東シナ海海戦
「対空戦闘…スタンダード、攻撃用意」
「艦長!?」
「目標、目標防空識別圏へ侵入した敵機」
「ま、待ってください! 彼らはまだ…!」
異議を唱える副長に向き直り、睨み付けるようにあしがら艦長井堀晃一一佐はこう言った。
「敵機と決まったわけじゃない、か? それともまだ攻撃してきていない、か?
寝惚けるな! 宣戦布告吹っ掛けた国の領域を侵犯しようとしているんだ、しかも大編隊で! この意味が貴様にはわからんのか!」
「し、失礼しました!」あまりの大声に反射的に直立不動の体勢をとってしまった副長にいくらか柔らかくした声色でこう続けた。「ふん、それに空自が二回も警告を打電しただろうが。ワシがパイロットなら進路変更するか返答でも寄越すわ」
佐世保一気が荒いと言われる井堀一佐だが、怒りに身を任せていないときの判断力は優秀である。それはこのあしがらを任されていることからも窺える。反面、副長達は井堀が怒りに身を任せてしまわないように必死に引き留める必要があるので常に胃もたれを起こし、胃薬が欠かせないのだという噂だ。
「ハッ…しかしいくら何でも司令の命令を待つべきかと…」
「ふん、仕方ねェな。くらまに繋げ」
ほどなくしてくらまとの回線が繋がる。隊司令の遠藤一佐が出た瞬間に井堀は自らの要求を突きつけた。
「こちらあしがら。防空識別圏に侵入し、領空へ侵攻中の機体に対してスタンダードミサイルによる攻撃を行い、撃墜したいと思います」
「……却下、する」
「どうしてです司令。彼らにはすでに2度空自から警告が出ています。それでもこの空母一隻分の航空機が針路を変更しないままということは我々日本に対して危害を加える可能性が非常に高いものと見なせます。その上、彼ら宣戦を布告してきているのですぞ」
『なるほど、貴官の意見はわかった。たしかにそうだ。しかし…だが……』
しかし遠藤は決断を下せない。時おりモゴモゴとなにかを言おうとしているようだが何を言ってるのかわからない。遂に井堀も我慢の限界が来たようで口を開く。
「司令、まさかこの期に及んで悩んでるんじゃねェだろうな。お前はいつもそうだ、ここまで準備ができているのに肝心なときに踏ん切りがつかねェ優柔不断なやつだ」
『……その言葉、上官に対しての言葉遣いではないぞ』
「ふん、こちとら降格食らって一佐なだけでアンタよりも歳も勤続年数も上なんだ。知ったこっちゃねェな」
『……わかった。では再度の警告の後3分の猶予を以て撃墜を…許可する』
三期先任の井堀の気迫により遂に遠藤は折れ、攻撃許可を出した。それを待ち望んでいたかのように砲雷長の方へ目線をやる。
「了解しました――――砲雷長」
「目標の選定は済んでいます。いつでもいけます!」
「よかろう。通信士、警告を与えろ。
副長、そういうことだ」
最早副長も誰も文句を言わなかった。海上自衛隊の実戦での初のミサイル発射という事態に名誉を感じる者もいれば不安を感じる者も勿論いたが、やらなければやられるのが戦闘だ。その葛藤を表すかのように朝日が登った空には暗くどんよりとした雲が立ち込めていた。そしてその雲の上高度7000には日本は迎撃をしてこないと高をくくった悪意ある翼が自らの命のカウトダウンを刻んでいた。
《“ペム1”より各機へ。攻撃地点へ到達後、低空へ降下しやつらのレーダーに捉えられないように攻撃せよ。なお目標の優先は順位は飛行前のブリーフィングの通り、い―――…全機散開! 散開!! アアッ――――――――!》
隊長機の必死の指示も間に合わず油断しきっていた編隊は初撃で撃墜された隊長機に巻き込まれた一機を含み、12機が撃ち落とされる。一発だけ外れたミサイルはやがて推進材が尽きたのか落下していった。
