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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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175話 星見の夜

 拠点へと到着した正巳達は、一通り歩いて回り子供達の様子を確認した。


 中には少し不安そうにしている子供も居たが、近くに居た他の子供が世話をしていた。恐らく、慣れて落ち着いて来ていた場所を離れたが故の"不安"が理由だろう。


 しかし、一人なら兎も角、ここには沢山の仲間が居る。(直に慣れるだろう)と思って、世話をしていた子供に『ありがとう、頼むな』と言っておいた。


 その後、地下にある居住エリア(地下は、一階と二階が居住エリアとなっている)に向かった。向かう途中、マムが『全員分の生体情報の登録ならびに、約半数への情報端末の配布が終了しました』と報告して来た。


 どうやら、途中で子供達が着けていた腕時計のような"バンド"は、情報端末だったらしい。それを聞いたサナが少し寂しそうに言った。


「サナの分は無いなの?」


 すると、今井さんがサナの頭を"ポンポン"と撫でると言った。


「君の分は別で作ってるんだ。ほら、正巳君から貰った端末があっただろう?」

「!!」


 サナは、嬉しそうにして今井の顔を見上げると言った。


「そうなの、お兄ちゃんに貰ったなの!」

「そうだな。 ……今井さん、アレをどうこう出来るんですか?」


 自分が、昔使っていたスマフォを思い出しながら言った。

 すると、今井さんが『まあね』と言って続けた。


「まぁ、形を変える――『お兄ちゃんから貰ったのが良いなの!』――とまぁこうなるから、基本的に外形は変えずに機能や性能を向上させようと思ってね」


 途中でサナが興奮気味に『変えちゃダメなの!』と言っていたが、それを受け流しつつ話している。どうやら、見た目だけ変えずに中身をグレードアップする予定らしい。


 何はともあれ、自分の分もちゃんと用意される事に満足したらしかった。


 その後、居住エリアに着いたサナが、皆の様子を見ながらソワソワとしていたので『見て来て良いぞ』と言うと、嬉しそうに頷いて走って行った。


 サナが子供達と話したり、案内されている様子を見ていると、ボス吉が体を擦り付けて来た。何かと思ったが、ボス吉も新しい住処(すみか)に興味を持っているらしかった。


「自由に見て来て良いぞ」


 正巳がそう言うと、心なしか弾んだ足取りで駆けて行った。


 ボス吉を見送った後正巳は、今井さんの案内で居住区を見て回った。途中で先輩とデウ、綾香とユミルと合流した。


 どうやら、デウと綾香は気に入ったらしく『俺、ココに上原と住む、頼む!』と何故か片言に戻ったり、『凄いですね、お兄様! 組内の地下施設が只の洞穴に思えてきます!』と興奮したりしていた。


 しかし、一方でユミルはどうやら下の階の"訓練施設"の方が、気になっているみたいだった。先程からチラチラとこちらを見ている。


 既にマムによって『拠点内を案内して貰った』とは言っても、案内が済んでいるのは、地上階と地下の一、二階のみだ。それより下の階は、説明が必要だったり危険だったりするので、案内は明日以降に予定している。


「済まないなユミル、明日には下の訓練所も開放するから」


 正巳がそう言うと、ユミルが気持ち頬を赤くして言った。


「いえ、感謝します……」


 ユミルの様子を見た綾香が『ユミは可愛いわね』と言ってからかっているが、この光景を見たら恐らく、デュー辺りは凍り付くのではないだろうか。


 教官が『俺が訓練生の頃はユミルってお前らの先輩に教わっててな、それは恐ろしい方だった』と言っているのを聞いて、『鬼教官が"恐ろしい"って……』と勝手に怖がっていたのだ。


 懐かしい記憶を思い出しながら、ユミルから先輩へと視線を移した。


「何か不足が有りましたか?」


 顎に手を当て、何か考え込んでいた先輩は正巳の言葉を受けて言った。


「いや、実は下に工場――『大型の移動用機器の工場を作りたい』って話があってな。それに、最近電力が足りなくて外部の電力会社から買っているんだが、そこら辺をどうするかがな……」


