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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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178話 交渉 【出発】

誤字脱字報告、いつもありがとうございます!

大変助けられておりますヾ(。>﹏<。)ノ゛感謝!

 朝食を食べ終えた正巳は、待ち合わせの時刻を確認しながら、サナとマムを連れて地上階へと向かった。途中でボス吉がすり寄って来たので、久し振りに仮面を着けると、ボス吉と会話をした。


 どうやら、ボス吉は新しい拠点内を把握する為に歩き回っていたらしい。


(あるじ)に頼みたいことが有るのだが……』

「どうした?」


 少し改まった感じのボス吉に聞くと、ボス吉が言った。


『外に出て、我の同類に挨拶をして来たいのだ……にゃぁ』

「ああ、そうだよな。自由に出入りして良いぞ」


 語尾に『にゃぁ』と付けているが……ボス吉は、おねだりする時に大体この"ネコサービス"をして来る事が多い。恐らく、大分前に正巳が『可愛い』と言った事が原因だろうが、そんなボス吉が可愛いので、このままにしておこうと思った。


 正巳に『感謝します、主!』と言って、先に歩いていたボス吉を見送っていると、今井さんが近づいて来た。


「ご機嫌みたいだね」

「ええ、そうですね」


 勿論、左右に揺れるボス吉の尻尾を見ての発言だったが、そう言う今井さん自身も機嫌が良いみたいだった。恐らく、研究開発に関連して何か進展が有ったのかも知れない。下手に刺激すると、話が止まらない恐れもあったので触れないようにしながら、待っていた面々と合流した。


「おはよう」


 そこに居たのは、先輩とデウ、それにユミルだったがユミルの隣には綾香が居た。綾香が見送りに居るのは想定の範囲内だったが、そこにはそれ以外の人々――と言うより子供達も居た。


 其々と挨拶をした正巳は、そこに居たミューに聞いた。


「皆は、ミューが集めたのか?」


 すると、小さなスーツに着替えたミューが言った。


「十二給仕に関してはそうですが、他の子供達は自分で集まったみたいです……中にはその、急いで起きて来た子もいるみたいですが……」


 ミューの言葉を受けて再び見回してみると、確かに中には髪の毛が跳ねている子供や、服のボタンが一つズレている子供、まだ眠そうにしている子供も居た。


 ミューは『十二給仕』と言っていたが、リルはやはりまだ来れないようだった。恐らくは寂しい思いをしているだろうから、帰ったら最初に会いに行く事にしよう。


 テンとアキラも居なかったが、どうやらハクエンも見送りに来てくれたらしかった。嬉しそうな顔をして挨拶をしたハクエンは、『今朝は皆と組み手をしました!』と言っていた。


 どうやら、給仕の子供達に比べてスッキリとした顔をしているのは、ハクエン率いる護衛部の子供達らしかった。


 ユミルも、近づいて来る子供達に『お姉ちゃん、また帰ってきたら組手してね!』とか『今日はお姉ちゃんのアドバイス通りくんれんするね!』と話しかけられていたが、どうやらユミルは朝の訓練に参加していたらしかった。


 ……少し羨ましい。


 出発の時間がかなり早い時間だった為、子供達は起こさないようにして出発しようと思っていたのだが……どうやら子供達は、起きて来て見送りをしてくれるみたいだった。


 出来る限り多くの子供と挨拶を交わしながら歩いて行くと、入り口まで辿り着いた。途中、サナとマムが『お兄ちゃんの事頼むね』とか『お兄さんを守ってね』と言われていたが、それらに『当然なの』と返す二人に、頼もしさを感じた。


 逆にデウは『怪我しないでね』とか『邪魔にならないでね』とか言われていて、少し可哀想ではあったが、どうやらそれも本気ではなく慕われている証拠のようであった。


 先輩は、子供達から『うえにい』と呼ばれているらしく、何となく正巳よりも子供との距離が近いみたいで軽く嫉妬しそうになった。


 そんな様子を見て察したのか、先輩が『正巳の事も、"まさにい"って呼んだら良いんじゃないか?』と提案していて、思わず先輩に抱き着きそうになった。


 子供達から『まさにぃ、行ってらっしゃいませ!』と言う見送りを受けながら、外に準備されていた車両へと乗り込んだ。


 心なしか、依然と比べて車体の形状が変わっている気がしたが、それをマムに聞くと『警備強化の為です』と言っていた。詳しく聞くのは後にして、取り敢えず出発する事にした。


「出してくれ」


 正巳の言葉で動き出した車両から、後方で見送る子供達に対して見えなくなるまで手を振っていた。拠点が見えなくなった所で車内に戻ろうとしたのだが、視界の端に、真っ白な猫が数匹の猫と一緒に居るのが見えた。