僚機が次々と炎に包まれ黒煙をひいて落下していく様にたちまちパイロット達は恐怖にかられた。
《トクスリ7より各機へ! ECM作動! 回避行動に移れ!》
いち早く状況を把握した機体が各機に指示を出すが着いてこれたのはごく少数だった。そしてそこへ編隊が散開を始めたところに再び長槍が、白い尾をひいて飛来した。
《トクスリ4了解!》
《ホランイ11了解》
《トクスリ3了…うわぁぁぁぁ!!》
《なぜだ…なぜ…なぜ我々が…っ! わからないわからないわからないわからないわからない…あ、あっ…た、助けてっ》
第二波攻撃は主に呆然自失となっていた機体が餌食となった。二度の攻撃により編隊は散り散りになり、隊長機を失ったことと、次々に襲いかかるミサイル攻撃に晒された僚機の隊内無線から響く悲痛な叫びや、同胞の断末魔で極度の混乱状態へと陥ってしまっていた。
それに追い討ちをかけるようにあるF15Kのそのレーダーに突如として輝点が現れた。スピードはマッハ4を超え、回避行動が遅れたノロマの近くで炸裂し、次々と弾片の雨を降らせた。正体は航空自衛隊の99式空対空誘導弾である。
新田原基地から上がった305飛行隊がエアカバーに駆けつけたのだ。
《いくぜ! エルボー1、エンゲージ!》
《エルボー2、FOX2!》
マッハ2.5のトップスピードで殺到した荒鷲は我先にと獲物へ食らいつく。先陣を切った隊長機はあっという間に手近の1機に肉薄し、ドックファイトに持ち込むと20mmバルカン砲の火焔を浴びせ空に金属の棺桶を完成させる。
次にエルボー5が、機体を横滑りさせて九十度方向転換しながら同盟軍機の尻にへばりつき、04式空対空誘導弾を発射する。直撃をまともに受けてしまったF4は錐揉みになることすら許されずに部品をばらまきながら爆発する。
しかし、敵もやられてばかりではない。F15Kの中には攻撃を諦めて重たい荷物を切り離し、応戦に出る機体も出始めた。
生き残りの1機は後ろに付こうとした空自機に捻り込み1発で逆に後ろに付き、仲間の仇とばかりにサイドワインダーを構える。
《クソッ調子に乗るなよ…食らえ!》
《ちくしょう! こちらドール、後ろに付かれた!》
後ろに付かれたドール機は機体を左右に振って振りきろうとする。
フレアとバレルロールで辛くもミサイルのロックは外すが、母機は執拗に食らいついてくる。
《待ってろ、掩護する。スラッシュFOX2…ファイア!》
下方の反航状態のスラッシュ機から宙返りからの逆落としにミサイルを投げつけられたスラムイーグルは至近距離からの攻撃によりまともに回避もできずに四散した。
《助かったぜ、基地に帰ったら一杯奢るよ》
《OK、そんじゃ…なんとしても無事に帰らなきゃな》
《了解…だがさっきみたいな無茶ばかりしてると機体が持たないぜ》
《次からは気を付けるよ…整備班長にどやされるからな!》
ははは、と笑いなが2機は他の機体の援護へ向かう。
同盟軍機の必死の抵抗も虚しく、空自隊員達は巧みに機体を操り、基本の二機一組を崩さず一機、また一機と確実に仕留めていく。
中には後ろに付かれる前に勝ち目なしと脱出してしまう者や、或いはミサイルを抱いたまま落とされるよりは、と護衛艦隊へと攻撃を掻い潜り、発射を図る機体もいたが、あえなくミサイル共々、はるさめのシースパローと、あしがらのスタンダードによって撃墜されてしまった。
《パール、お客さんの様子はどうだ!?》
《追い詰められてとんでもない行動に出そうな雰囲気だな、信長だってその怖さは知ってて城攻めのときは逃げ道は作ってたって噂だ》
《なら、降伏勧告でも出すかね?》
