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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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179話 交渉 【財務大臣】

 扉を入ると目の前には長机があり、その奥には数人の男達が居た。


 その様子を見ながら、予めマムから受け取っていた受信用の通信機(シール型の道具で骨伝導により報告を受け取る)から伝わって来る報告を受け取っていた。


 他言語でやり取りをする訳でもない為、流石にイヤホンを着けて交渉をする事は出来ない。かと言って、常にマムとはやり取り出来るようにしておく必要がある。


 その結果、考えた末にこの"シール型受信機"を用意したのだ。色や質感も肌に完全に合わせているので、気が付く事はないだろう。


『セキュリティ 掌握』


 この施設セキュリティは、流石政治を動かす長が居る場所と言うだけあり、特殊なつくりをしていた。外部からの情報は取れるが、内部の情報は外に出せないというつくりだ。


 その為、セキュリティを掌握するには現地で直接(・・)手を加え、システムを弄る必要が有ったのだ。この報告は、それらが問題なく終了したという報告に他ならなかった。


『ゲート 工作完了』


 この施設に入る際、ボディチェックは無い。これは、要人を招く際に失礼にならない為の配慮だが、その代わりに部屋に入るまでの間に幾つものセキュリティ"ゲート"を通る事になる。


 このゲートを通過した際、何らかの問題があれば、本来とは別の部屋に通されるという訳だ。これは、前もって入手していた施設の設計資料から得ていた情報だが……


『職員 海佐 空佐 陸佐 財務大臣』


 ……どうやら、問題なくチェックを通過したらしい。


 ただ、今回のメインである首相は居ないようだった。それに、一見すると胸を張っている制服姿の三人が偉いかの様に見えるが、その三人は飽くまで左官……つまり、その組織のトップクラスでは無い。


 加えて、端に居る男の内片方は……。


 少し注意して、やり取りを進める必要があるなと思いながら、早速本題に入る事にした。テーブルに着くように勧められるのに従って、席に着いた。


 ――席に着いたのは正巳と上原で、護衛の二人は後ろに立ったままだった。


「ご紹介します。左から海上自衛隊幹部"霊山(りょうぜん)"、航空自衛隊幹部"富瀬(とみせ)"、陸上自衛隊の幹部"槇原(まきはら)"、本日は私"佐野"と"菊野"が担当させて頂きます」


 その肩の階位を示す階級章を見る限り、嘘を付こうとしている訳では無いと思うが、詳しくない者であれば、簡単に騙されてしまう処だろう。


 佐野と名乗った男は、職員としては幹部クラスかも知れないが、反対に居る菊野財務大臣と比べると地位的には比べるまでもないだろう。


 どういう意図かは分からないが、それは話せば分かるだろう。そもそも、目の前の者達に話せる情報は限られているので、情報を絞る必要はあると思うが……何れにしても、今回の目的――敷地内での治外法権と相互不可侵を認めさせれば良い。


 こちらを見て『よろしくお願いします』と言った佐野に対して、正巳は答えた。


「国岡正巳です。隣は上原和一、後ろに居るのは護衛です」


 正巳が言うと、後ろに居たユミルとデウが其々礼を取ったが、その際僅かに陸佐と菊野財務大臣が鼻で笑った。恐らく、護衛と言うのが女性と外国人なのが可笑しく映りでもしたのだろう。


 目の端に留まりはしたが、この場で反応しても益は無いので、構わず続けた。


「それで、今回は交渉をしたいと思って来たのですが、改めてご説明いたしましょうか?」


 すると、佐野が言った。


「はい、今回は現政権幹部が問題を犯したと聞いております」


 ……?


「ええ、そうですね……」


 若干、食い違いが有るように感じた。そもそも、こちらの素性を改めて聞きもせずに、話を進めるということが有るのだろうか……まあ、目の前の男達も素性を明らかにしていないので、わざわざ話すような事もしないが。


 引っ掛かりを感じていると、マムから報告が入った。


『別室 首相 他 待機』


 別室でこの部屋での様子を伺っているらしい。尤もらしい理由は複数考えられるが、この状況と目の前の男の言葉を考えると……


 少し言葉を止めて考えていた正巳だったが、上原先輩も同様にきっかけを覚えていたらしく、顎に当てていた手を下ろすと言った。


「私から説明を致します」


 正巳に視線を向けて来たので、小さく頷くと先輩が続けた。


「私共が持って来たのは、現職の防衛大臣に関する内容です」


 そこで言葉を止めると、端に座っていた菊野財務大臣が言った。


「ふん、道尊寺に関する事であれば、これ迄幾らでもデマ(・・)は報道されて来たが、結局それらは全て話題作りの作り話だったぞ?」


「ええ、これ迄は"決定的"な証拠とそれらを報じる力が弱い者達による報道でしたから……だから、これ迄は報じても抑え込まれていたのでしょう」


 落ち着いた口調で返す先輩を見ながら、上原先輩を連れて来て正解だったと思った。自分であれば――幾ら訓練して制御したとは言っても、いつ抑えきれない衝動が来るかは分からなかった。


