表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

208/383

208話 覚悟の色

 アキラと話した後、ミン、そしてテンと言葉を交わしたが、その内容については飽くまで表面的なモノに留めていた。


 これは、詳しい内容について話をするのは、全員が揃ってからの方が良いだろう――と考えての事だったが、ミンの様子から何か対処すべき事があろう事は、ほぼ間違いなさそうだった。


 その後、適当な所で切り上げ自分の席に着いた正巳だったが、正巳が移動するのとハク爺が部屋に入って来るのとは、ほぼ同時だった。


 どうやら、案内はミューがして来たらしく、ミューがドアを開いていた。扉はそんなに小さい訳では無く重量もあるのだが、ミューにとってはなんら問題では無いのだろう。


 軽々と扉を押さえたミューが、入室を知らせる。


「サカマキ様御入室です!」


 心地よい高さの声が響くと同時に、ハク爺が入って来た。


「うむ、待たせたのぅ!」

「のんびり過ぎだぞ、爺さん!」


 片手を上げて入って来た"逆巻"もといハク爺だったが、ジロウから鋭い指摘を受けている。確かにハク爺が来たのは最後だったが、それは最後まで搬入などの手伝いをしていた訳で……


 少し厳しすぎる気がするし、正巳が入室したのと比べても大した時間的差はないのだが……そんな、少し厳し過ぎるとも取れる扱いを受けたハク爺だったが、当人に意に介した様子は無かった。


 それ処か、何処か嬉しそうな様子すら見て取れる。


「うむ、そうじゃの!」


 ジロウの指摘に元気に返事したハク爺だったが、それを受けたジロウは一歩引いた。


「うっ……『じゃの』、じゃないわっ」


 ジロウは、ハク爺の元気な返事を受け一瞬怯んだものの、しっかりと突っ込んでいた。そして、そんな様子に満足気に頷いたハク爺は、言った。


「うむ。そうは言っても、この子と話しながら来たからのぅ」


 そう言って隣のミューの頭を撫でたハク爺に、ジロウは何も言う事ができなかったらしい。まあ、ジロウの気持ちも分かる。


 ほぼ初対面の相手でしかも少女ともなれば、下手な事は言えなくなるだろう。


「……まぁそれは良いけどよ、余り待たせては皆に失礼だろう」

「そうじゃのぅ。ふむ、ジロウが良い子に育ってくれて良かったわい」


 お茶を濁したハク爺だったが、ジロウもやぶ蛇を恐れてか、それ以上突っ込む事は無かった。何となくだが、このジロウと言う男は真面目なのも相まって、からかわれがちなようだ。


 その後、空いていた場所に入ったハク爺だったが、その隣に居たミンを見て一瞬柔らかい表情を浮かべていた。恐らく、ミンとその隣のテンの様子を見て、微笑ましく思ったのだろう。


「待たせたな、それじゃあ打合せに入ろうか」


 全員そろったのを確認して言ったが、一向に座る気配が無いので、取り敢えず自分から座る事にした。因みに――サナはミューによって正巳の背中から下ろされ、そのまま座らされていた。


 正巳が座ると、それを確認した一同がパラパラと座り始めた。


 ユミルとミューの分は席が無かったので、一体どうするのかと思っていたのだが……ユミルは入り口の横に控えており、ミューは正巳の一歩後ろに控えていた。


 どうやら、二人は全体の給仕をするらしい。


 ――その後、全員座ったのを確認した正巳は言った。


「さて、先ずは自己紹介だな……俺は、この集まり――国家ハゴロモの責任を持っている国岡正巳だ。つい先日正式に決めた為、ハク爺含めた面々は知らなかっただろうが――」


 そう言えば、独立を決めた時ハク爺達はいなかった。


「ちょっと待ってくれ、それじゃあクゥ(・・)は国を作ったって事なのか!?」


 割り込んだのはジロウだったが、随分と驚いた様子だった。しかし、何か続けて言おうとしたジロウは、不意に後ろに回り込んだ影――サクヤのヘッドロックによって封殺されていた。


「今、弟話してる。それに今は(・・)クゥ違う。正巳」

「――うぐぅ……っふぉい……」


 綺麗にキメていたサクヤだったが、ハク爺の一言で腕を離した。


「サクヤ、力は正しき事と生きる糧の為、振るう約束だよのぅ?」

「……むぅ、分かった」


 パッと手を離したサクヤと、解放され咳き込むジロウを見ていた正巳だったが、なぜ自分の事を"クゥ"と呼んだのかが気になった。しかし――


「後で聞いてみるか……」


 今聞くべき事でないのは確かだったので、一旦後回しにして先にするべき事を済ませてしまう事にした。一度咳ばらいをしてから続ける。


「さて、それで我々は"ハゴロモ"という国家を形成する集まりな訳だが……これは言ったか。それで、こっちに居るのは今井美花――優秀なエンジニアだ」


 今井さんを紹介すると、軽く前に出て言った。


「うん、よろしく頼むよ。君たちの乗って来た旅客機、アレはばらす事になるけど、あの素材を元に幾つかの小型機を作る予定なんだ。君たちにも試乗してもらいたいからね、頼むよ!」


