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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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170話 中央会議 [前編]

 食事を終えた正巳は、マムとサナを引き連れて部屋に戻った。


「さて、みんなを待つか……?」


 食事を終えて、皆が集まるのを待とうと思った正巳だったが、部屋の中に複数の気配がする事に気が付いた。


 何となく嫌な予感がして聞いた。


「なあ、マム。ひょっとして既にみんな集まってるのか?」


 そんな正巳に対して『はい、勿論です!』と答えたマムは、不思議そうにして『どうしてですか?』と言った。そんなマムに、『待たせて悪いじゃないか』と答えた正巳だったが、マムの言葉を聞いてため息を付いた。


「……そうですか? 『主役は最後にやって来る』って――」

「『映画で観た』か?」


 正巳の言葉にマムが頷いている。


 ……恐らく、マムが観たのは『ギュストフ大帝-戦乱の灯-』と言うB級映画で、そのセリフは重要な国際会議――"中央会議"での主人公のセリフだったと思う。


 流石に詳しい内容は忘れてしまったが、随分ニッチな映画まで網羅しているらしい。


 そんなマムに『先に入って待っていた方が、心に余裕が持てるし精神的にも良いんだ』と言ったのだが、サナが『そうなの、パパは主役なの!』とマムと結託し始めたので諦めた。


 その後、部屋の中まで行くと予想通り、今井さんや先輩を始めとして十二給仕や護衛長達、それに綾香とユミル、少し酔いの回った様子のハク爺が居た。


「それじゃ――みんな集まってるみたいだし、始めようか」


 余計な前置きをせずに始める事にした。……何せ、入って来るやその半分が目を擦っていたのだ。いつ誰が夢の国に落ちて行くか分からない。


 恐らく、お腹いっぱいに食べて眠くなって来たのだろう。誰かが眠ってしまう前に決める事、共有する事を話してしまう必要がある。


 集まった面々が頷いたのを確認して始めた。


「話途中だったが、俺は理想の国をつくると言った。しかし、それには幾つもハードルが有り、その一つを乗り越える為に一週間後にこの国の政府と交渉の場を設けた」


 皆が頷いているのを確認して続ける。


「それで、その交渉の際の護衛を決めた処で止まっているが――」


 そこまで言うとマムが続けた。


「はい、その交渉の内容に関しては既にまとめています。それに、今回は思いがけずこの"ホテル"との同盟を組む事となりましたので、強いカードとなるでしょう」


 マムの言葉に反応したのは、ハク爺だ。


「そうじゃのぅ、まさかあの"不可侵"であり"世界大使館"と言われているホテルが後ろ盾になるとはのぅ思わんなぁ……」


 そう言ってから、『信頼を勝ち取ったか、それだけの価値を認めたか……或いはその両方じゃの』と続けている。そんなハク爺に対して、ユミルも続ける。


「正直私も驚きました。本来このような決定がされる事は無いのですが……恐らく支配人は、正巳様に将来を託すほどの可能性を見たのでしょう」


 口こそ開かないながらも、ミューや他の十二給仕達と護衛長のアキラやハクエン、そしてテンが頷いている。……テンに限っては、『全てを捧げると決めた私と同じく、正しい判断と言えマス』等と言っている。


 そんな面々を見ながら、言う。


「そうだな、確かに後ろ盾として心強い事は間違いない。だが、重要なのは外に頼らないで済む力を付ける事だ。それには幾つか必要なことが有る」


 そう言ってから、少し間を開けて言った。


「先ず、自分達が生きる為には"衣食住"の確保が必要だ」


 そう言うと、今井さんが反応する。


「そうだね、それはほぼ大丈夫じゃないかな。衣類に関しては、化学繊維を使用した製品は出力出来るし、簡単なモノを編む機械も出来た。食料に関しては肉類以外になるけど、今建設中の食糧プラントで十分以上に、賄えるようになると思う」


