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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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181話 交渉 【合同出資】

 これが一般的な"交渉"の場なのかは分からないが……


 首相とアブドラを始めとした面々は、其々のソファに座り、少し背の高いテーブルを中心にして円を作っていた。


 "円"と言うよりは"U字"を作っており、正巳と首相達が対面で座り、その間にアブドラ国王が座っていた。敢えて触れる事は無かったが、アブドラの護衛兼付き添いをしていたのはライラだった。


 正巳と一瞬視線を合わせたライラは、目で会釈していた。どうやら、問題なくアブドラの付き人になれたらしかった。


「それでは、改めて確認させて頂きますが――」


 言葉を発したのは、上原先輩だった。


 先輩は今、U字になった内両者の間――アブドラの対面にパソコンを置き、スクリーンを背にして両者間において交渉のテーブルに乗せられた内容の整理を行っていた。


 最初、職員を用意すると言った首相に対して、先輩が『慣れてますので、私がやりましょう』と言った。内容的にも、なるべく内密にするべき内容だったので、今回は先輩が書記の様な事をする事になったのだ。


 先輩の背後には、パソコンの画面が投影されている。その内容を確認すると、菊野財務大臣と交わした内容を始めとして、新たに幾つかの内容が加えられていた。


「――と言う事で、新たに加えられた内容も確認いただけたかと思います」


 道尊寺に関しては、本人の犯した罪の他に、その息子の犯した罪に関しても詳しい内容を時系列にしてまとめていた。


 他にも、ちょっとしたプレゼントとして、議員ら其々の後ろ暗い秘密も幾つか見繕って(・・・・)提示していたが、その中には"スパイ"として入り込んでいる大陸の闇組織"顔無し(ノーフェイス)"の構成員の情報も含めておいた。


 他には、自衛隊の上層部と財務大臣が関係して、生物兵器の購入をしようとしていた事や、その他京生貿易の幹部による政権幹部への金銭授受など、政権としても国際的に責任を担う国としても致命的となり得る情報が含まれていた。


 そのデータの内、アブドラが知っても問題ない内容を選び、マムを通して先輩の操作するパソコン上に表示させた。すると、それを見た首相らは『元からパソコンにデータを?!』『いや、外部機器を付けたのだろう?』等と驚いていた。


 驚いている首相らに対して、アブドラが『こんな事は造作も無いだろうさ、試しに後ろの二人……男の方でも身体検査をすると良い』と言うと、どういう事かと不思議な顔をしてみて来たので、若干アブドラを睨みながら『気にしないで下さい』と言った。


 どの様な使い方をするかは首相ら次第だが、恐らくは道尊寺及びその側近達を政権から締め出す為にでも活用するのだろう。


「それでは改めて、これら内容に関してどの様な"対価"を頂けるのでしょうか?」


 そう言った正巳に対して、首相が言った。


「一つ確認したい」


 首相に『何なりと』と返すと、何故か少し緊張した様子で言った。 


「君たち、いや、貴方(あなた)方は何を目指し、何をしようとしているのですか?」


 首相の表情とその言葉から、こちらを見極めようとしていると知った。


 鋭い視線を受け止めながら、何となく同じ"責任"を持つ立場の者として、その感情が理解出来た。首相のその目には、確かに国民を思いその生活に責任を持つ者としての"決意"があった。


 その視線を受け止めた正巳は、真っすぐ見つめ返して言った。


「私達は、搾取される世界と不当な悲しみの無い場所で生活をしたいんです。その為に必要な事は全てしますし、もし必要であれば実力行使も行います」


 ……若干、必要以上に武力に関連して示し過ぎたかとも思った。しかし、普段から臭いものに蓋をする習慣のある民族なのだ、この位はっきりと言った方が良いだろう。


 正巳の言葉を聞いた首相は、隣に座っていた男――現職の官房長官と二、三言葉を交わしてから言った。その言葉は、正巳にとって印象的だった。


「分かりました。貴方方は、どうやら"新しい社会"を作ろうとしているようですね。私共は、こうして経済大国として外部からの侵略には、経済力で対抗しています。貴方方が名乗りを上げれば、必ず取り込もうとする国が現れるでしょう」


