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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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188話 会議 【放射剥奪】

 何故か命を懸けたがる子供達を見て、一応言っておく事にした。


「……そもそも、懸ける必要が無い所で命を懸けようとするな。基本的に、マムにお願いすれば事は済むんだからな」


 そう、今こうして子供達の中でも"護衛"の子が存在するが、基本的にはマム達にお願いすれば護衛はそれで事が済むと思う。


 まあ、現状でそんな事をすれば、あらゆる所から注目を受ける事になるのでする筈無いが。いずれ、危険な仕事は機械に任せようと思う。


 ミューが頷いたのを確認して、今井さんへと視線を戻した。すると、今井さんは何やら確認していた端末から顔を上げると、言った。


「それで、今回正巳君達はこのエリア――立ち入り禁止エリアを確保してくれたんだね?」


 どうやら、どの程度の広さなのか確認していたみたいだ。


 頷きながら応える。


「はい。かなり広範囲となるので、十分だと思いますよ」


「そうだね、十分すぎるだろうね……一応聞くけど、この地域――立ち入り禁止エリア内の物資は好きに使って良いのかい?」


 一瞬、民家やそれに類する施設が頭に浮かんだが、今井さんが言っているのは、恐らくそう言う事では無いだろう。念の為確認しながら応えた。


「ええ、個人の所有物は返還しようと考えていますが、そこに有る物質は使っても良いと思いますよ。政府からは何も通達されていませんが、収集した個人の物は独自にサイトを作るか、直接本人に返すのが良いでしょうね」


 頷いているのを確認しながら話したが、どうやら想像した通りだったらしい。


「それは良いね! ……となると、臨界点に達した時生まれるモノや、放射性物質のサンプルと研究――そうか、この機会に放射剥奪(・・・・)を試してみるのも良いね……うん、もし成功すれば購入した土地は丸々使えるかも知れないし、恩を売る目的で返却しても……――」


 再び自分の世界に入ってしまった今井さんだったが、どうやら今井さんも気に入ったらしかった。そのまま実験に入ってしまいそうな今井さんに、伝える事を早めに伝えておく事にした。


「あの、一応約束――交渉で決まった事ですが、一応国会で決議を取ってからという事だったので、大々的に動くのはまだ駄目ですよ?」


 すると、正巳の言葉を聞いた今井は若干眉をしかめていたが、それでも直ぐに言った。


「そうだね、分かった。実験には時間が掛かるからね、実験だけしておく事にするよ……流石に、水や土をすこ~し拝借するのは構わないだろう?」


 そう言って、指先で"すこ~し"とやる今井さんに応えた。


「ええ、その位なら大丈夫ですよ。それこそ、急に廃炉の隣に建物が建っていたりしなければ大丈夫です……海の中に造るのもまだ(・・)駄目ですよ?」


 不要な念押しだとは思ったが、一応言っておいた。

 すると、今井さんが苦笑しながら言った。


「いやぁ、そんな事する訳ないじゃないか~ハハハ……」


 言った後に『ねえ、そう思うよね上原君!』と、先輩も巻き込んで笑っていた。


 口元は笑っていても、目が笑っていなかった先輩に同情しながら、『そうですよね~』と続けた正巳だったが、小さく呟いたマムの言葉を聞き逃す事は無かった。


 今井と正巳の顔を見たマムは、小さく呟いていた。


「……水中研究施設は、建設停止ですね」


 背中に冷や汗が流れるのを感じながら、心からほっとしていた。

 思い込み程恐ろしいものはないらしい。


「今度から念押しは外せないかもな……」


 その後、マムを呼び寄せ話をしていた今井さんを横目に、以上が報告事項である事と夕方頃にアブドラ達が来る予定だと伝えていた。


 軽い調子でアブドラ王子基――アブドラ現国王の来客を伝えた正巳だったが、どうやら子供達は"アブドラ"という存在に関しては十二分に学んでいたらしかった。


 子供達が『あの冒険王子?』とか『滝に飛び込むシーンカッコ良かったよね!』とか話しているのを聞いて、今夜は賑やかになりそうだと思った。


 子供達の様子を確認した後は、ユミルと綾香が楽しそうに話している様子を見ていたが、ふと先程から不自然に静かな存在が居る事を思い出した。


 その姿を探した正巳は、自分の真後ろに漂いながらすっかり眠っていたのを見つけた。どうやらサナは疲れて寝てしまったらしかった。


 サナを引き寄せた正巳は、アブドラの話で盛り上がっている子供達と、いい加減気の毒になり始めていた先輩。そして、端の方で何やら打合せをしている今井さんとマム――全員に言った。