《素直に帰ってくれたらうれしいんだがな!》
冗談混じりの会話が交わされるが、それはすなわち余裕ということではない。むしろ逆で適度にこうした会話をして、適度に緊張や焦りの感情を落ち着かせることで冷静さと少しの余裕を保っているのだ
実際、305飛行隊側にも焦りが出始めてきた。翼下のハードポイントに装備してきたミサイルがもうほとんど残っていないのだ。早々に撃ち尽くした機体は唯一の固定武装である20mmバルカン砲で応戦しているが、やはりミサイルに比べると効果が薄いようだ。
そんな中恐れていた事態が起きてしまった。
《隊長、全機ミサイルを撃ち尽くしました!》
「残敵は!?」と隊長が問うと、「残数8機!」という返事が帰ってきた。一瞬逡巡したのち、「降伏勧告を送れ。従わないのなら俺たちが覚悟決めるか下のやつらに丸投げかだな」と全機に伝えた。
残った8機は305飛行隊の猛攻が止むやいなや、しめたとばかりにエンジンをフルスロットルにして全力で逃げることを選択したようだ。勧告を送る前にほうほうの体で領空外へと逃げ去っていった。
「スタンダード、第二波命中! 撃墜18確認!」
「目標群d、e上昇しながら体制を建て直す模様!」
「目標群cの全機撃墜を確認、スタンダード残数17」
CICへ入ってくる情報は自衛隊の優勢を示すものばかりだった。
しかし、内部の雰囲気は完全に通夜や葬式のそれである。
ボタンひとつでCICにいるVLSのコンソールを任されている隊員はもとより、ミサイル士、ミサイル長、砲雷長などを筆頭にここにいる人間はすべて「ひとごろし」の共犯となってしまったのである。無論罪に問われることはない。しかし、自らの倫理観や後悔は別である。
全く実感はわかないがボタンを押す度に消えていく敵機の輝点とがそれを表していた…
「艦長、まもなく新田原基地より発進したF15が目標群eと接敵します」
「スタンダード発射やめ、対空見張りを厳としつつ上は空自に任せ、ワシらは海を警戒するぞ! 次は対水上戦闘じゃ!」
暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように、井堀一佐は声を張り上げた。
しかし、そうは言ってもなかなか割り切れないもので、体の震えの止まらない射撃官制員や止まらない冷や汗をぬぐい続けるミサイル士もいた。
彼らの胸中には興奮状態故に抑えきれている恐怖のみが存在していた。
「敵機編隊離脱していきます!」
SPYレーダーを睨み続けていた電測員からそんな報告があったのは新田原基地のイーグルがこの海域に舞い降りてから10分ほどであっただろうか、こちらの水上攻撃の用意が終わりかけの時のことである。
結局彼らは一機たりとも護衛隊のミサイル防衛圏を突破することができなかったのである。
その頃、乙支文徳で空軍が一目散に逃げ出していくのを、しかもほぼ全滅に近い状態で目の当たりにした張少将はその顔を真っ赤に染めてワナワナと震えていた。首から上だけがきれいに真っ赤に染まっており、完全に頭に血が上っているのが端から見てもすぐに理解できる。
額に幾つもの血管を浮き上がらせながら、誰にと言うわけでもなく掠れるような声で絞り出した。
「こ、これは…夢か……? 空軍のバカは一体、何をしているのだ……!?」
幕僚達も張の怒りの矛先が自分へ向かうのを恐れてなにも言わなかった。
よろよろと椅子に戻った張はぶつぶつと何かを呟いていたが、到達にマイクを取ると突撃を下命した。
「全艦突撃! ハープン、海星発射用意、奴等を絶対に水底へと沈めるのだ! 欠片さえも残してはならん!」「了解、SSM発射準備!」
