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『インパルス』~宝くじで900億円当たったから、理想の国を作ることにした~  作者: 時雲仁


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106話 出発 [二匹]

 部屋に入ると、その姿はすぐに見つかった。


 白い座布団の様に丸まったボス吉は、テーブルの下にいた。


 ぐっすりと眠っているようで、目を覚ます気配が無い。


 これが普段であれば、少し近くに行くだけで起きて来るのだが。


「ボス吉?」


 声を掛けながら、ボス吉の体を持ち上げた。


 ……軽い。


 あれだけ食べたとは思えない位に軽い。


 それに、相変わらずフワフワとした手触りで、サナがハマる理由もわかる。


 先ほどは、サナ達が居た手前、思う存分堪能する事が出来なかったが、今なら誰もいない。誰の視線も気にする必要が無い。


 そう思ったら、体が動いていた。


 フワフワのサラサラ、それになんか良い匂いがする。


 ボス吉のフワフワの毛並みに、思いっきり顔を埋めていた。


 ……うむ、……これは、……ふぅ。


 数秒間そのままモフモフとしていた。


 動きたくない"誘惑"が湧いて来るが、そう言う訳にも行かないだろう。


 そもそも、普段であればここまでする前に起きるはずだ。


 普段とは違う違和感を感じると、ゆっくりと顔を離して様子を伺った。


 ふむ?


「これは"瞑想"か?」


 呟きながら観察を続ける。


 ふむ、どうやら本当に"瞑想"状態に在るらしい。


「驚いたな」


 ネコであるボス吉が"瞑想"するなど、聞いた事も無い。


 まあ、ないと言っても実際目の前に居るのだが。


 考えられるとすれば、ボス吉が変異した"影響"だろうか。


 いや、それにしたってこの集中の仕方は、少しおかしい気もするが。


 考え込んでいたら、マムからの連絡が入った。


「パパ、時間です」


 どうやら時間が来たらしい。何かあったのかと、不思議そうに首を傾げているマムに『今向かう』と答えると、一先ずボス吉を抱えた。


 ◇◆


 正巳を見ていたマムはカメラの奥で、何やら嬉しそうに呟いていた。


 『パパのコレクションが増えましたね、後でマスターと観賞会です!』


 それは、正巳の緩んだ顔とその顔が白いモフっとした毛玉に沈み込む、その一連の様子を映した物だった。敢えて数秒の間を置いて声を掛けたのは、このコレクションを撮るのを優先させた結果だった。


 ◇◆


 その後部屋を出た正巳は、テラスで待っていた三人と合流して駐車場へと向かっていた。少し心配していたのだが、サナは()大使館員だったデウに対しても、問題なく接していた様だ。


 ボス吉は、サナの腕の中にいる。


 サナは『寝てるなの!』と言って、いつも通り抱き上げていた。


 そんな、満足気なサナを横目に失敗したなぁと頭を掻く。


 本当は、コーヒーでも飲んでひと息吐きたかったのだが、どうやら時間が来ていたらしい。仕方なくは有るが、それならせめてモフモフは手放したくなかった。


 それに、遅くなった事について聞かれ、『瞑想状態にあるボス吉をモフモフしていたから』とは、口が裂けても言えなかった。


 その結果、曖昧な言い訳をしている間にサナに取られたが……これは想定外の事態だったのだ。そう、あんなにモフモフが良いものだとは思わなかった。


 顔を埋めてモフモフやるともう、これ以上ない位安らぎを感じた。


 機会が有ればまたモフりたい。


 そんな事を考えていたら、後ろを歩いて来ていた先輩が声を掛けて来た。


「正巳、デウ(こいつ)を頼んだぞ」


 そう言って来た先輩を見て、(この人は変わらないなぁ)と思いながら、『分かりました』と頷く。それにほっと安堵の表情を見せる先輩は、やはり面倒見が良いのだろう。


 話を聞いていたのか、その雰囲気を感じ取ったのかデウが頭を下げて来る。


「『お願いします!』」


 正巳が鍛える訳ではなかったが、一応『任せろ!』と応えておいた。


 今のデウが会話に加わるには、通訳の役割をしている"仮面"が必須だ。その為、食事のとき以外は仮面を付けているのだが、偶にその仮面がカッコよく見える事があった。


 その後駐車場へと着くと、真っすぐに今井さんが居る場所へと向かう。


 ザイが話と話をしているらしい。


 少しだけ聞こえたが、『他の資材メーカーは~』とか『大量に出た土砂を捨てる場所は~』とかそんな内容だった。どうやら、早速新しい拠点に関連した話らしいが、既に動いているみたいだ。


 ……仕事が早い。


 近づいた正巳に、最初にデウが続けて今井さんが気が付いた。


「お待たせしました。何を話していたんですか?」


 盛り上がっているみたいですが、と切り出すとそれに頷いた今井さんが「仕事の話だけどね」と前置きして言った。


「ザイ君に必要な資材に関する情報を貰っていたんだ」


 それに「資材の情報ですか?」と聞くと、今井さんは難しい顔をして「思ったよりも、必要な貴金属が多くなりそうでね……」と言った。


 どうやら、ある程度の設計は既に済んでいるらしい。


 昨日の今日で設計を仕上げるなど、人間技ではないが……恐らく、必要条件を基にしてマムが設計を進めたのだろう。


 内容についてもう少し聞きたい処ではあったが、時間の関係上難しいだろう。


 どんな拠点になりそうなのか、それを聞いて想像を広げるのも楽しいが、何も聞いていない状態で出来上がりを楽しみにするのも、それはそれで面白いかも知れない。


 妄想を広げていた正巳だったが、今井さんの言葉に顔を上げた。


 そこには、広げられたアタッシュケースがあった。


「正巳君、これがリクエストのあった"仮面"だよ!」


 そう言って手渡された仮面を見ると、それはツルっとした能面の様な形をしていた。


 目や口のある位置に"穴"が無い。


「これはどうやって――」


 『どうやって使うんですか?』と聞こうと思ったのだが、手に持っていた仮面が前触れなくその形を変えた。突然の事で黙って見ている事しか出来なかったが、数秒してやっと口が動いた。


