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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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185話 今日より我らは

誤字報告いつもありがとうございます、大変助けられております(。>ω<)ノ

 拠点へと戻った正巳達は、地上部分に誰も居ない事を確認すると、地下へと降りて行った。マムの話によると、子供達は『念の為、避難させておきました』と言う事だった。


 どうやら、地下二階以降はより強度の高い"シェルター構造"をしているらしい。先輩が『資材を調達するのが大変だったんだよなぁ……』と呟いているのを聞きながら、地下二階へと向かった。


 エレベーターを降りると、子供達のお出迎えを受けた。


 子供達に『ただいま』と挨拶をしながら歩いて行くと、中央部分に巨大な投影装置が起動していて、そこに外の様子が映し出されているのが確認出来た。


 映像には幾つかの視点があり、どうやら複数の監視機器を用いているみたいだった。


 外の状況を見ていると、今井さんが歩いて来たので言った。


「問題ありませんでしたか?」


 すると、何故か少し楽しそうにして今井さんが答えた。


「無いとも! 懸念していた防壁面についても十分に検証が出来たからね。ただ、戦艦の砲撃を受けていたら不味かったかもね……まあ、早めに"制御機器掌握兵機(システムクラッカー)"を出していたから、直接大口径での攻撃を受ける事は無かったんだけどね」


 どうやら、聞いていた"高速艇"と言うのは戦艦の一種だったらしい。


 拠点の防衛の方は任せていたし、その防衛能力についても信頼していたが、少しヒヤッとするモノがある。今後も同じ様な"危険"があっては困るが……


 今井さんに『一先ず安心ですね』と返してから、改めて投影されている映像に目を向けた。


 そこには、幾つかの自動操縦されたボートが海の上を走り、生きている敵兵たちを掬い上げている様子が映っていた。恐らくこの後は、海上自衛隊を通して国へと引き渡されるのだろう。


 どうやら、戦艦を撃破はしても死傷者が出ない、或いは少ないように工夫したらしい。その様子を見て、一抹の不安がよぎっていた。


 不用意に命を奪う必要は無いが、必要であれば即断する覚悟(・・)は必要だ。――とは言っても、いざ人の命を奪うとなった時でも、そう簡単に割り切れるものでもないだろう。その苦悩を実感した事は無いが、知識として知っている(・・・・・)


 まあ、必要があれば汚れ役は俺がすれば良いだろう。


 少し前から気が付いてはいたが、俺には人の命を奪う事に特別躊躇が無く、後から悩まされると言う"罪悪感"が全く存在しない。


 他の傭兵から『最初に人を殺したら罪悪感で潰れるか、乗り越えて麻痺する。その苦悩がない奴は元から向いていたか、そもそも感情が抜け落ちている奴だ』――と聞いたことが有った。


 その話を聞いた訓練当時、一緒に同行していた二人が心配になったモノだったが、どうやらサナは元から向いているタイプで、デウは苦悩しながら乗り越えた(麻痺した)タイプだったらしい。


 ……因みに、ユミルは何方かと言うと向いていたタイプで、ハク爺は乗り越えたタイプだろう。それに、恐らくミューは罪悪感で潰れるタイプで、同じように綾香も耐えられないタイプだと思う。


 そう考えていた正巳は、心の中で――ミューと綾香を始めとした面々には、その業を負わせない様にしなければならないなと思った。


 心に決めた正巳だったが、不意に覗き込んで来た今井さんが言った。


「……正巳君にだけ、重荷を負わせるつもりは無いからね?」


 嬉しく思いながらも言うべき事を口にしたのだが、言い切る前に阻まれてしまった。


「いえ、それは俺の責任なので――」

「おいおい、そりゃあないだろ?」


 正巳の肩に手を置いた先輩が、言う。


「お前なぁ、俺だって一応仲間なんだぜ?」

「先輩……」


 先輩とアイコンタクトを取った今井さんも、続ける。


「そうだよ! 正巳君が負おうとしているモノは、僕達にも負う権利(・・)が有るんだからね!」

「今井さん……」


 なんと答えたら良いか分からないでいた正巳だったが、ミューと並んで『お帰りなさい!』と迎えてくれていたハクエンが、一歩前に出ると言った。


「お父さん、僕――いや、僕達もいつまでも守られている訳には行きません。今はまだ心配させてしまうかも知れませんが、僕達がお父さん達を守れるように必ずなります!」


 ハクエンの言葉に、『ああ、だがな……』と言いかけたが続けてミューが言った。


「私達給仕は前に立って戦う事は出来ませんが、支えるのは任せて下さい!」

「「任せて下さい!」」


「ミュー、それにお前達……」


 ミューに続いて合唱したのは、給仕部の子供達だった。


 護衛部の子達が其々『ぼくも守る!』とか『俺も戦う!』とか言っていたのに対し、やはりミューの統率力はずば抜けているみたいだ。


 ピタリと揃った宣言に、改めて考えさせられた。


 子供達の決意は、既に何度か聞いていた。


 しかし、今日のような有事に直面して初めて、これまで何度か『任せる』と言いながらも、ただ守るべき"子供"としてしか見ていなかった事に気付かされた。


 今思えば、子供達の訓練の事だってちょっとした"おままごと"の延長としか認識していなかった気がする。それこそ、確実に『お前達と俺は同じ戦場に立っている』では無かった。