 どうやら先輩は絶賛"悩み中"だったらしく、隣に今井さんがいるにも関わらず、盛大にため息を付いていた。そんな様子を見て、今井は楽しそうに言った。


「ほほぅ……いやなに、良いんだよ別に。出来ないのであれば僕の案をだね――」


 悪戯っ子の顔をして言う今井さんに、慌てた先輩が口を挟む。


「い、今井部長! この前言いましたが、海底に工場を建設するとか色々と頭が痛いので勘弁ですよ。それに、発電所に関しても規模からして建設の際の人件費が……いや、それは機械達にやらせれば良いのか? だとしても調達しなきゃいけない物資が……!」


 どうやら先輩は、新しい施設類の事で頭を悩ましていたらしい。


 今井さんの様子を伺うに半分冗談だろうが、何処か冗談では済まなそうな雰囲気もある。


 そもそも、今すぐにでも"ブラック"等の"大型機"を始めとした様々なモノ(・・)づくりに手を出したいのだろうが、全翼機"ブラック"に関しては、今週中――早くて明日、明後日にはハク爺達が使用する事になっている。その為、本体を解体しての大掛かりな研究開発などは出来ない。


 修復や改良などの内でも比較的小規模のものに関しては、マムが小型の機器を操作して作業している様だったので、後でそのデータでも見て研究(楽しみ)でもするのだろう。


 実機を弄りたいのでは無いかと思って、『試作機を作ってはどうですか?』と聞いたのだが、『1/100スケールと1/200スケールのモノは図面と現行機から作ってみたんだよね』と答えがあった。


 ……既に色々と作っていたらしい。


 普通では一つの事に掛かりっきりになったりするのだが……今井さんの場合、元々の守備範囲の広さとその非凡さが"マム"と言う()優秀な助手を得た事で、その作業ペースと対応分野が恐ろしく早く、広範囲なものとなっているのだろう。


 そのせいで先輩を始めとした支える側は、これまた恐ろしく大変な目に会うのだが……まあ、いよいよヤバくなればマムがサポートに入るだろう。それに、何だかんだ言いながら、先輩はデウと肩を組んで『やるしかないよなぁ』と励まし合って楽しそうだ。


 そんな様子を見ながら、今井さんに聞いてみた。


「電力、足らないんですか?」


 すると、頭を掻きながら言った。


「そうなんだよね、どうしても機能を生かすとなるとね……」

「先程先輩が言っていた"発電所"と言うのは?」


 視界の端に居る先輩が、不安そうな表情を浮かべているのを感じながら言ったのだが、今井さんにはためらう様子は欠片も無かった。


「ああ、それは少し特殊な発電設備でね。一応今も水力発電と太陽光発電なんかは動かしてるんだけど、どうしても足らなくてね。それで、色々研究資料を探してみたら幾つか気になるモノがあって、その中でも可能なモノを選んだのだよ」


 ……どうやら、この拠点には発電類の設備が一応は備わっているらしい。考えるまでも無く、電力は一つの生命線(ライフライン)なのだが、すっかり頭から抜けていた。


「電力は、何をするにしても外せませんからね。それで、何を選んだんですか?」


 正巳が言うと、先輩をチラリと見てから言った。


「実は、核融合炉を作ってみようかなぁ~とね」


 今井の言葉に真っ先に反応したのは正巳だった。


「……原子炉でなくて、ですか?」


「うん、原子炉は色々とデメリットが多いからね。対して融合炉の方は、それらデメリットが全て解決されるんだ。何より、原子炉の稼働に必要な"ウラン235"は有限だし、それを"ウラン238"に変えても同じ。そもそもウランなんて物を持ってたら"危険分子"だと思われちゃうしね」


 ……原子炉とは、原子分裂の際に発生する莫大なエネルギーを熱エネルギーに変換し、最終的に利用可能な電気エネルギーにすると云う仕組みの設備だ。


 ただ、この"核分裂"と言う化学反応は、人体に有害な放射線を出す物質――放射性物質を廃棄物として生み出してしまう。しかも、その廃棄物は超長期間有害なままで無害にする技術は今は存在しない。原料となるウランは、地殻内に埋蔵されてはいるものの埋蔵限度があり取り寄せる必要がある。


