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序章:対馬沖の不審船

六月頃から構想を練っていた作品となります。

できるだけ早めの更新を心がけたいと思います。

細かいところは海自の広報などに行って隊員に聞いてみて直したいと思います。

 西暦20XX年、退役を間近に控えた第一世代ヘリコプター搭載型護衛艦(DDH)しらね型二番艦くらまに最後の任務が課せられる――――






「そう言えばよぉ」


「あん?」


「こいつの退役まであと一年もないんだよなぁ」


 くらまの食堂で須藤三尉はそう呟いた。


「まぁ代替艦のかがも公試が始まったからなぁ」


 と、同期の松田二尉がしみじみとした様子で返す。


「ちょっと前に配属されたばかりなのになぁ…俺たちどうなるんだろうねぇ」


「大方こっちに来るいせへの転属だろ。それとも舞鶴かどこかに行くか?」


「それなら横須賀に行くね。実家も近いし」


 いつものように非番の時間をもて余していた二人はこうして科員食堂でぐーたらしていた。

 当直の間は航海科と機関科という配置の違いから顔を合わすことのほとんどない二人はほぼ毎日のように当直を交代したあとは食堂に来ては駄弁るので着任当初同僚からよく『熱愛カップル』だの『新婚須藤家』だの『すど×まつ』だのとからかわれていた。


「お、今日も須藤家の二人は仲がいいな」


「「あ、相賀機関長!」」


 ふらりと現れたのは現在このくらまの佐官のなかで最古参の相賀剛三佐だ。年齢でも階級でもこのくらまの乗艦年数でも負けているため一瞬イラッとした表情で振り返った二人だが相賀を認めた瞬間弾かれたように立ち上がり誰がどこでどう見ても完璧な敬礼を披露した。


「ん、そんなに慌てんでもええ。やけどそんなにだらだらするのはどうかと思うぞ?」


「は…」


「ところで明日から対馬へ行くことになった。今のうちに十分休んどけよ」


「対馬……ですか?」


「せや、公表はされてへんけど不審な大型船の目撃情報があったんでな。

 警戒監視任務が下令されたんやと、明日の1105にあしがら、はるさめ、あまぎりと一緒に出ることになったで」


「第2護衛隊総動員ですね……」


「そうや。ヘマしたら承知しねえぞ。何しろうちには隊司令が乗艦するんだからな」


「「はいっ」」






 明朝0800


 くらま、あしがら、はるさめ、あまぎりの各艦は今まさに離岸しようとしているところだった。すでに乗降用のタラップは上げられ、甲板には手の空いている乗組員が整列していた。


《出港用ー意ッ!》


「左舷舫い放て―――ッ!」


 スピーカーから出港ラッパが流れ、係留索を笛の音に合わせて運用科員が手際よく引き上げ、岸壁の反対側へとつけた曳船(タグボート)により艦が引っ張られ離岸する。


《左、帽振れーッ》


 灰色の艦体に並んだ隊員が帽子を振る。岸壁には他の艦の乗員や移動中に通りかかったのであろう隊員や、丁度基地の開放日であったため見学に来ていた一般人が集まっていた。

 岸壁から充分な距離をとると、曳船と別れ、はるさめ、くらま、あしがら、あまぎりの順で外海へと向かう。







―――艦橋


「まもなく、湾口を出ます」


「針路30、両舷前進原速。僚艦との距離は200を維持」


「ヘリの発進準備をさせますか」


「ああ、しておいてくれ。」


「はっ…格納庫、艦橋。SH60K発進準備。」


 第一世代DDHの特徴はこの型だけがもつヘリコプターを三機格納できる格納庫だ。今となっては三機全部積むことは少なくなったが広い格納庫は整備のスペースも広くとれ、何かと使いやすい。また、式典などでもよく使われる場所である。

 今回はあまぎりに一機、はるさめに一機、くらまに二機を搭載し、稼働、整備、待機、待機のゆとりのあるローテーションを組んでいる。

 対馬沖は不審船騒ぎがあったとは思えないほど穏やかな海だった。





《飛行甲板、艦橋。SH60K発進準備完了。発艦許可願います》


「司令、ヘリ1号機が発艦します」


「わかった。事故のないように」


「はっ…艦橋、飛行甲板。発艦を許可する。万一の事故などもないように」


《了解。SH60K発艦します》





―――飛行甲板



 くらまの長大な飛行甲板に引き出されて待機していたSH60Kはヘリコプター特有のバタタタタという音を鳴らしながらエンジンの回転数をあげていく。


「ベアトラップオープン、テイクオフ」


 機体と艦を繋いでいた着艦拘束装置と機体が切り離されヘリが宙へと浮き始める。

 そのまま機体はある程度まで上昇すると若干機体を傾け、進行方向を決めると対馬方面へと一路向かう。

 下を見やれば母艦のくらまや艦隊最大のちょうかいが見える。やはりくらまを見たあとにちょうかいを見るとその大きさが際立つ。まず艦橋の高さからして違うのだ。どちらも竣工時は海自最大の護衛艦とはいえ年月の差はこれほどにも大きい。

 機体ははるさめの右舷側を抜け、艦隊から離れていった。











 その頃、対馬からそれほど遠くないところで不穏な動きがあった………



 艦内にアラームが鳴り響く。あちらこちらで怒声と発砲音が聞こえる。

 今の時代白兵戦など珍しい。ましてや、船の上であるよってこれは反乱、ということになる。

 士官の一部と大多数の下士官兵によるこの反乱はついに艦橋構造物以外の全区画を掌握してしまった。


「艦橋へ。本艦の重要箇所はそちらの立てこもっているところを除きほぼ全てを掌握した。無駄な抵抗は命取りである。我々も同胞を無闇に殺したくはない。12時間待つ。降伏か、死か。どちらかを選んでいただきたい」


 応急指揮所から全艦に流された放送は当然艦橋に集まっていたこの艦の頭脳にも聞こえていた。


 9時間後、反乱組以外の退艦と引き換えに艦は掌握された。

 この事態を日本はまだ知らない………



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