 言うなれば、『俺が戦場に立つから、後ろで隠れていろ』だっただろう。

 いや、保護者としては当然なのだが……


 改めて考えてみても、やはり心配なものは心配だ。幾ら『実力はある』と言われても、はいそうですかと受け入れる訳には行かない。ただ、子供達の気持ちも良く分かる。


 どうしたものかと考えていると、隣に居たサナが手を引いてから言った。


「大丈夫なの。皆も出来るなの!」

「サナ……」


 隣にいるサナも、周りの子供達と変わらないような年だ。


 今や一端(いっぱし)の傭兵となっているサナだが、元からではない。


 何となくサナが特別な例外で、他の子は力のない子供と思っていたが……今後は考え方を改める必要が有るかも知れない。少し反省した正巳だったが、いざ一人の兵士として子供達を見るとやはり不安な部分があった。


 ハク爺によって基礎が叩き込まれたとは言えだ。


 それこそ、死線を越えた経験やよりリアルな状況下での経験が足りていない。


 周囲から期待するような視線が集まる中、正巳は口を開いた。


「分かった。それじゃあ、皆を実戦向きに鍛える事にする」


 正巳がそう言うと歓声が沸き上がったが、その歓声を抑えてから続けた。


「だが、俺のメニューは厳しいぞ! それこそ、精神的に向いていない者は問答無用に外す。訓練はより実践的なモノで厳しい。――勿論、護衛の者だけではない! 給仕に関しても、より高度で難しい内容を学ぶ事になるだろう!」


 半ば脅す様にして言い放った正巳だったが、その言葉を受けた子供達は、全員(一部小さな子供は一テンポ遅れていた)が一様にして礼をとっていた。


 その様子を見た正巳は、覚悟を決める事にした。


 ……今決めた事で将来後悔するかも知れない。

 しかし、ここで決めるのはそうした将来の後悔も含めて背負う"覚悟"だ。


 正巳が負っているのは、罪を背負う覚悟、後悔を背負う覚悟、そして今後この集団が起こす可能性のある物事"全て"を背負う覚悟だ。


 幾ら、先輩や今井さんが『共に背負う』とは言ってくれても、これだけは俺が背負わなくてはいけないだろう。それこそ――始めた者の責任だ。


 全体を見回した正巳は言った。


「それでは、今日より我らは"ハゴロモ"――共生国家ハゴロモだ!」


 正巳の宣言に応じた一同は一斉に礼をとった。


「「ハッツ!」」


 この日、一つの団体に過ぎなかった集まりに、国としての名が付けられた。


 その名は、男が以前何処かで読んだ話から取ったモノだったが、『願わくば自由であり、共に生きる人々に喜びがあるように』との願いが込められたものだった。


 その後、『自分にも故郷ができた』とはしゃぎ回る子供達と、その横で『宴会なの!』と言ったサナに同調して『そうだね、これは宴会だね!』と盛り上がっている面々を眺めていた。


 途中、マムが『パパ、次は世界に名を知らしめましょう!』と言ってはしゃいでいたので、『程々にな』と言っておいた。


 その後、先輩や今井さんに後は任せる事にして一先ず、今ここにはいないが『頑張ってましたよ』と聞いていた子の元へと向かう事にした。


 歩き出した正巳だったが、ふと足元にボス吉が居る事とその顔が何処か誇らしげにしているのを見て、撫でまわした後にユミルに預けておいた。


 ユミルは、ここの所ボス吉を見つけても触れられていなかったらしく、無心になって手を顔を埋めて堪能していた。


 いつも通り、隣にマムとサナが付いてくる中で一人加わった者が居た。


「お兄様、遂に国を建てたのですね! 聞いた話では、お爺様達が新しい子供達を連れて来るようですし……それに、ちょっと"今回の事"は驚きましたけど、それでも中々に刺激的で――」


 その言葉を聞いていて思い出した。


「そうか、綾香は"安全の為"に一緒に来てたんだったな。……実家に戻った方が安全だと思うし、龍児からも『戻せ』と言われそうだが、どうだ?」


 少し後ろをついて歩いて来た綾香に『実家に戻るか?』と聞いた。すると、目を丸くした綾香が頬を膨らまし、眉を少しきつくして言った。


「お兄様はあほですか、無能ですか、鈍感ですかー!?」


 想定していなかったスピード感のある突っ込みで思わず戸惑ったが、どうやら『帰らない』と言いたいらしかった。


 若干戸惑っていた正巳だったが、マムに言われてしまった。


「パパは鈍感ですからね」


 ……いつの間にか、感情を読む事に関して、人工知能であるマムに追い越されていたらしい。


 何となく納得のいかない思いを抱えながら、綾香に『綾香がそうしたいなら、お前の居場所はここにあるさ』と言いながら、先――今回の拠点防衛に際しての"功労者"の部屋へと歩みを急いだ。


 その後、マムから『そうです、パパ達を襲撃した者達に"追跡チップ"を埋め込んでおきました』と報告を受けた正巳は、『いつだ?』と驚いていた。


 マムの話を聞くと、どうやら正巳達が去った後すぐ、拠点から機械を放っていたらしい。チップを埋め込む為の機械は、母機と子機に分かれているらしく、母機で高速移動して子機が埋め込みを行うと言う事だった。


 加えて『今は痛みを感じさせる場合が多いですが、何れは自然に体内に取り込むようなモノを作ります!』と息巻いていた。


 何となく『なあ、俺にチップを付けたとしても、追跡させるかどうかは俺が決められるようにしてくれな?』と、冗談半分で言っていた。


 その後、幾つかの通路と昇降装置を使った一同は、ようやく一つの部屋の前に辿り着いていた。その扉には、部屋の持ち主を示すプレートが掛かっていた。


 プレートにはこう彫られていた。


 ――『リルの部屋』


 扉を軽くノックすると、開いた扉から中に入った。

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