「……馬鹿馬鹿しい」

「ええ、証拠が無ければ、馬鹿馬鹿しい事でしょう」


 そこで言葉を切ると、先輩がこちらに目配せして来た。


 恐らく、"見せても良いか?"という確認だろう。

 小さく頷くと、先輩が懐に手を入れた。


 一瞬、真ん中の三人の内陸佐の槇原が体を右に揺らしたが、先輩が取り出したのが武器ではないと気が付くと、頭を掻くようなふりをして誤魔化していた。


「……こちらがその"証拠"です」


 先輩がそう言うと、持っていた投影装置をテーブルに置いた。

 すると、タイミングを計ったかのように、部屋の明かりが薄暗くなった。


 一瞬、明かりの方に気を取られていた男達だったが、直ぐに視線はテーブルの少し上――宙に浮いた光源とそれが示す情報の類に視線を集中させていた。


「この技術は……」

「何故こんな男達が……」


 最初は、宙に投影されたホログラムに驚いていたが、直ぐにその内容に目が行ったようだった。驚きの表情から一転、表情を凍り付かせていた。


「これは、そんな……嘘だろ……」

「あり得ない……それじゃあ、本当に……」


 しばらくそれらの情報を確認していた男達だったが、その中でも左の二人――海佐と空佐の二人は、直ぐに知ってはいけない情報だと気が付いたらしく、頭を下げていた。


 少しして投影情報が消え、明かりが戻ると佐野が言った。


「こんなモノを何処で手に入れたんですか?」


 心底信じられないという様子の佐野に答える。


「それは交渉に新しい項目を加えるという事ですか?」

「い、いえ……私にはそんな権限はありませんので……」


 かしこまって言う佐野という男を見て、何となく嫌いではないなと思った。


 そんな、こちらに対して適切(・・)な対応を取ろうとする佐野に対して、財務大臣であり道尊寺と協力関係にあった男――菊野は先ほどまでの様子(目を剥いて凝視していた)から打って変わり、目が据わっていた。


「この情報のバックアップは有るのか?」

「どういう事でしょうか?」


「なに、こんな情報が下手な管理で外に洩れ、混乱が起きでもしては不味いだろう?」


 どうなんだ?と聞いて来る菊野に『そうですね』と答えると言った。


特別(・・)バックアップを取る様な事はしていません。それこそ、特別に用意したのはこの媒体にあるデータなので」


 正巳がそう言うと、上原先輩も続けた。


「ええ、万が一が有るといけないので慎重に(・・・)管理しています」


 ……嘘は言っていない。


 その後、少しの間正巳と上原の顔を見ていた菊野だったが、その様子に納得したのかしていないのか、『良いだろう』と頷くと言った。


「それで望むのは何だ?」


 いつの間に、偉そうな態度を隠そうと思わなくなったのか、他の者達の意見も聞かずに言った。そんな様子を見て、取り敢えず正式な約束が出来れば良いと思い、言った。


「我々が望むのは、我々が拠点としている場所に関する事で――」


 最後まで言い終える前に、菊野が口を挟んで来た。


「ん? 我々の拠点?」


 ……どうやら、情報が伝わっていなかったらしい。先輩に目配せをすると、頷いて手に持っていた投影機を再びテーブルに置いた。


 その後、少しの時間を使って拠点の場所と、その中に居る子供達の素性――孤児院に居た子供達――と言う事を伝えていた。


 子供達の事を伝えようかどうかと少し悩んだが、ここで隠すという事は、今後も隠れて過ごさなければいけない事に繋がると考えて、伝える事にした。


「――と、これが我々の拠点です。今回の交渉"情報をその証拠と共に渡す"事の条件として、この拠点に於ける一切の"治外法権"と"相互不可侵"、そして税金類を始めとした"課税対象からの免除"。これが条件です」


 正巳がそう言うと、それ迄静かにしていた佐野が言った。


「……その場合、この国の提供するサービスの一部が受けられなくなります。その他にも、色々と不都合が生じる事になりますが……それでも宜しいのでしょうか?」


 佐野が言っているのは、恐らく医療機関を始めとした公共福祉に関する事だろう。通常、これらサービスによって多大なる恩恵を受けている訳で、それらを受けられないとなると、かなりの不都合が生じる。


 だが、正巳や上原、今井は兎も角として、子供達の中には国籍を持たない子も少なくないのだ。元々その権利すら持っていなかった子も居るのに、今更惜しくなる筈もない。


「問題ない!」


 きっぱりと言い放った正巳だったが、それに対して佐野は納得が出来なかったようだ。何やら『しかし、それだと今後医療機関が利用出来なかったり、その他困った際に……』と続けていた。


 流石に面倒になりかけていた正巳だったが、そこで助けに入ったのは、思いもしなかった男だった。その男は、若干口角を上げながら言った。


「良いじゃないか、そうだな。俺もその"書類"に、この国の政治の責に預かるモノの一人として、名前を書いてやろうじゃないか」


 どうやら、菊野は隠す事を止めたらしい。

 堂々とした様子で言った。


 そんな菊野に対して、正巳は言った。


「言質は頂きましたので」

「ああ、構わない。そうだな……おい、お前達が証人だ」


 菊野がそう言うと、それ迄死んだようにして黙っていた自衛官達が『ハッツ!』と答えた。上司という訳でもないだろうが、やけに気合が入っている。


 その後、佐野が持って来た(・・・・・)書類に署名し終えた菊野が言った。


「さあ、交渉は成った。こちらはお前達の拠点内が"治外法権"である事を認めるし、日本の法が適用されないという事も認知する。拠点内で何があっても(・・・・・・)、この国の法律で裁く事はしないし、出来ない。……何があってもな」


 そう言った菊野財務大臣の顔には、醜悪さを感じる笑みが広がっていた。


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