 しかも、過去の歴史内で何度か原子炉の事故が起こり、付近一帯に人が住めなくなった過去がある。この国"日本"でも、原子炉による事故が発生した過去がある。


 ――つまり、原子炉は危険なのだ。


 対して、今井さんの言う核融合炉とは、主に水素を原料として"核融合"時のエネルギーを用いる装置だ。一般に『原子炉は止めるまでに時間が掛かるが、融合炉は止めるのは直ぐ――ただし融合炉を造るのは技術的に難しい』と言われている。


 核融合炉は原料が"水素"である為、原子炉と違い原料が枯渇する事が無い。それに、有害な放射性廃棄物が出る事も無い――正に、"夢のエネルギー技術"と言われているのだ。


 そんな、核融合炉を軽い感じで『作ろうかな』と言う今井に対して、正巳は呆れながらも(今井さんなら、あり得そうだな)と考えていた。


 正巳と対照的に言葉を失っていた上原は、戻って来ると言った。


「……今井部長、可能なんですか?」


 どうやら、先輩はどんな"発電所"を造ろうとしているかは、まだ聞いていなかったらしい。驚いている上原に対して、今井が言う。


「勿論、僕は専門じゃなかったけどマムがね」


 今井さんはそう言うと、簡単に説明してくれた。


「各国の研究資料と研究データ、それに今後実験の必要な項目と最新の設備類資料それらが全てあったから、マムの演算と学習それにシミュレーションで技術を確立させたんだよ――マムが」


「……なるほど」


 今井さんの言葉を聞いて少し考え始めた正巳だったが、その様子を見ていた先輩が不安そうに言って来た。


「……正巳、まさか造るのか?」


 不安そうな先輩を見て、苦笑しながら言った。


「まぁ、これが原子炉とかそう云う類の話であれば、流石に不味いと思いましたけど。ただ、そうですねやはり危険な事には変わりないので……」


 そこで言葉を切ると言った。


「今井さん、その融合炉は安全とセキュリティには十分気を付けた上で、この拠点から離れた場所で且つ広い土地が手に入ったら、お願いします」


 流石に、子供達の居る場所では許可できない。万が一を考える訳では無いが、そもそも自分達の元に爆弾を抱えておくのは不味いと思ったのだ。そんな正巳の心を知ってか、今井さんは言った。


「勿論さ!」


 元気に答えた今井に対して『それであれば、先ずは場所を確保する必要がありますね……』と話し始めた正巳だったが、その後ろでゲッソリしている上原の姿に気が付く事は無かった。


 その後、談笑しながら居住区を回っていた正巳達だったが、不意に子供達が一斉にエレベーターホールへと向かい始めたのを見て驚いていた。


 子供達を見ていると、マムが近づいて来て説明してくれた。


「もう直ぐ夕食ですので、集合の連絡を掛けたのです。パパ達は別のエレベーターが有るので、そちらからお願いします!」


 どうやら子供達には、腕に着けた端末を通して連絡をしているみたいだった。


「分かった。因みに――」

「サナは先に向かっています、パパ」


 ……マムに読まれてしまったが、どうやらサナの心配はいらなかったらしい。


 マムに『ありがとな』と言いながら頭を掻いてると、今井さんと先輩が近寄って来て『まったく、心配性だなぁ』と言って来た。そんな二人に、『そんな事ありませんよ』と言いながら、マムの案内に付いて歩いて行った。


 案内された先は、まっさらな壁の前だったがその前で歩いて行くと、壁が開いてエレベーターになった。マムの話によると、幾つかの場所に同じような隠し機能があるらしかった。


 エレベーターに乗る際、綾香と近くになったので感想を聞いたら『時々、これが現実なのか不安になります』と言っていた。


 その言葉に『ほんとだよなぁ』と相槌を打った正巳だったが、先輩に『それをお前が言うのか……』と突っ込まれてしまった。


 上昇していたエレベーターだったが、数秒もしない内に停止した。


 開いたエレベータを降りた正巳は、そこが地上の最上階である事に気が付いた。天井には相変わらず黒い壁――"防御虫"の膜があったが、床に付いた照明器具にライトアップされて綺麗だった。