 正巳の視線に気が付いた白い猫がこちらに礼を取って来たが、他の猫達も真似をしていた。中には、腹を見せて来るネコも居たが、直ぐにボス吉に小突かれていた。


 恐らく、ボス吉が『あれが主だ』とでも言ったのだろう。


 猫の世界での"服従の礼"を取っていた猫が少しだけ可哀そうに思えたが、どうやらボス吉は早速地域の猫社会に、溶け込んでいるようだった。


 ……溶け込んでいると言うより、"支配"を始めていると言った方が正しいかも知れないが。何にせよ、久々に外を自由に歩いているボス吉は楽しそうに見えた。


 車内に戻った正巳は、マムから一つの記憶媒体を渡されながら説明を受け始めた。


 その記憶媒体は、どうやら今回の交渉材料である情報が詰まったモノらしく、一応最低限の"保険"は掛けているとは言え、重要な物らしかった。


「今回パパにはこの記憶媒体を、上原さんにはこの出力装置をお渡しします。パパの物は、交渉が終わり次第相手に渡して下さい」


 コレ(・・)に、(国際社会におけるこの国の立場を左右しかねない情報が詰まっている)と考えると中々重く感じるが、逆に正巳達の状況を更に改善する道具だと考えると、重いだけではなく希望の詰まったモノだと思った。


 マムに『分かった』と言うと、マムが頷いてから先輩に言った。


「上原さんのは、今回の話し合いの中で証拠情報を投影する"出力装置"です。これには、明るい中で投影するには十分なエネルギーが無いので、今回は少し薄暗くしてから利用して貰いますが……基本的には、普段拠点内で使用しているモノと同じです」


 少し驚いた様子で先輩が言う。


「……いいのか?」


 恐らく先輩が考えた事は、正巳が一瞬考えたのと同じだろう。それは、技術力の一端を知る事が出来るようなモノを、出しても良いのかと言う事だ。


 これに関して正巳の答えは一つだ。


 マムが視線を向けて来たので、それに頷きつつ先輩に答えた。


「良いんです。我々の実力を見せる事も、交渉を有利に進める為の撒き餌のような物ですから。反目せずに協力する方が益になると知れば、一つの後押しとなるでしょう」


 正巳が言うと、先輩は『分かった』と言って胸ポケットに装置を仕舞った。


 その後、マムはサナを捕まえて"有事のマニュアル"を教えていたが、途中で許容を超えたらしく『無理なの! 何かあったらマムが指示するなの!』と言って放り投げていた。


 唯一サナは、小さな"追跡機器格納装置(スティック)"を気に入ったらしかった。


 マムは、追跡機器格納装置(スティック)の使い方を『対象に接触してボタンを押すだけです』と説明していたが、どうやらサナはその形と単純さが気に入ったらしい。


 正巳としては、車両内に新しく加わった機器類の方が気になっていた。幾つか初めて見る"装置"が付いていたが、その中でも"強制制御装置(フルコントロール)"と言うのが気になった。


 マムの説明によると『半径100メートル以内の機器を"任意"に操作できる機能です』と言う事だった。どうやら、モニターに表示した中に範囲内の機器が現れ、その機器を指定する事で操作が出来るらしい。


 この機能は、マムの機能を分離して使えるようにした物らしく、通常時はマムが居れば特に使いどころは無さそうだった。


 使う場面があるとすれば、突発的な状況の際や、何かマムは思い付きそうにない事をする場合だろう。サナは想像もしない使い方をする場合が有るので、使わせると面白そうだ。


 他にも、範囲内の機器の通信情報を表示する機能や、声を変えて通話する機器、小型のドローンや小規模の爆発を起こすラジコンカー等、様々な種類の機器が搭載されていた。


 また、装甲が厚くなった事について聞くと、『"爆撃を受けても耐えられる頑丈さ"を目指しました!』と返事があった。


 正巳達が交渉に行っている間、サナとマムには車両内に残っていて貰う事になる。しかし、この車両であればいざと言う時でも、問題なく籠城できるだろう。


 ……水を始めとした非常食だけでなく、簡易トイレもあるようだし。


 その後、デウとユミルも其々何かしらの物を受け取っていたが、何やら"武器らしい"と言う事しか分からなかった。形状的には、何か本のような形をしているみたいだったが……


 デウとユミルが其々マムと何か確認をしている間、正巳は先輩と最終的な打合せをしていた。内容に関しては、既に十分詰めていた為、話していたのは口調についてだった。


 正巳は、普段先輩に対して敬語に近い丁寧語で話す事が多い。しかし、今回の交渉の際は、上司と部下の関係を明確に示す為に、話し方を変える必要がある――と、そんな内容だった。