「全員――これで報告を終える。各自共有を忘れないように!」


 正巳が言うと、それ迄はしゃいでいた子供達は揃えて応えた。


「「「はい!」」」


 その後、マムによって部屋内に重力が戻されていった。


 今井さんに仕組みを聞きたくなったが、一度聞いてしまうと長くなる事は目に見えていたのと、マムとの話はまだ終わらなそうだったので、またの機会にする事にした。


 しばらく浮いていた為だろう歩く感覚がおかしかったが、それも少ししたら戻った。未だにふらふらとしている一同に『先に出ている』と言うと、一旦部屋に戻る事にした。


 無重力装置(コスモ)2を出ると、扉の前に白いモフっとしたボス吉が居た。

 ……どうやら、外で待っていたらしい。


 サナを片腕に持ち替えてボス吉を撫でていると、開いた扉からマムが出て来た。


「もう良いのか?」


 今井さんと話し込んでいたマムにそう言うと、満面の笑みを浮かべたマムが言った。


「はい、大丈夫(・・・)です!」


 マムの笑顔を見ながら、次は何を企んでいるのだろうかと考えた正巳だったが、少し考えてみて止めた。必要であれば、その都度報告して来るだろうし確認を取るだろう。


「……まあ大丈夫か」


 そう呟いた正巳は、まさか予想外の事が裏で進み始めている等とは、思ってもいなかった。


 正巳が自室へと歩き出してた頃、まだ室内に残っていた今井は端末を片手に持ち、そこに表示されていた大きな楕円状の物を見て呟いていた。


「プラズマの安定化と、融合炉の小型化の設計は出来たね。これを上手く組み込めば良い訳だけど……浮遊実験室の前に、やっぱり炉壁の放射化対策が先かな。一応周囲の放射性物質への対応も必要だしね。そうなると放射剥奪(ほうしゃはくだつ)に使う、未分類物質の確証実験が先かな~やっぱり」


 そう呟きながら見ていた端末には、ゆっくりと回転しながら浮かぶ大きな施設と一つの化学式が表示されていた。


 その施設は"建物"と言うよりは、"飛行船"のような形をしていた。


 それが航行せずにただ宙に浮かび、ゆっくりと移動する類の"浮遊施設"であると気付く者は少ないだろう。そして、その隣に表示されていたのは"化学式"だ。


 この半螺旋型をした化学式からなる物質は、核分裂後発生する生成物の一つだった。この生成物は、半世紀以上前に見つかってはいたものの、極秘とされていた物質だ。


 その生成過程は複雑ではあるが、使いようによっては瞬時に莫大なエネルギーを生み出す為、ごく一部の者以外には極秘とされていた物質だったのだ。


 今井が考えたのは、この生成物質が正負を中和する枠割を持つ物質では無いかという事であり、この考えが正しければ、この未知の生成物によって放射剥奪が起こる筈なのだ。


 ここで言う"放射剥奪"とは、その名の通り放射()を剥奪するという意味だ。


 簡単に説明するならば、人体に有害な影響を与える放射線を放出する"放射性物質"から"放射能"を奪い、無害化すると言う事である。


 今井とマムは、この生成物に関する仮想実験(シミュレーション)を既に、数千数万通り終えており、後は確証実験を残すのみだった。


 どうやら、いよいよ新たな世界が見られそうである事に興奮していた今井は、上原の心底げんなりとした表情に気付く事は無かった。


 壁に背を凭れ、今井が楽しそうにしている様子を見ていた上原だったが、手を差し出して来た男に礼を言うと、取り敢えずベッドで休息を取る事にした。


「悪いなデウ」


 疲れ切った様子の上原に苦笑したデウは言った。


「なに、いつもの事だ」


 互いに支え合いながら部屋を出て行った二人だったが、その様子を見ていた一部の子供達――主に女の子だったが――は、小さく黄色い悲鳴を上げていた。


 健全かどうかは分からないが、ここでも小さな"成長"はあったらしかった。


忘れもしないあの震災。地震後に付けたテレビで、胸をむしられる様な思いをした事を覚えています。私の親族も被災しました。未だに帰れない、立ち入れない地域は沢山あります。入る事は出来ても、人体への影響を考えると子供をそこで育てる事は中々難しいのが現実です。将来放射性物質関連の問題が解決される事を願い、被災者全てのご家族のご冥福をお祈り致します。

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