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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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183話 襲撃と制圧

 交渉を終え帰途に就いていた正巳は、車内でサナとマムに挟まれて座っていた。


 サナとマムは目の前の映画を夢中で見ている。


 ……其々の登場人物の声は、何処かで聞いたことが有るものだった。恐らく、マムの方で有名な俳優の音声をコピーして、其々のセリフに当てているのだろう。 


 マムには、後で著作権やそれに関連した権利について、教える必要が有るかも知れない。


 映画を見ながらも、その頭では先程の交渉でのことを思い出していた。


 最初に案内された先での、財務大臣との交渉。

 その後の"本番"とも言える、総理大臣との交渉。


 それぞれの交渉の際に同席していた者達についても、少し気になったが、後でマムに確認をしておこう。特にあの"佐野"と言う男は色々と頭が回って、優秀そうな男だった。


 何は兎も角、今回の交渉は大部分で上手く行っただろう。


 技術の提供をと言われた時は、どうなるかと思った。しかし、それも合同出資での事業と言う事で、落としどころを作る事が出来た。


 少し経ったら具体的な話をする事になるだろうが、大まかな部分は今井さんと先輩に任せるのが良いだろう。


「マム、合同出資での政府との事業の事なんだが」

「はい、何でしょうか?」


 サナの邪魔をしない様にして話しかけると、それを察しただろうマムが、同じく小声で返して来た。そんなマムの頭を撫でながら言った。


「技術の貸し出し(レンタル)をしても、外部に技術が漏れない様に出来るか?」


 すると、少し悪い顔をしたマムが言った。


「はい。そう言う事でしたら、もし不適切な使用方法を取った場合には、爆発する様にでもしておきましょう。それと、悪い事をした関係者の情報を洗い出し、その秘密を暴露しちゃうと言うのも――」


 暴走しそうになったマムに、慌てて言う。


「いやいや、そこまでしなくても良い。そもそも爆発なんてしたら、こちらに責任を求められるのが関の山だからな」


 正巳の言葉を聞いたマムは、少し残念そうだったが、『それじゃあ……』と代案を出して来た。


「それじゃあ、到底解析出来ない様な仕組み(機械を使わないと不可能)にして、解析の際にマムが干渉する形を取ります。後は、何か手を加えると通知が届くようにして、悪い事した関係者の事は、暴露せずに情報を蓄積しておきます……」


 マムの代案に満足した正巳は、頷くと『頼むな』と言った。


 その後、静かに考え事をしていたのだが……視線を感じて目を向けると、ユミルが羨ましそうにしていた。そんなユミルに苦笑しながら言った。


「ユミル、ここで二人と見ててくれるか?」


 ユミルに『先輩と話す事があってな』と言うと、『そう言う事でしたら』と素早く移動して来た。ユミルに席を譲った正巳は、何やら生暖かい目で見ていた先輩と、数歩離れてスクワットをしているデウの元に行った。


「……良いのか?」

「ええ、多分今夜も見る事になるでしょうから」


 恐らく、アブドラが来たら見る事になるだろうと予想した正巳だったが、どうやら先輩も同じ考えだったらしい。短く『だろうな』と答えると、言った。


「国王様との事は"映画"で知ってはいたが、丸々事実だとはな」

「まあ、色々有ったんですよ……」


 少し懐かしむようにして言うと、先輩も『そうだよなぁ……』と言って遠い目をしていた。恐らく、半年間の激務の事を思い出していたのだろう。


「そう言えば、さっきの交渉で言ってた『立ち入り制限・禁止エリアへの立ち入り権限と、地域一帯の管理権限の一任』ってのは、もしかして今井部長の為の――」


 そう言った先輩だったが、その声は途中で遮られた。


「パパ、敵襲です!」

「数は?」


 急ハンドルを取り、右に左にと移動する車両の中、状況を確認した。


「数は車両八台、乗車数は約四十名と見られます。尚、同時に拠点も攻められています!」


 どうやら、周囲を囲む車両――黒の大型SUV車が車を当てて、止めようとしているらしい。現在走っているのは、周囲に車両の少ない直線の田舎道だが、そんな中に在って前後に四台ずつ――計八台の車両が走っていた。


