第四十一話 交渉
更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。一章終了まで書き貯めたデータが消えるという悲劇に見舞われ、書き直す気力がありませんでした……。
なろうの執筆中小説にも移しておくべきだったorz
隷属契約――――――これだけはどうにか避けないといけない。こいつが言うアイツって言うのが誰なのかは知らないけど、その人が僕の知り合いであることは間違いない。一応、あの黒い少女かノア辺りが怪しいとは思っているけど。あの少女は存在自体が謎だし、ノアも結構不思議な人物だ。あの見た目で年齢不詳な上に三大魔術全てを上級で使えるとか、色々と普通じゃない。世界観を考えると、実はその正体は魔族ですって可能性とかありそうでワクワクしてしまう。
とにかく、あのネコの目的がこの二人のどちらか、あるいは大穴で父のことだったりしたとして、僕がコイツの言いなりになるというのは最悪の未来しか想像できない。きっと僕を利用して罠を仕掛け、精神的に追い詰めたりする筈だ。まあ、そんなこと関係なしでこの性悪に隷属するなんて絶対に嫌なんだけど。
でも、状況はかなり悪い。リリーがいないので先程のように逃げることは不可能だし、エレナを倒せるような魔獣に僕が勝てるとも思えない。唯一の希望は、リリーがこの場所を知っているのでノアが助けに来てくれる可能性が高いことだけど、騎士団を連れてくるのなら最低でもあと数時間はかかる筈だ。
ああ、時間が欲しい。いっそ、隷属契約の完了に何時間もかかるとかなら希望があるのに……。
……あれ? そういえば、隷属契約ってどうやってやるんだろ?
――――――隷属契約を行うには二つの条件がある。一つ、召喚者の総魔力量が召喚対象の総魔力量を上回っていること。二つ、召喚対象が召喚者に対して負けを認めること。以上の条件を満たした状態で、召喚対象に召喚者の血液で隷属印を刻み、通常の召喚魔術と同様の契約をすることで隷属契約は完了する。
……なるほど、今の僕にとってこの知識はとてもありがたい。少しだけ、光明が見えたかもしれない。敗北感というのは結構漠然としている気がする、コイツに対して僕はそれを感じているだろうか?
「そろそろ時間稼ぎに付き合うのも止めニャ。契約前に助けが来るのは面倒だしニャー」
岩に座っていたネコが軽やかな動作で地面に降り立ち、こちらに近づいてくる。やっぱり時間稼ぎしていることはばれてたみたいだ。
「……隷属契約だったかな? してあげてもいいよ」
「ニャ? さっきまであんなに嫌がってたのにどしたのかニャ?」
突然意見を変えた僕に違和感を感じたのだろう、ネコはこちらに近づくのを止めて目を細める。
「隷属契約をするのは構わないけど、その前にやることがあるんじゃないかな?」
「……どういう意味ニャ?」
「僕に勝たないと、隷属契約は成功しないんじゃない?」
「――――――お嬢ちゃんみたいなお子様がその条件を知ってるとは思わなかったニャ」
まあ、今知ったばかりだからね。
「でも、お嬢ちゃんが僕から逃げだしたのはボクに勝てないと思ったからじゃないのかニャー?」
「普通に戦ったらね。でも、実際には負けてないんだから契約の条件は満たせてない筈だよ」
「じゃ、今から戦うのかニャ?」
「いいけど、一つ疑問があるんだ。僕が君と戦って負けたとして、僕は敗北感を感じるのかな?」
「ニャ?」
ネコは訝しげにこちらを見ている。僕が何を言おうとしているのか測りかねているようだ。
「だからね? 最高位の魔獣である君と可愛らしい幼児である僕とじゃ、実力差があり過ぎて負けても納得できないんじゃないのかなーと思うんだけど、どうだろう?」
「どうだろうって言われてもニャ……」
「できるだけ同じ立場で戦わないと負けを素直に認めることはできないと思うんだ。――――――僕が君に負けても、色々と理由を付けて絶対に認めないことを誓おう」
「……お嬢ちゃん、負けたときは素直に受け入れないと立派な大人に成長できないニャー?」
「うるさい。そもそも幼児が最高位の魔獣なんかに勝てる訳ないでしょ。せめてハンデをちょーだい」
何だか呆れたような視線を感じる。僕もこんなことを言う子供はどうかと思うから、甘んじて受け入れよう。でも、絶対にハンデはもらう。
「ニャ……。仕方ないからハンデをあげるニャ。お嬢ちゃんの認識で負けを認めないと契約が成立しないのは確かだしニャ……」
