この世界で最後の裁判
初めて小説を投稿します。
文章が間違っていたり、文章力が低かったりしても、温かい目で見守って優しくアドバイスしていただけると嬉しいです。
プロローグ
―ここは、最高裁判所。
被告人たちが最後に行くところとされる場所だ。
そこに、一人の男が座っていた。
その男は、痴漢の罪で捕まっていた。本当はやっていないのに、やったと濡れ衣を着せられている。さらに雇った弁護士に運がなく、最高裁に来るまでずっと負け続きだった。
そんな状況の中、無慈悲な裁判長の声が響く。
「それでは被告人、前へ」
「はい」
「被告人は名前を述べてください」
「潮北総一郎です」
「生年月日は?」
「平成七年の六月九日、二十一歳です」
さらに裁判長は住所と職業を尋ね、一度被告人に席に着くように言った。そして、検察官に起訴状を朗読させると、被告人にもう一度前へ出るように言った。
「被告人には、黙秘権、および供述拒否権があります。ただしこれは、嘘をつく事まで認めるものではありません。被告人が発言したときには、被告人にとって有利、不利を問わず証拠になることがありますので、そのつもりでいてください」
はい、と被告が返すと、裁判長は背筋をピンと伸ばし、被告に尋ねる。
「では、被告人に尋ねます。ただいま読み上げられた公訴事実について、その通り間違いありませんか」
「あ、はい。私は―――」
「ちょーと待った」
そこで裁判長達の話を遮ったのは、一人の少年だった。手に何かの書類を持ち、一番前の席の傍聴席に腰かけ、文字通りふんぞり返っている。だが、そんな態度を誰も咎めない。
「何ですか?八ツ橋さん」
「つーかさー、僕早く帰りたいから言わせてもらうんだけどー、その人が痴漢したって本当?」
「どうしたんですか急に?ええ、確かにそうですが。ですよね被害者さん」
裁判長が声を掛けると、被害者の女の人が立ち上がった。
「は、はい。あれは隣の人の顔も見えない位の満員電車でした。私が一人で乗っていると、急にお尻を撫でてきて、それで、痴漢ですと言って駅員さんに突き出しました・・・」
「ふーん。じゃあ二つ質問いい?」
「は、はい。どうぞ」
「質問一。何でこの男はその覆るはずもない事実を覆すために最高裁まで来てんの?」
すると被害者の女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元の顔に戻った。
「そ、それは、被告人に聞いてください」
「それもそうだねー。じゃあもう一個の質問」
「な、何でしょうか」
「何であんたは、被害者なのにそんなに余裕そうなの?」
その一言で、法廷が静まり返った。
裁判長がマイクを取り、少年に聞いた。
「や、八ツ橋さん。一体、どういう事ですか?」
その質問に、少年は簡単に答える。
「簡単だよー。まずその被害者の女が自分の痴漢被害にあった時の事を話してるときの表情見た?」
「い、いえ。見てません」
「そりゃもう凄いドヤ顔だったよー。もうこれ以上に凄いドヤ顔があるかってぐらいにね」
「そ、そんな顔はしていません‼」
被害者の女が立ち上がって反論した。
だが少年は動じない。
「質問いいかな、被害者さん」
「ええどうぞ。何でもどうぞ」
被害者の女が半ばやけくそ気味に言う。だが少年は貼り付けたような笑みで質問する。
「君には目が三つ以上あるの?」
これには被害者の女も面食らった。
「い、いえ、ありませんが・・・」
「じゃあさー」
少年は一旦そこで口を閉ざした。そして一拍置いて口を開いた。
「どうやって発言してる自分の顔を見たの?」
「な、・・・」
被害者の女は絶句した。言われて初めて自分の失態に気付いたのだろう。鏡もないのに発言中に自分の顔を見る事が出来る人が居るはずが無い。
「まあー、ドヤ顔してたってのはぶっちゃけ嘘なんだけどー、そんな顔はしていない、って事はどんな顔をしていたのかなー?」
「ッ‼」
状況が一転した。今まではこの女性が被害者、この男が加害者だったはずだ。それなのに今この法廷内では、その状況が入れ替わっている。