海星とは、韓国が独自に開発した亜音速の艦対艦ミサイルで、李舜臣級駆逐艦の王建より制式配備されたが、既存の艦艇にも装備が可能とされている。射程は180km程度と言われている。
「リンクスとのデータリンクよし、敵艦隊を完全に捉えました!」
「データ入力よし!」
「発射準備、完了しました」
撃て、と命令と共に各艦から2発ずつのミサイルが2度、放たれた。
キャニスターから躍り出たミサイルはブースターによる加速を終えると急激に高度を落とし、超低空海面追随飛行と呼ばれるレーダーによる探知を避けるための超低空飛行へと移り、その身に携えた火の玉を第2護衛隊へと送り届けるため、一直線に哨戒ヘリからの情報が示す海面へと白煙をひいて目標のドテッ腹を目指して邁進していった。
「全弾発射終わり!」
「全弾シースキングモードへ移行!」
その様子に満足そうに頷いた張少将は幾らか冷えたその頭で幕僚の意見を取り入れ次の指示を出し始めた。
くらまCIC
「哨戒ヘリ2号機より入電。目標群αより小型目標が多数分離。艦対艦ミサイルが発射された模様!」
「目標は6…いえ、12機真っ直ぐ我が艦隊へ近づく」
張少将の艦隊が放ったミサイルは第2護衛隊のレーダーからは(探知圏外だったこともあり)完全に見えていなかったのだが、8機8艦体制の恩恵である豊富なヘリにより捉えられていた。
『目標群αより艦対艦ミサイルが発射された! 総員対空見張りを厳となせ!』
『目標は8機、真っ直ぐ我が艦隊へ近づく!』
哨戒ヘリの乗員はすぐにでも迎撃したかったが、哨戒装備のため、機には武装と言えばドアガン程度しかなく胴体の下には増槽しかないため唇を噛み締めながらミサイルの行方を精確に逐一報告していたが、護衛艦からしてみれば、その情報は今、この場所においては、杜甫のように家族からの手紙ではないが、万金に抵たるものである。
「見張り、何も視認できないか?」
『こちらウィング、現在何も視認できない!』
「シースパロー、攻撃用意。51番、52番砲、撃ち方用意!」
水平線上にミサイルが視認できなかったため敵ミサイルは高速巡航モードではなく超低空のシースキングモードで来ると遠藤は考え、スタンダードによる撃墜は難しいと判断した。
「全艦面舵回頭、第2戦速。目標を真横に捉える。転舵後は各個に迎撃せよ」
『目標探知、距離280、真っ直ぐ近づく!』
ついに水平線上から現れたミサイルを捉えたあしがらによってくらま、はるさめ、あまぎり、それからあしがら自身にそれぞれ目標が適当に割り振られる。
「シースパロー攻撃始め!」
「シースパロー発射用意よし!」
「発射用意…撃ぇ!」
暗いCICに副長とミサイル士の野太い声が響くと同時にくらま、あまぎりからはシースパローが、はるさめ、あしがらからはESSMが2発ずつ発射された。
くらま、あまぎりのMk-25ミサイルランチャーから飛び出したシースパローは一直線に目標に向かって突撃していったが、VLSから発射されたESSMは一旦垂直に上昇し、山なりの放物線を描いて目標に向かっていった。
「シースパロー発射よし、インターセプトまで…10秒」
レーダーに映し出される輝点は、対艦ミサイルとは比べ物にならないスピードで目標に近づいていく。
「インターセプト5秒前」
「5…4…3…2……マークインターセプト!」
着弾と同時に海面に水柱が上がり、それに混じり幾つかの爆炎も確認できる。
「爆破閃光視認!」
しかし、まだ3機が残っていた。うち2機がくらまに向かう。
「目標2機さらに近づく!」
「主砲撃ち方始め! 用意…撃ぇ!」
4隻5門の砲口が一斉に火を噴いた。特にくらまから放たれる弾幕は背負い式主砲を持つこともあって目を見張るほどだ。
