶を探っていた正巳だったが、カイルとミンの関係について繋がる話を聞いて納得した。どうやら、カイルとミンの父親とは仕事仲間だったらしい。


「私の仕事は外交に深く関わる仕事だった為、ミンリーの父親である外交官ハイル・サイウォンツとも仕事をする機会が多々ありました」


 カイルの言葉に相槌を打つ。


「なるほど、そこでミンとも知り合いだった訳だな」


 正巳がミンへと視線を向けながら言うと、カイルが頷く。


「はい。誠実な男で、彼の周りには彼を慕う者達が常にいました。私もその中の一人でしたが、途中で国外へ出張になった彼とは中々会う機会が無くなっていまして……」


 言いながら、カイルは若干表情を暗くする。


 恐らく、カイルの言う『国外へ出張』と言うのは、ミンの父親が日本へ大使として来た時の事だろう。そして、大使が来たタイミングで、その子であるミンも日本へと来たはずだ。


 ――その後何が起こるかも知らず。


 暗くなりかけていたその場を繕うようにして、言った。


「なるほど、お前については分かった。肝心の本題(・・)を聞こうじゃないか」


 そう言ってから、カイルに『何か話があるんだろう?』と促すと、目を閉じて深く呼吸をしてから口を開いた。その後、カイルが語った内容は凡そ予想していた内容通りだった。


 自分がミンリー(ミン)を救出しようとしていた事、それを一つの目的に掲げていた事。それ等を話し終えたカイルは、いよいよ本題である内容に入ろうとしていた。


「……――と、このように私は、既に願いの内一つを叶えて頂いているのです。そして、もう片方の願いに関して聞き入れて下さるのであれば……私は、私の持つ全てを以って――」


 全て言い終える前に、それを遮る者がいた。


「ちょっと待って下さい!」

「――っつ、ミンリーちゃん?」


 カイルの言葉を遮ったのは、他でもないミンだった。


 ミンは、何処か納得がいかないと言った様子だ。平時の状態から考えると、会話の途中で割り込むなど決してあり得ない事だったが、どうしても黙ったままでは居られなかったらしい。


「そんなの駄目です! 最初の事は兎も角、カイルおじさんのソレ(・・)は私にもその責任がありますし、そもそも私がするべき願いであって……!」


 ヒートアップしたミンを宥めながら、逆に指摘した。


「まあ、落ち着け。そもそも、ミンは何かを願うより先にする事があるだろう?」


 ミンの顔には薄っすらとカギ傷が出来ているが、これは送り出した時には無かった傷だ。若干意識してミンの顔を見つめながら言った正巳だったが……


 正巳の言葉を聞いたミンは、一瞬固まっていた。


 しかし、その後のマムによるフォローで思い出したらしい。マムは、静かに移動すると一言二言呟いていたが、それを聞いたミンはハッとした顔をすると、一呼吸してから言った。


「……失礼しました。私からご報告があります」


 どうやら、しっかりと"先に済ませる事"を聞いたらしい。


 実際には、報告など受けなくともマムからその一部始終を聞いていたので、情報として何か新しい事を望んでいた訳では無い。こう言うのは、本人から報告を受ける事に意味があるのだ。


 正巳が頷くとミンが続けた。


「私は、見送りしていただいた後しばらくは順調でした。到着から泊まる場所、食事まで……」


 それはそうだろう。それ等は、全て正巳からマムに指示していた事だ。


「しかし、それは順調に子供達を親御さんの元に送り届けていた、終盤の事でした。私達が送り届けた子供達の、生活ぶりを確認しようと覗いた所、そこで元気に生活している筈の姿が何処にも見当たらなかったんです」


 そこで一度言葉を切ると、若干暗い表情を浮かべてから続ける。


「ここに居る方々は、既に答えに辿り着いていると思いますが……」

「攫われた。若しくは、両親に再び売られたか……」


 恐らくは、中には"一度売った筈の子供"が戻って来た事で、売った相手からの報復を恐れた親も居たのだろう。ひょっとすると、運悪く再び攫われてしまった子も居たのかも知れない。


「はい……。その後、どうにかしてその姿を見つけようとしたのですが、結局私ではどうにもならなくて、マムさんの手を借りる事になりました」


 マムであれば、何処にいるかは直ぐに分かるだろう。この一連の事に関して、若干マムへの違和感が残るが、それについては後で直接確認するのが良いだろう。ミンが続ける。


「――そして、マムさんによってその場所が分かったのですが、私が親元に帰した子供はその大半が収容施設や、その他の政府施設へと収容されていました。如何にか助け出そうと、話を聞いて貰おうとしたのですが――」


 結果から言うと、この子供たちの内半分以上は、未だに施設から取り戻せてはいない。最悪の場合、既にこの世にはいないと言う事さえ有り得る。


 悲壮な顔をしているミンに言った。


「囚われた、か?」

「……はい」


 ミンに可能なのは、対話と交渉だ。どうにかして、自分の力で事態を収拾しようとしたのだろう。そして、実際の行動に移し、その結果として囚われる事になった。


 ――まあ、当然の結果だろう。政治的或いは軍事的な後ろ盾も持たず、只の子供が一人で交渉に出て来たとしてまともに取り合うはずが無い。


 正巳の言葉に頷いたミンは、俯き気味になりながらも続ける。


「その後、再び元の――いえ、以前に増して厳しい追及が私だけでなく、他の囚われていた子供達に対しても始まり……」


 恐らく、ミン達に対する拷問が正巳と会う以前(最初に囚われていた時)より、厳しく苛烈になったのは、正巳があの大使館からミン含めた子供達を連れだしたからで間違いないだろう。