「で、どうなの被害者さん。あれれ、これってひょっとして最近噂の痴漢でっち上げ、ってやつ?」
「被害者さん、八ツ橋さんが言っている事は本当ですか」
「ふざけないでください‼」
絹を裂くようなその声に、法廷内が静まり返った。
だがその空気に水を差す少年が一人いた。
「ふざけないで、か」
「そうですよ。ふざけた空想を語って、私を加害者に仕立て上げて‼そんなに私を加害者にしたいんですか?だからもう一度言います。ふざけないでください、と」
だがそんな女性の凛とした態度も、少年には無効だった。
「だったらこっちも言わせてもらう。僕には仕事が溜まっている。願わくばこんな裁判今すぐ終わらせたい」
「だったら今すぐお帰りください。仕事があるんでしょう」
「その仕事の中にこれも含まれてるんだよ。だから仕方なくやってるんだ」
「だとしてもこの裁判に口を挟まないでください。迷惑ですので」
「分かった分かった。じゃあ最後にこれだけは言わせてもらう。君が痴漢のでっち上げをしたという証拠は出てんだよ、君の友人の口からね」
その一言に、女性の顔が引きつった。
「う、嘘よ。だってあの時、友達は乗ってなかったじゃない」
「実は乗ってたらしいよ」
「う、嘘よ。嘘よ嘘よ嘘よ!だって私の友達は誰一人として乗ってなかったじゃない‼」
女性の喉から発せられる音声で、法廷内の空気がびりびりと震えた。だが少年は臆しない。冷ややかに言い放つ。
「へえー、君ってすごいんだね」
「何でですか?」
「だって隣の人の顔も見えないくらいの満員電車だったんでしょ?その中から友人を見つける事ができるんだから、やっぱすごいよ♪」
その一言で、法廷の空気が凍り付いた。女性は今言われた一言を聞き流し、いや必死で聞き流そうとしているが分かる。そこへ少年は畳みかけた。
「ほらほら超人さん。何か反論言わないとー」
「ッ‼」
「被害者さん。どういう事ですか」
裁判長が本来被害者の筈の女性に声を掛けた。だが女性は黙ったまま肩を振るわせていた。
そこへ少年が最後の一言で畳みかける。
「決まりだね裁判長。こいつが犯人決定。はいみなさんお疲れさま。パチパチパチ」
その一言に女性はブチ切れた。
「このッ、糞ガキ‼ふざけんのもいい加減にしろ‼」
そして、手元にあったマイクを持つと、少年に向かって投げつけた。少年はそれを紙一重で躱した。女性が裁判官たちに取り押さえられる。
「あれれー、もしかして図星かな?裁判長、こいつ殺人未遂で逮捕しといて」
「は、はい。分かりました」
「ふざけんなこのッ、糞ガキ‼」
女性が吠える。だが少年は微動だにしない。
女性が法廷から連れ出された。少年はそれを見て「バイバーイ」と言い、本来加害者であるはずの男はホッと胸をなでおろした。
「あ、ありがとうございます」
男は傍聴席に居る少年にお礼を言った。少年はそれを片手で制すと、席を立ちあがった。
「んじゃ、僕これで帰るね」
「はい‼ありがとうございます」
被告人が言うと、後に続いて裁判長達も「ありがとうございました」と言った。
「じゃあ、また来週」
少年はそう言い残すと、法廷から出て行った。その姿が完全に見えなくなった時、元が被告人だった男は、裁判長に聞いた。
「あの少年、一体何者ですか?」
裁判長は法廷の入り口を見ながら答えた。
「少年政治家、八ツ橋倉野。と言えば、分かるかな?」
「ッ‼ま、まさか彼がその・・・」
「ああ。そうだ。たった一四歳で政治家となった天才少年、八ツ橋倉野。人間の心理を読むことは世界一とも呼ばれ、誘導尋問で彼に勝てる者はいないほど。総理がした政治の結果がどうなるかを先読みできる天才。彼が参加した裁判は嘘をついた方が負けると言われている。厳粛な裁判中にふざけた喋り方をするところと口の悪さにやや問題があるのが傷だけどね」
「・・・・・」
「彼のような人間の事をきっと神童と呼ぶのだろうね」
「・・・・・」
もしあの少年が居なければ、自分は有罪になっていたに違いない。
男は安堵と共に、背中に氷塊を入れられたような気分になった。
次の回で異世界に飛ばされます。楽しんでもらえると嬉しいです。