そして主砲発砲と同時にEA攻撃も行われる。所謂電子的な欺瞞をするのである。
「目標2機撃墜!」
くらまに向かっていた2機がCIWSの射程ギリギリで爆発する。とは言え、比較的近距離で迎撃したため爆発の衝撃波はくらまにも到達する。
艦が激しく揺さぶられ「ぎゃっ!」という声とともに
、見張り員の二曹が激しく転倒し後頭部を強打した。
「大丈夫か!?」
「うっ……」
どうやら朦朧としているが意識はあるようだ。転倒した彼は同僚に担がれて艦内へ収容された。
また艦橋では乗員の悲鳴と海図に記入するための筆記用具が散乱する。とは言え手すりなど掴めるものがあるだけウィングよりはましである。
「各部被害を知らせ!」と副長がマイクに怒鳴るとすぐに各所から返答があった。
レーダー…三次元、対水上ともに異常なし。武器システム…ご機嫌。通信アンテナもデータリンクも特に問題なく作動。負傷者は見張りに一人…戦闘に支障なし。舵器、推進器にも全く異常なし。
各部から上がってくる報告はくらまの健在を表していた。
ホッと一息ついたのも束の間、生き残った一発が激しく主砲を撃ち続けるあまぎりに命中寸前であった。
「チャフ発射!」
「CIWS迎撃開始!」
ハードキルとソフトキルの最後の砦が動き始めたが、ここまで来るとたとえ迎撃に成功しても損傷は避けられない。
それでも命中するよりかはずっといい。
「頼むぞ…落としてくれ…」
ポツリと誰かが呟いた。それは、あまぎり乗員の総意でもあった。
毎分3500から4000発とも言われる量の弾丸が空中に吐き出される。
ミサイルはそれでも爆発しない。
見張り員も含め艦橋要員は操舵手以外の全員が艦内へと避難した。
次第に隊員達の顔も青ざめていく。
「衝撃に備え!」
艦長がそう発した時にはすでに全員が何かしらに掴まっていた。
「もうだめ―――」
もうだめだ、そんな諦めの声に重ねて大きな衝撃と火の玉があまぎりを襲った。
爆炎は艦橋とマストを飲みこみ、窓ガラスを突き破って艦橋内へなだれ込み、天井と壁を焼き、操舵席の下へ身を屈めた操舵手のライフジャケットを焦がした。
揺れが収まると艦長はすぐに、インカムをとった。
「各部損傷報告!」
「対空レーダーホワイトアウト!」
「対水上レーダーも損傷しています!」
『航海用レーダー信号途絶!』
砲雷科員と航海科員から帰ってきた返答にCICに詰めていたあまぎり幹部は全員が顔をしかめた。レーダーが使えない戦闘艦など現代では何の役にも立たないからだ。
「損傷はレーダーだけか!?」
「左ウィングで火災! マストも上部が折れています!」
「現在消火作業中!」
艦橋から見える左ウィングはさながら地獄のようにも見えた。
あまぎりを標的としていた海星ミサイルは、着弾の寸前、迎撃に成功したのだ。
だが爆炎はあまぎりの上部構造物を飲みこみ、さらに外壁に火災を発生させていた。
「各種アンテナ、使用不能!」
「射撃方位盤、CIWSも台座ごと吹き飛ばされています!」
「本艦の戦闘艦としての能力をほとんど奪われたか…」
砲雷長が固く握った拳でコンソールを叩いた。
やはりあまぎりは護衛艦としての目、そして通信アンテナと探照灯、信号旗という情報伝達手段という耳と口すらも奪われてしまっていたのだ。
「手旗信号を…『ワレ戦闘不能』」
断線してしまったのか、右舷の探照灯すらも使えない状況に艦長は手旗信号を指示した。
窓が割れ、マストの先端は曲がり、あちこちで煙が燻っている姿は遠目からでもあまぎりが戦闘能力を喪失しているのは明らかだった。
「あまぎり、戦闘不能!」
海上自衛隊初の実戦による自衛艦の損傷であった。