「え、いいの?」
びっくりした。自分で言っといてなんだけど、こんな屁理屈がすんなり通るとは思わなかった。正直、我儘にキレて襲いかかってくるのも覚悟してたんだけど。
「で、どんなハンデがいいニャ?」
「そっちだけ魔術の使用禁止でお願いします」
まあ、これが受け入れられるとは僕も思っていない。でも、コイツに魔術を使われると僕に勝機はない。目指すところはお互い魔術なしのガチバトルだ。ネコは魔獣といっても身体能力は普通のネコと変わらないから、幼児とにゃんこの肉弾戦ならそこそこ互角の戦いになるんじゃないだろうか。たぶん。
「そんなのでいいニャ?」
あれ? これもすんなり許可が出た……。ひょっとして身体能力もすごく高かったりするのか? いや、ノアが肉体的には普通の魔獣と変わらないって言ってたから大丈夫なはず。
「……うん、その条件で戦おう。僕が勝ったら見逃してくれるんだよね?」
「そんなこと言った覚えないけどニャ……。あーもー、それでいいニャー」
よし、何か投げやりだったけど言質はとった。口約束をどれだけ信用できるのかは不安だけど、それを言ってもどうしようもないからそこは仕方ない。今はコイツに勝つことだけを考えよう。
とりあえず、始まったらすぐに初級召喚魔術をひたすら使おう。その後、タイミングを見計らって中級召喚魔術ででかい岩を頭上に召喚してやろう。僕の歳で中級召喚魔術を使える子は少ないだろうから不意を突けるかもしれない。
「それじゃ、さっさと始めるニャ。早くしないとアイツが来るニャ」
「あ、待って。エレナからもっと離れよう。先に言っとくけど、エレナを狙うのもなしだからね」
「はいはい、わかってるニャー」
なんだかネコが少し急いでる感じがするけど、さすがにノアが来るにはまだ時間がかかるだろう。あ、でもあの黒い少女の方だったら来れる可能性もあるのかな? 正体不明過ぎて何ができるのか全く分からないだけなんだけど。僕の動向とか知ってるのかな?
そんなことを考えつつ、僕はできるだけゆっくりと広場の中央へと向かい、ネコと対峙する。助けが来る気配はない、やはり自分でどうにかするしかなさそうだ。
「準備はいいかニャ?」
「うん……」
「それじゃ始めようかニャ。それにしても、お嬢ちゃんはなかなか勇気があるニャー?」
「……そう?」
あれだけ色々条件を付けたのに、そんなことを言われるとは思っていなかったので少し驚く。でも、ネコの表情を見て、それどころじゃなくなる。
ネコは嗤っていた。僕が罠にかかったのに気づいたときよりもさらに楽しそうに、僕の浅はかさを嘲笑っていた。
そして、ゆっくりとこちらに近づき――――――その姿が掻き消えた。
「――――――魔装は使ってもいいなんて、お嬢ちゃんは優しいニャー」
その声は下から聞こえた。気付いて視線を下げたときにはすでに手遅れだった。フッと体重が軽くなったような錯覚を覚え、次の瞬間には僕は仰向けの状態で地面に叩きつけられていた。
「――――――え?」
一体何が? 自分の身に起こったことが分からずに混乱していると、僕のお腹の上にネコが飛び乗ってきた。そのことにまずいと思うも、叩きつけられた衝撃のせいで体が痺れ、上手く動けない。
「お嬢ちゃん、僕が魔術しか使えないと思ってたのかニャー? ま、確かにボク達は魔装ってあんまり得意じゃないんだけどニャ。別に使えない訳じゃないしニャ。ニャヒッ」
僕のお腹の上に乗ったまま、こちらを嘲ってくる。その姿をよく見ると、僕の足には奴の尻尾が絡まっていることに気付く。
「今のは、尻尾で……」
「ニャヒッ。見えなかったニャ? 魔装を使えば、ボクの可愛い尻尾でもお嬢ちゃんを投げることくらい簡単ニャー」
「――――――」
どうやら、僕はコイツの尻尾で投げられたらしい。ネコは魔術が得意だと言っていたからてっきり魔装は使えないものと思い込んでいた。確かに、魔装が使えないとはノアも言ってはいなかった。だけど――――――
「姿が見えなかった……」
「おお、やっぱりそうニャ? あんまり魔装って使わないからニャー。とりあえず魔力全開で使ってみたから、お嬢ちゃんには見えなくて当然ニャー。いやー、お嬢ちゃんはホントに勇敢だニャー。ニャヒッ」
もっとハンデもらえばよかった……。僕の上に乗ったまま、ニヤついているネコ見て、僕は勝負を挑んだことを少し後悔した。
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