「……これは?」


 それまで無かった筈なのに、今ではしっかりと目と鼻の位置に穴が空いている。


「これはね、マムの制御するごく小さな機械の集合体で、平時はツルっとした面の形をしているんだ。でもね、いざ使うとなった際には、その形を自在に変形するんだよ。それでね――」


 その後も今井さんによる説明が続いた。


 詰まる所、とんでもなく高性能な仮面と言う事らしい。


 基本性能としては、"通訳"、"防御"、"変装"が主らしい。


 話を聞き終えた所で、仮面を顔に近づけた。


 すると、仮面が頭を包み込むような形に変形した。


 最早仮面に意思(・・)があるかのようだ。いや、仮面がマムの制御する一部であるならば、『仮面に意識が有る』と言ってしまっても、特別間違いではない気がする。


「凄いもの作りましたね」


 今井さんにそう言って苦笑すると、『最高の仮面だよ!』と胸を張って答えがあった。


 その後、暫く仮面を弄り回していた正巳だったが、ザイに『そろそろ出立の時間です』と急かされたので、しぶしぶ車に移動した。どうやら、ザイは一緒に来ないらしい。


 その代わり一緒に来るのは、孤児院への救出作戦の際に指揮を執っていた男、"佐藤"のようだ。頭を下げる男に「よろしく頼む」と言うと、「後ほど、隊長も合流する事になるかと思いますが、其れ迄は私が案内させて頂きます」と返して来た。


 佐藤と挨拶をした後、デウとサナを連れ車に乗ろうとしたのだが……。


「正巳君、この中の薬品はけがをした時に使ってくれ給え。色が赤くなる程、効果が強くなっている。一番効果が強いものであれば、千切れた腕位はくっ付くと思うから必要であればね」


 正巳の耳に口を近づけて、そう言って来た。そんな今井さんに、『分かりました、ありがとうございます』と答えて握手をした。


 今度こそ車に乗ろうと思ったのだが、今度はマムが近づいて来た。


「パパ、手を出して下さい!」


 言われるままに手を出すと、その手に持っていたケースから何か取り出した物を「パパ、この子達をマムだと思って下さい!」と続けながら手渡して来た。


 マムの手が引かれた後を見ると、そこには見知った姿をした物があった。


「これは、イモ吉に……ヤモリだからヤモ吉か?」


 そこには二匹の外見の違った生き物が乗っていた。


「はい! 素材に微細機器を組み込んでいるので、質感がリアルに動きもリアルになっています。それに、それぞれがオリジナルの特徴を生かすようになっているので、役に立つかと思います」


 手の平の上のサイズ以外、どう見ても本物としか思えない二匹は、マムが作った機械と言う事だった。機械とは言っても、時折小さく動くのを見ていると、本物としか思えない。


「最高だ」


 思わず呟いていた。


 全体的に素晴らしいが、何より灰色の体をしたヤモリの"しっぽ"が良い!


 この、しゅるっとしたしっぽ!


 最近何故か、マムが尻尾をしまう様になってしまった為、可愛らしい尻尾を近くで見られるのはこれ以上ない癒しになる。いや、この"しっぽ"と言うのは、サナやマム、ボス吉とは違った種の癒しなのだ。


 ただ、一つ高性能であろうが故の懸念が有った。


「充電はどうするんだ?」


 そう、電気で動いているであろうイモ吉とヤモ吉は、充電も必要だと思ったのだ。


 しかし、その考えは甘かったらしい。


「二匹とも、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する機構で、動いています。ですので、肌身離さず一緒に居れば問題ありません」


 その言葉に思わずマムを抱きしめる。


「ありがとう!」


 気分はまるっきり、欲しかったおもちゃを買って貰った子供の気分だった。


 暫くマムを抱きしめていたが、ザイの『神楽様、出立の時刻となりました』という言葉で、我に返った。手を離すと少し残念そうにしていたが、マムも満足げな様子だった。


 そんな満足げなマムと、何やらニコニコと上機嫌な今井さんに『それでは行って来ます』と挨拶をして、車に乗り込んだ。車には、既に一緒に行くメンバーが乗り込んでいた。


 座ると、隣にサナが移動して来る。


 相変わらず"瞑想中"のボス吉を抱えたサナから、自分の手の平へと視線を動かすと、それ迄イモリとヤモリだった二匹は、正巳の手首に巻き付き、両腕に"腕輪"の様になった。


 どうやら佐藤が運転手をするようで、『それでは出発します』と言って来たので、外で見送っている今井さん達に軽く頷いておいた。


 そうして一行は、佐藤の運転する車でホテルを出発した。


『修羅場で投稿出来ない』と言っていた発言は、

何処へ行ったのやら……

やろうと思えば出来るものですね。

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誤字脱字、違和感のある部分は順次修正致します。

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