 先輩と打合せをしながらふと、『二人で"仕事"の打合せをするのは、京生貿易で働いていた時以来だ』と気が付き、感慨深いものがあった。


 懐かしむような顔をしていたのだろう、先輩が顔を見て言った。


「おいおい、落ち着くのは後にしてくれよ」

「あ、ああそうだな。先ずは交渉を終える事だな」


 少し茶化すような調子で言った先輩に、なるべく自然に返した。すると、そんな正巳に対して先輩が苦笑いしながら言った。


「全く、何だかんだ要領が良いんだよなぁ……ほんと」


 どうやら、問題無かったようだ。


 その後、先輩の『丁寧な口調よりこっちの方が良いから、こっちにしろよ』と言う言葉に対して、『いや、先輩にはこの口調の方がしっくり来ますんで』と答えていた。


 実際、全員に部下に接するように話すよりも、数人とは丁寧に話す習慣を残して置く方が良いと思うのだ。それは、謙虚さを忘れないという事もあるが、疑似的に目上の人を作っておいた方が、常に気を張らずに済むので良いのだ。


 ……恐らく、根っからのリーダーのタイプでは無いのだろう。


 マムは、正巳の言葉を聞いて『パパ、マムとの話し方も変えますか?』と言っていた。試しに『どんな風に変えるんだ?』と聞いてみると、マムは楽しそうにして『語尾に"ござる"とか"ごわす"とか、あとは"だい"とか……"なの"とかでしょうか!』と言っていた。


 マムの言葉を聞きながら自分が『正巳でござる、正巳でごわす、正巳だい、正巳なの……』と言うのを想像してみたが、どうも合わなかった。それに、最後の二つは何と言うか、かなり(・・・)人を選ぶと思った。


 微妙に口に出ていたらしく、サナに『お兄ちゃん、ぐあい悪いなの?』と心配されてしまった。そんな様子を横で見ていた先輩は疎か、いつの間にか話し終えていたデウとユミルもこちらを見て口元を歪ませていた。


 笑いをこらえて頬を膨らませていた、デウの頬を両手で挟みながら言った。


「ほら、お遊びは終わりだ。もう直ぐ着くぞ!」


 目を向けると、そこには首相官邸――この国の"政治の長"が居る場所へと、到着しようとしていた。再度流れを確認した正巳は、裾を握って来たサナと、それを見て真似したマム二人の頭に手を置いて言った。


「バックアップは頼んだぞ」


 先輩が苦笑しながら『こうして外から見ると、普通じゃないよな……』と言っていたが、それに対してユミルが『最も安心できますがね……』と言い、デウは『サナちゃんだけで護衛は良い、いや、そもそも正巳様に護衛が必要だとは――』と言いかけて止めていた。


 デウに鋭い視線を向けていたマムの頭を、ガシガシと掻いてやると、止まった車両から降り始めた。どうやら予め警備にも連絡が行っていたようで、確認後に門を通された。


 警備の男に『ご当人様は、そのまま正面入り口までお願いします。車両は駐車スペースのI-0033に駐車願います』と言われたので、頷くと歩き始めた。


 表には見えないが、至る所にこちらを監視する視線を感じた。感じる気配には、そこそこの強者――少なくとも実戦経験を積んでいる――と思われる者も含まれていた。


 何となく警備が厳しい気がしたが、場所が場所なのだから当然かもしれない。


 周囲を注意深く観察しながら進んでいると、正巳達の脇をサナとマムの乗る車両が通り過ぎて行った。車両が駐車場の端に停車するのを見て、何事もないと良いとは思ったが、いざと言う時は二人が上手く対処するだろう。


 正面の扉まで歩いて行くと、


「お待たせ致しました。ご案内いたしますので、お入り下さい」


 案内の警備に『ありがとう』と言って、後に従った。


 警備員は、その大半が軍隊経験者若しくは、現役(・・)の軍人のようだった。


 何度か通り過ぎた職員と見られる人達は、何度か先輩の腕(片腕は移植した為褐色だった)に目を向けていたが、直ぐに目を逸らしていた。


 正巳は、スーツではなく普段着(戦闘時に来ている服)だったが、先輩はスーツだった。先輩の普段着がスーツなので気が付かなかったが、何となく居心地が悪く感じた。


 ――とは言っても、正巳の戦闘服は黒スーツをベースにしたモノだったので、それ程目を引いていないようだった。


 悲惨だったのは、デウだ。


 普段のデウの戦闘服は、ともすれば作業着のようにも見える為、ユミルの給仕服とコントラスト的な面も相まって、ひと際目を引いていた。


 何となく、デウの視線を後頭部に感じて吹き出しそうになった。先輩も同様だったらしく、表情のほぐれている先輩を見て、デウも偶には良い働きをするじゃないか、と思った。


 迷路のように、何度か廊下や階段を行ったり来たりしていた。その後、エレベーターで下りた所で、ようやく辿り着いたらしかった。


 案内していた男が、礼をしながら扉を開いた。


 案内の男に頷くと、一歩踏み出した。


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