 これは、既に報告を受けていたので確認の様なものだ。


「これで、"衣"と"食"は確保された。次は"住"だが……今はホテルに居て、安全が完全に保証されている。それこそ、とち狂って戦争を始める国が無い限りは大丈夫だ」


 ……最近、マムから『怪しい動きをしている国がある』と聞いた事もあるので、油断は出来ないが、もし動きが有ればすぐに分かるだろう。


「問題なのは、明日から――引っ越ししてからだ」


 そう、引っ越すという事は、ホテルの庇護下から離れるという事を示す。今まで知らない処で排除されていた様な、外敵からの攻撃を直接受ける事になるのだ。


 若干力が入るのを感じて一呼吸すると、ハクエンが手を上げた。


「お父さん!」

「どうした?」


「僕達は、この半年の間訓練を受けました」

「ああ、そうだな」


「僕達はお父さんの役に立てるようにと思っていましたけど、お父さんは『皆を守る為に力を使え』って言いました」


 先を促す。


「だから……だから、皆は僕たちが守るので大丈夫です!」


 膝の上に乗せた拳を握りしめ、真っすぐな強いまなざしを向けて来る。そんな様子に(成長したな、本当に……)と、半年前の事を思い出しながら少しウルッと来た。


「ああ、そうだな。お前達の事を信頼している、頼むぞ!」


 そう答えると、ハクエン含めたテンとアキラが『ハッツ!』と答えた。


 その後ハク爺に『口だけは一人前じゃな、うむ。明日からはもっと厳しくするかの』と言われて、若干苦笑いしていたが……


 子供達の成長を感じながら、隣に居たマムに『常に拠点の周囲は警戒、探知できる限りで不穏な動きが有ったら今後報告する様に』と耳打ちしておいた。


 何となく、ユミルがこちらを見て微笑んだ気がしたが、きっと気のせいだろう。


「続きだが……これで、衣食住が最低ラインで確保できた。次は、国としての話になるが……国の定義――どの様な集まりを『くに』と呼ぶと思う?」


 正巳が問いかけると、先輩が言った。


「そうだな……"領民"、"領域"、"権力"を主権的に行使出来る事。あとは、現代だと"国連に認められる"事か?」


 先輩が言っているのは、模範解答だ。


「ええ、確かにそうです。ですが――ハク爺はどう思う?」


 面白い事に、上原先輩とハク爺は世界中を飛び回る様な経験をしながらも、お互いに接して来た世界は"表"と"裏"……全くの別の世界なのだ。


 ハク爺に振ると、思い出す様にしながら口を開いた。


「うむ、ワシの見て来た"国"には、そんな立派なモノは殆どなかったのぅ。それこそ、領民の在り方は兎も角、領域や権力の面では他国に支配されている国もあった」


 ――そう、このような事も起こり得る。


「確かに、僕の知っている国も半分以上が、そんなに綺麗に分類できなかったかな~それで、正巳君は何処を目指すんだい?」


 上手く振ってくれた今井さんに頷きながら、一同を見回す。


 皆の目が集まっている。


 ……隣のサナは少々眠そうだが、それでも静かに聞いている。


「俺は、誰にも干渉されない国を先ず(・・)つくりたい」


 正巳がそう言うと、静かに頷いたテンが言った。


「正巳様、仮にそれを武力で行うとなると我々ではまだ力不足かと」


 良い所を突いて来る。


「そうだな、先に"武力"に関してだが……飽くまでも受け身で"守る"つもりだから問題はない。しばらくの間拠点を置く予定の場所は、この国の領土内だ」


 そう、俺達の拠点はこの"日本"という国の領土内にある。今は仕方ないとしても、何れ固有の"領土"が必要となるだろうが、領土(それ)については考えている事が有る。


「もし、ミサイルや戦略兵器――核兵器などを使う国が有れば、それはこの国とその友好国を敵に回す事になるからな。世界有数の経済大国に喧嘩売る国は、それほど多くないだろう」


 そう言うと、まだ不安なようでテンが口を開く。


「あの、未熟さが恥ずかしいのですが……それでも、我々護衛部が大国――それも、高威力ミサイルなど、戦略兵器を扱うような相手に対抗できるとは思えず……」


 最後の方は、自分の発言を恥じてか小さくなってしまった。


 ……テン自身護衛長になる程だ、肉体面だけでなく学術に於いても努力したのだろう。その結果、これ迄見えなかった事が見えるようになったに違いない。


 そんなテンに対して答えようとしたのだが、先に口を開いたのはミューだった。


「護衛長、貴方もお兄さんの拠点視察に付いて行くべきでした。それに、これ迄もマムちゃ――管理者の能力を目にして来た筈です。それなのに……」


「まあ、それくらいでの?」


 責めるように言い始めたミューだったが、それを止めたのはハク爺だった。


「すまんの、コイツは『一番強くなりたい』なんて言うもんでな。ほぼずっと訓練していたせいで、マムの事も、その能力についても殆ど知らないんじゃ」


 ハク爺がそう言うと、テンが頭を下げた。


「申し訳ない。元々が未熟なので……」

「いえ、そう言う事なら……こちらこそ、知りもしないで言い過ぎました」


 ……何やら解決した様だったので、試しにマムに聞いてみた。


「因みに、侵略されたとして何が一番厄介だ?」


 そう聞くと、マムは少し悩んでから言った。


「カテゴライズを行い、其々の脅威に対して評価しました。結果――先程話に出たミサイルやそれを介して行われる核攻撃は、全て掌握可能ですので問題ありません。尚、戦闘機や戦艦、衛星型戦略兵器等も掌握可能ですので、脅威にはなりません。次いで、脅威と言えるのは生体兵器ですが、それらはマイクロマシンによる対策兵器がほぼ開発完了しています。何れ更に小型化したナノマシンを――……」


 その後も、其々の脅威に対してのマムによる"評価"が行われた。その結果、脅威として挙げられたのは、凡そ想像していなかったに違いない内容だった。


「――と言う事で、害を与え得る"脅威"としては、生身の人間による白兵戦が一番の脅威となります。尚、電子制御式の重火器が開発されつつあるようです。もし、全ての兵器が電子制御式になった場合、我々を害するモノは手りゅう弾や、その類の物のみとなるでしょう」


 ……という事らしい。


 情報量が多い為、今井さんや正巳、先輩など予め情報を持っていたメンバー以外は、改めて聞いた事を整理していた。


しかし、次第に理解して来たみたいで、ハク爺が『時代を巻き戻すような存在じゃのぅ』と笑っていたり、テンが『……それなら我々にも出番がありそうですね』と言っている。


 そんな、ある意味思っても居なかった活躍の場を見つけたテン達だったが、正巳はマムが敢えて『脅威になるのは~』と話し、それに対抗する手段について話していない事に気が付いていた。


 もしマムが、"電子制御された兵器類による攻撃手段"の話をしていたら、テン達のモチベーションに影響したかも知れない。


 恐らくは、そこまで考えて黙っていたのだろう。


 ちょっとした所にマムの気遣いを感じて少し嬉しくなった。

後編は、19時ごろ投稿予定です。

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