 会場を見ると、机や椅子は綺麗に等間隔に並んで設置されていた。子供達を見ると、中心の部分に配膳類が並んでいて、そこから食べられる分だけ取って来る"バイキング形式"の様だった。


「パパ、これはマムがやってるんです!」


 急に主張して来たマムだったが、今井さんの捕捉を聞く分には『調理から清掃まですべて自動で済むようになっている。調理場と洗い場も用意しているので、必要な時には利用できる』と言う事だった。


 頭を出して来るマムを見ながら(これは完全にサナの真似だろうな)と思ったが、それこそマムが居なくては困るレベルでの活躍だったので、望むようにする事にした。


「マムは良い子だな~」


 そう言いながらしばらく頭を撫でていると、途中でユミルが食い気味に近づいて来た。そんなユミルに苦笑しながら『ユミルも褒めてやってくれ』と言うと、『承知しました』と言って撫で始めた。


 そんな様子を見ていた正巳だったが、中心の方から歩いて来るサナを見て言った。


「俺達も食事を取りに行くか……と言うか、もう少しばらけて子供達皆と交流して来てくれ」


 正巳がそう言うと、其々頷いて散って行った。

 ただ、今井さんとマムを撫でているユミルは、そのままそこに居た。


 皿一杯に食べ物を盛って来たサナは、近くに来ると机に皿を置いてから頭を突き出して来た。そして、『お兄ちゃん、リルは大丈夫だったなの!』と言って来た。


 恐らく、リルの面倒を見て来た事を褒めて欲しいという事なのだろうが、大方ユミルとマムを見て"褒められる理由"を探したのだろう。


 仕方ないのでサナの頭を撫でていると、それを見ていた周囲の子供の内一人が知らぬ間に料理を取って運んで来てくれた。


 気が付いた時には運ばれて来ていたので、褒めてあげようにも誰だか分からなかったが、子供達が優しい心をもって育っている事を知って、嬉しく思った。


 正巳の前に置かれた皿を見た今井は、言った。


「……どうやら、随分と甘党みたいだね」


 今井さんの言葉で皿の上を確認した正巳は、その上にあるプリンを始めとしたゼリーやカスタード類に驚いていた。そこに並んで居るのは全てお菓子の類だった。


 その後、ミューが数人の子供達と歩いて来たので、一緒に食べる事にしたが、皆が揃って『甘い物好きなんですね』と言っていた。


 そんな子供達に苦笑しながら、『あぁ、そうなんだよ』と言った正巳は、その後皿が空になる度撫でられたいが為に、誰かしらが甘いお代わりを持って来ると言うサイクルに陥っていた。


 その後、ようやく撫でられ満足した子供達は、正巳の『もう十分だ』と言う言葉を聞き入れ、御代わりを運ぶ手が止まっていた。


 食後、子供達に『お兄ちゃん、食べたら待ってて欲しいんだって!』と言われ、不思議に思っていた正巳だったが、戻って来たマムから『マムが連絡しておきました!』と聞いていた。


 どうやら、マムはあの後暫く離して貰えなかったらしい。気のせいか艶々(つやつや)としているユミルと、対照的にふらふらとしているマムを見て少し気の毒になった。


 そんなマムにどういう事か聞こうとしたが、不意に今井さんが立ち上がると、マムからマイクを受け取って言った。


「さて、今日はみんな頑張ったね、ご褒美に綺麗な星空のプレゼントだ!」


 今井さんがそう言うと、天井を覆っていた黒い幕が無くなって行った。恐らく、防御虫を移動させたのだろうが、少し離れて全体を見ると凄い光景に見える。


 ……天が開けて行くみたいだ。


 その後、ライトアップしていた照明が消えた空に、一面の星空が浮かんでいた。


 その様子を見ていたマムは『只の"光"の筈ですが、こうして見ると不思議と楽しい(・・・)気がします』と言っていた。


 正巳はマムのそんな様子に嬉しくなりながら、夜空を見ていた。


 その夜、空に浮かぶ星々は輝いていた。

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