 そしてその目的は、正巳達の情報を少しでも得る事だったに違いない。


 ――と言うのも、マムによる情報の支配がされていた為、口伝以外の方法では正巳の情報を得る事は無く、正巳達に関する情報が極端に少なかった筈なのだ。


 話を聞きながら(多少偽の情報を流しておいた方が、ミン達へのしわ寄せが少なかったかも知れないな)と反省していた正巳だったが……


 どうやら、ミンは囚われていた時ため込んでいた感情が、一気に溢れ出して来たらしかった。


「う、不甲斐ない事に、助けて貰うまで黙っている事ぢが……出来まぜんでしだ……」


 思い出した辛さからか、悔しさからかミンが涙ぐんでいる。

 その様子を見た正巳は、心の中で呟いた。


(……黙っていた、か。その結果が顔の傷だとしたら、俺の責任は大きいな)


 嗚咽を漏らし始めたミンを見た正巳は、テンに目配せして部屋の外で落ち着くまでゆっくりさせて来るように指示をした。


 ――10分後。


 どうやら落ち着いたらしく、一度席を立ったミンが帰って来ていた。


「取り乱して申し訳ありませんでした」

「落ち着いたか?」


 正巳の言葉に頷いたミンが話し始めた。


「はい。報告の続きですが……先ず、私が連れて帰ったのは15名でしたが、その内無事親元に帰れたのは4名です。そして、無事ここに戻れたのは3名でした……」


 当たり前の事だが、無事に親元に戻れた子供も居た。その数は僅かではあったが……。そして、拠点にミンと共に戻って来たのが3名。その差分は、未だに見つかっていない子供達の数だ。


「そうか。それでは、残りの8名はまだどこかの施設にいるんだな?」


 すっかり暗いトーンになっていたミンだったが、正巳の言葉を聞いて表情を若干明るくした。


「はい、きっと。きっと、今も待っている筈です!」

「そうだな。それで、ミンの願いはこの子供達を救い出したい――と言う事で良いのか?」


 先程ミンが言いかけていた事だ。


「はい! ……その、施設には他の人達。囚われている人々も居るのですが――」


 言いにくそうに、それでいてずっと気にかけていたであろう事を言ったミンだったが……それに併せて、それまで一度も口を開いていなかった、大人の"出席者"の内一人が言った。


「あの、私からもお願いします。妻が、妻がまだ何処かで生きているんです!」


 一人が発言すると、その後に続いて残りも口を開く。


「そ、それじゃあ、私も。私の弟は先に捕らえられているんですが、きっと……」

「私も、きっと母親が何処かに……」


 其々溜まっていたであろう感情が、ここに来て噴出している。


「まぁ、落ち着いて下さい」


 興奮する面々を抑えたのは、カイルだった。カイルは大人たちに落ち着くように言うと、(満を持して)と言った風に口を開いた。


「私が先程言いかけた事についてですが、私共"代表"として出席した者の想いが一致していることが確認出来たので、今一度願う事を許して頂きたいのです」


 どうやら、先程ミンに阻まれた"願い"とやらについて話があるらしい。


 普段であれば、ここでマムからのひとクッションが入るのだが……どうやら、今回はマムとしても正巳に聞いて欲しい内容らしい。


 全くもって間に入る素振りの無い事に苦笑した正巳は、マムが何か企んではいないかと気にはなったが、何時までも黙ったままでいる訳にも行かないので応えた。


「分かった、その願いを聞こうじゃないか」


 正巳がそう言うと、頷いたカイルが話し始めた。


「先ず、正巳様には我が国を一度壊して欲しいのです!」


 てっきり、奴隷の立場にある人々を救出して欲しい――と言う部類の話だと思い込んでいた正巳は、一瞬面食らった。しかし、少し考えてみる事で、自分が計画した二つの案の内一つにピタリと当てはまる事に思い至った。


「国を壊す(・・)か……」


 呟いた正巳の脳内では、あるシナリオが再生されていた。


「……その前にもう一度確認をして、より多くの同意(・・)を得る事。後は、仮に決まったとしてそれを事前に伝えるか否か、だな」


 何方に転んでも、重要なのは次回の"国連総会"でと言う事になる。


 初めて参加する国際社会の場で、独立宣言に加えて大きな波紋を呼びそうだと思った正巳は、小さく呟いていた。


「こりゃ、アブドラの予想が的中したな……」


 正巳の言葉を待っていた面々へと、視線を上げた正巳は言った。


「その正当性はどこにある?」


 ――正巳の目は、組み上げられた"歯車"と、その先にある"大仕掛け"へと向いていた。

【カイル・デルハルン】

・ガムルス(某国)で外務処理官として働いていた過去を持ち、友の死を切っ掛けに革命軍へと加わり、目的を達成する為に活動していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