 ……どうやら、中型の旅客機は解体するつもりらしい。アレをどうしたのかは知らないが、ウチで買った物であれば好きにして貰おう。


「次は、先輩――上原一和だ。交渉事や契約、対外的な事を担当している」


 正巳が紹介すると、円の内ミンとテンの正面辺りに座っていた先輩が立ち上がった。


「紹介に与った上原だ。一応交渉なんかもしているが、荷運びなんかで困った時は声を掛けてくれ。何故だか知らない内に力が強くなっていたからな、大人五人分の力は出せると思うぞ!」


 そう言って力こぶを見せている先輩を見て(いや、どんな自己紹介だよ。ここは土建屋か何かかっ!)と、心の中で突っ込んでいた正巳だったが、思いの他新顔組からの反応が良くて驚いた。


 もしかすると、ミンの居た国では、力が強い事は喜ばしい事なのかも知れない。


「次はサナだが、この子はこう見えても一流の傭兵で――……」


 順番に紹介していた正巳だったが、きっちりデウまで紹介し終えたところで、ハク爺に話を振った。因みに、デウとユミルそしてサナは、其々"護衛"だと紹介したが、サナの警護対象が正巳である事を伝えると、その場にいた半数以上が微妙な顔をしていた。


 マムの事についてどう紹介したものかと思っていたが、マムが『私は"マム・アルファ・クニオカ(・・・・)"……パパの子供です!』と言った為、これまた一部が騒然となった。


 特に、サナの『サナも!』という主張と、飛び付いて来ようとするサクヤに苦笑したが、ハク爺に手伝ってもらう事でどうにか落ち着かせていたのだった。


「ほれ、進まんじゃろうが……さて、ワシらの番じゃな」


 そう言ったハク爺は、その後何処か嬉しそうな表情をして言った。


「さて、こちらの中には、始めましての方もいる様だからの。ワシの名前は逆巻じゃ、傭兵が生業のゴロツキじゃな。それで、ここに居るのは――」


 自分の紹介を淡白にまとめ、その横に居たサクヤやジロウ、そして正巳からしてみると初対面である少女へと視線を向けた。しかし、次はハク爺の声が遮られた。


「それでは、やはり貴方があの"ホワイトビアド"の!」


 声を出したのは、中年の男だった。


「それは……ううむ。のう、その呼び名は止めないかのぅ?」


 余程恥ずかしかったのだろうか、若干引きつった笑顔を浮かべたハク爺だったが、そんな事で止まる様子は無かった。更に興奮した男は、会えて光栄だとか、ハク爺の名がどんなに轟いているのかを語った後で、自分も助けられた事を口にしていた。


 どうやら、男は危うく間違いを犯しそうになった所をハク爺によって助けられたらしい。男が拳銃の引き金を引いた瞬間、飛び出して来たハク爺によって銃弾の軌道が変えられたらしい。


 元々、その銃弾がどういう軌道を描こうとしていたのかも気になったが、何となく男の視線とその先で苦笑いしているミンの表情を見て察した。


「――と言う事で、私は救われたのです!」

「うむ、らしいぞ。ジロウ、サクヤ」


 ハク爺が露骨に話の矛先を逸らすが……


「良く知ってる」

「何度も礼をされたからな。それに、オヤジが姿を隠してたからなぁ」


 そう言ってから、小さく『大変だったんだぞ、まったく……』と呟いている。どうやら、帰りの飛行機の中でも随分と礼を言われたらしく、二人は苦笑いを浮かべていた。そんな様子を見て――


「ははは、流石ハク爺だな!」


 思わず笑ってしまった。


 すると、サクヤがこちらを指して言った。


「むぅ、アレ、望みのマサミ」


 ジロウが続く。


「ふっ、そうだぞ。アレがずっと言ってた正巳だぞ! だよなテン!」

「間違いないです。正巳様が唯一の主、リーダーです」


「いや、それはさっき俺が話しただろう――」

「パパ」


 自己紹介の後で、今更改めて紹介されるまでも無いと思ったが、それに口を出したのはマムだった。何となく気まずそうな様子のマムに言った。


「どうした?」

「いえ、実は全ての言葉を通訳している訳では無く、ある程度情報を絞っているので……」


「うん?」

「ですので、彼はパパがここのリーダーである"マサミ"だとは知らなかった筈です。一応、状況からは察していると思いますが……」


 どうやら、マムは相互通訳していた訳では無く、他の人に与える情報を管理していたらしい。その言葉を聞いた時、男と目が合った。


 目が合った瞬間、先程迄の話を聞いていた正巳は、飛び付かれでもするかと思った。しかし、その瞳の中に浮かぶモノを見て襟筋を正す事となった。


 ――男の瞳には、赤々と燃える炎があった。その炎は、復讐の色では無く限りなく澄んだ、それでいて激しく強い色をしていた。


 男に覚悟を見た正巳は言った。


「名前と話を聞こうか」


【霧状通訳装置――"ミスティシステム・Typeインタープリター"】(前話の初めで登場した機械)

・マイクロマシンの一種。必要な場に散布する事で、その場での会話を補助する装置。マムの機体がその場に居る事で、どの会話を通訳するかは調整する事ができる。

・基本的に(マムによって)正巳への通訳は全ての言語に於いて行われる(今井に対しても同様)しかし、それ以外に対しては、マムの判断によって必要に応じて通訳されたりされなかったりする。それ等の判断基準は、全て正巳の利益になるかどうかである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