 そこで一呼吸置いて言った。


「願わくは、経国済民(けいこくさいみん)でありますよう。そして、いずれは経世済世(けいせいせいせい)へと至るようお祈りしています」


 『経国済民』とは、恐らく『経世済民』を文字ったのだろう。


 経国済民に経世済世……つまり、国を治め民を救う政治を行い、何れは世を治め世を救う政治を行うように――そのような事を言いたいのだろう。


 言った後で『まぁ、我々が何か言えたものでは無いのだが……』と言って笑っていた。実状はどうであれ、先輩である事には違いないのだ。素直に言葉を受ける事にした。


 その後、静かにしていたアブドラが『ふむ、そうよのう我もそのような政治がしたいものよ』と呟いていたが、それに対してライラが『腐った部分は粛清をしましたが、再発しないように防ぐ仕組みづくりも必要ですね』と言っていた。


 そんなこんなで、何故か一先ず場が落ち着いていたが、肝心の内容に触れていなかったので、改めて注目を集めると言った。


「それで、内容を確認したいのですが、先ずこちらの『技術提供』というのからですが――」


 改めて首相が交渉に乗せて来た情報を確認したが、その内容は余りに"無茶"だった。何せ、こちらの『所有する技術に関してその資料を共有する』とあるのだ。


 ……これは話にならない。


 先程からの良い雰囲気にのまれそうになっていたが、冷水を掛けられた気分になった正巳は、若干威圧しながら言った。


「これは、"冗談"でしょうから……そうですね、一部の"貸出(レンタル)"をする事としましょう」


「……貸出でしょうか?」


 足が震えているのが見えたが、震えを声に出さなかったのは流石だろう。


「ええ、こちらから必要であれば機器を貸出(レンタル)します。勿論、解体して中の構造を研究する事などは禁止します。ですが、我々の貸し出す機器は生活を大きく向上させるでしょう」


 正巳がそう言うと、首相らは訝し気な顔をしていた。しかし、隣に居たアブドラが『おい、当然"友"である我らとも、その取り決めをするであろうな』と言ったのを見て、目つきが変わっていた。


 ……何をしに来たか分からないアブドラだったが、どうやら援護射撃をしたつもりらしい。一瞬の隙を見て、こちらにウィンクをして来た。そんなアブドラを見なかった事にして視線を戻すと、首相がこちらを見て言った。


「それでは、仰る通り"貸出"に。しかし、貸出先の企業が勝手に解体をしてしまった場合は、どうすれば宜しいでしょうか……全てを管理は出来ないので」


 首相の言葉に、『完全にブラックボックス化して、中を弄れないようにする』と言いそうになったが、それ迄記録していた先輩が言った。


「それでは、私共と合同出資で企業を作り、その会社で運営を行うというのはどうでしょうか。そうすれば、管理と運営は適切に行われると思いますので」


 先輩の言葉を聞いた首相は、一瞬渋い顔をしかけたが、正巳の顔色を見て言った。


「素晴らしいですね」


 そう言った首相に『それではその様に』と言うと、首相と手を交わした。


 その後、詳しい詰めは後で行うという事にして続けた。


「それで、こちらの"神楽正巳の手配の解除"と言うのは?」

「ああ、それは大使館襲撃犯として手配されている事で――」


 途中まで言った正巳だったが、それを聞いた首相は先程迄とは打って変わり、厳しい視線へとなっていた。何故かはわからなかったが、それを確認する前に続けた。


「私の本名は"国岡正巳"ですが、"神楽正巳"として手配されているのを解除して欲しいのです。実際、私が大使館を襲撃したのではなく、大使館内部でその様な暴挙を取った男が居まして……」


 その後、半年以上前の出来事を思い出しながら、説明していた。

 話し終わるまで静かに聞いていた首相だったが、話し終えると言った。


「それで、その内容が真実だと証明する"証拠"はありますか?」


 首相の言葉に、マムにその証拠の提示をさせようとした。

 しかし、そんな正巳を見ていた首相が言った。


「貴方方の技術力であれば、簡単に証拠を捏造可能でしょう。何か決定的とも言える証拠はありませんか? もし存在しなければ、私は政治家である前に、一人の友人の友として貴方を捕え無ければいけません……あの時公表されたリストの中には、あいつの残した子が……」


 最後の方は消えそうな声で言った言葉だった。


 そんな首相の様子を見ていた正巳だったが、果たしてどうすれば良いのか、その解決方法が全く思い浮かばなかった。


 すると、マムからの通信があった。


『パパ、どうやらあの大使館の前任大使は、首相と交流があったらしく……』


 若干、骨がムズムズとしたが、マムからの連絡を受け取った正巳は言った。


「それでは、あの大使館から救出して来た子供達――その中でも、"ミン"と言う名の少女に証言して貰いましょう」


 正巳がそう言うと、目を大きく見開いた首相が言った。


「"ミン"と言ったか?」


 どうやら、正解を見つけたみたいだった。


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