「よし、各員戦闘配備!」


 どうやら、拠点も攻められているらしいが、先ずは目の前の敵だ。拠点の防衛に関しては、その防御設備だけで問題無いだろう。


 心配なのは、敵を始末した際に子供達に悪い影響――心に傷を負わせてしまわないかだ。何にしても、早く始末をつけて戻るのが良いだろう。


「先輩は何があっても車両内から出ないで下さいね」

「ああ、分かった」


 先輩から確認を取っていると、マムからの報告があった。


「制御掌握完了です!」


 マムからの報告に頷いた正巳は言った。


「よし、それじゃあそのまま海沿いで止めてくれ」

「分かりました、パパ!」


 そう言ったマムは、全車両(・・・)のスピードを上げた。


 綺麗に整列して走る車両を確認した正巳は、後続車両内の様子を見て苦笑した。


「もしやり合おうと思ったんなら、最新の車はダメだろ」


 その後、完全に制御された車両は廃漁港へと着いていた。


 そこには、大きな倉庫もあったが、使われなくなってかなりの時間が立つらしく、赤黒くなった錆が目についた。


 そこに到着し、船の無い船着き場を見つけた正巳は言った。


「順番に車を海へ突っ込ませろ」


 正巳の言葉を聞いたマムは『分かりました!』と言うと、早速車を海にダイブさせ始めた。その様子を車内から見ていた正巳だったが、後ろで先輩とデウが話しているのが聞こえて来た。


「おい、正巳はいつもこんな感じだったのか?」


「ウエハラ、こんなのは優しい方だぞ。中東で麻薬王"ガポル"を始末した時は、もっとエグかった。何せ、あの"残虐ガポル"が、今や"雌犬(ビッチ)ガポル"なんだ」


「それってどういう――」


 何やら余計な事を話しているのを聞きながら、後でみっちりデウと訓練をする事に決め、目の前で最後の車が海に突っ込んで行ったのを確認していた。


 途中、一人の男が窓ガラスを割って外に飛び出していたが、その男にマムが車で追突すると、それ以降外に降りる者は居なくなった。


 一瞬見えた男は、その顔に目出し帽を着けていた。

 その様子を見た正巳は、一瞬何処かで男を見た事が有る気がした。


 本当であれば、このまま男達を拘束して連れて帰るのが良いのだろう。しかし、わざわざ中に入れてやる事も無いだろうし、今後も同じように対処をしていたら面倒だ。


 情報は欲しいが、別に拷問なんかしなくとも、泳がせておけば直ぐに状況は把握できる。


 その後、地面に倒れて居た男が起き上がろうとするのを見た正巳は言った。


「……よし、それじゃあ行くか」


 何となく男の正体が気になったが、そんな事よりも拠点の方が心配だ。


 後で回収出来るように、車を沈めた場所だけはマムに確認させると、そのまま拠点への道を急いだ。敵襲は最初の一度切りだったが、どうやら敵はこちらが傭兵として活動していた事を知っている訳では無いようだった。


 可能性として、傭兵として訓練を受けていた頃の恨みを返しに来たのかと思ったが、どうやらそう言う訳では無いみたいだった。


 もし、傭兵をしていた時の借りを返しに来たのであれば、少なくとも後三回は襲撃が無くてはおかしいだろう。


 何となく当たりを付けながら、マムが『加速するので掴まって下さい!』と言うのを聞いていた。その後、蒼い炎を上げていた車両は、通常だと80分は掛かる道を20分弱と言う超スピードで戻っていた。途中途中で、何となく車両が宙に浮いていた気がしたが、それを聞くのは止めておいた。


 マムの『見えました!』と言う言葉と共に、目の前に我らが住処が見え始めていた。


 そこには、黒煙を上げて沈んで行く船と、その手前に幾つかの傷やヒビを残して佇む六角形の、我らが拠点があった。


 その様子を見た正巳は思わず呟いていた。


「……あれ? 拠点の名前って付けたっけ?」


 その後、マムから『制圧完了済。ヘリコプター三機及び、大型高速艇は撃破致しました。現在海上自衛隊が向かっていると報告を受けています』と報告を受けながら、その頭の中では拠点の名前を何と付けたものかと悩んでいた。


 停車した車両内から周囲の気配を探った後、誰も居ない事を確認して車両から降りた。


 その後、いつも通りに拠点内に入ると、内側からその破損具合を確認したが、どうやら一番外側の強化ガラスに、ヒビが入っただけだったようだ。


 安堵した正巳は、『出番なかったなの……』と少しつまらなそうにしているサナと、『パパ、頑張りましたよ!』とアピールして来るマムの二人を抱き上げていた。


 両肩に二人を乗せ、ユミルとデウ、それに先輩と顔を合わせた正巳は言った。


「無事に終わったな」


 正巳としては、交渉の話をしたつもりだったのだが、その言葉を聞いた先輩はため息を付いていたし、デウは『こんな感じなんですよ』と言っていた。


 唯一、ユミルは『流石正巳様です』と言っていたが、皆の反応に何となく納得が出来なかった。


 何故なら、重要なのは交渉の結果なのだ。


 くだらない、戦闘とも言えないような襲撃が重要なのではない。


 ――半年の間で、すっかり判断基準が狂っていた正巳だったが、それに本人が気が付く事は無かった。それこそ、ザイにとってはこの"状態"こそが目的としていた事の一つだったのだが、その一種の"親心"を正巳が知るのは、まだまだ先の事らしかった。

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