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第四十話 ドSネコ

 約五メートル、魔術師にとっては無きに等しい距離をはさんで、僕とネコは睨み合う。いや、睨んでるのはこちらだけか……。ネコはニヤニヤとしたムカつく笑みでこちらを見ている。


「お嬢ちゃん、そんなに睨んでどうしたのかニャ?」


 奴は後ろ足で耳を掻きながら、白々しく聞いてくるが、普通のネコっぽい仕草にイラッとする。というか、ネコなら匂いとかで男だとわかってよ……。

 でも、意外にも向こうは僕と会話するつもりがあるようで、最初に見たときのような魔力も感じない。最初に見た魔力は僕を脅かすためか……。

 リリーがいない今、コイツから逃げることは不可能だ。しかも、何故かコイツは僕を召喚することまでできる。

 でも、向こうに今すぐ襲う気がないなら今は時間を稼ごう。僕がコイツに召喚されたところはノアも見ている筈だ、ノアなら絶対に助けに来てくれる。問題は、時間がかかることとコイツがそれをわかっている可能性が高いことだ。


「エレナは元に戻るの?」

「ニャーン? 最初に聞くのがそれなんてずいぶんと優しいお嬢ちゃんだニャー。さっきはその女を置いて逃げたのにニャー?」


 楽しそうだな、コイツ……。僕がそんなことしたくなかったことをわかっていて、それでも敢えて聞いてくる。


「……それしかできなかったからね」

「子供の割にお利口なお譲ちゃんニャー。ま、治すことは可能ニャー。上級治癒魔術で元通りだニャ」


 はぐらかされると思っていた質問にまともな答えが返ってきた。もちろん、本当のことを言っている保証はないけど、それでも少しホッとした。


「……僕達をどうするつもり? 君、結構前から僕達のことを狙ってたでしょ?」

「ニャー?」


 ネコは惚けたように鳴く。でも、あの厭らしい笑みがさらに深くなったことで僕は自分の考えが正しいことを悟った。


「エレナとはぐれた途端、この森にはいなさそうなゴブリンに何度も襲われた。あれは君の仕業だよね? 僕達を監視して、運よく二手に分かれたところを狙ったんでしょ? 召喚したゴブリンに僕達を足止めさせて、その隙に君はエレナを無力化する。そして、最後は僕達――――――」

「ニャヒッ!」


 僕の予想は奴の漏らした笑い声で止められた。


「ニャヒヒィ! い、今更気付いたのかニャ!? しかも! まだ騙されたままなのかニャー!? わざわざ召喚魔術まで使ってやったのに!? ニャヒー、面白すぎて腹痛いニャ!」


 奴はこらえきれないように岩の上にひっくり返って笑い転げている。うざい……、いや、それよりも今コイツは聞き捨てならないことを言った。


「……騙されたままって何のこと?」

「後で教えてやるニャ。こういうのはもっと面白いタイミングでばらすに限るニャー」


 ネコが起き上がりながら自慢げに応える。なんて性格が悪いネコなんだ……。間違いない、コイツは真性のドSだ。


「それで、僕に何の用があるの? わざわざこんな手間をかけてまで二人になったんだ。ただの嫌がらせってわけじゃないでしょ?」

「にゃ? ただの嫌がらせニャー」

「ふざけるなよ、ドSネコ……」

 

 いくらなんでもその理由は許さないぞ。


「ニャーニャー。そんな怖い顔するもんじゃないニャ、お嬢ちゃん。可愛い顔が台無しニャ。ボクが嫌がらせしたいのはお嬢ちゃんじゃないニャ」

「僕じゃない?」

「お嬢ちゃんにはアイツの匂いがべったり付いてるからニャー。よっぽど大事にされてるんだろニャー」


 アイツ? それってもしかして――――――


「――――――そんな大切なお嬢ちゃんを僕のモノにしたら、アイツにはとってもいい嫌がらせになるんじゃないかニャー?」

「――ッ」


 そう言われた瞬間、濃密な魔力の気配を感じた。その魔力の発生源であるネコは、とっさに後ろに下がった僕を見て眼を細めている。


「お嬢ちゃん、ボクの魔力がわかるってことはやっぱりそれなりには魔術を使えるにゃ? さっき喚んだときも思ってたより魔力が多くてちょっと面倒だったしニャー」

「そういえば、アレってどうやって僕を召喚したの? すごく気になるなー」


 ついさっきまでとはまるで違う威圧感に戦々恐々としつつも、何とか会話を続けようとしてみる。


「今はまだ内緒ニャー。僕と契約してくれれば話してあげるニャ。そしたらあの女も助けてあげるし、君も無傷で返してあげるニャ。ニャー、僕って優しいニャー」

「契約……?」


 このタイミングで出てくる契約という言葉には嫌な感じしかしない。


「お嬢ちゃんにはボクと召喚魔術の契約をして欲しいニャ?」


 召喚魔術? でも、コイツはさっき……。


「僕の召喚ならもうできるんじゃないの? まあ、僕は契約なんてした覚えはないけど」

「ニャヒッ、本当にそうなのかニャー?」


 ドSネコが厭らしく笑う。こんな奴と契約しておいて忘れる筈がないが僕には心当たりがなく、コイツがどうやって僕を召喚できるようになったのかは全くわからない。


「ま、それはいいニャ。ボクがして欲しいのは隷属契約っていう特殊な契約ニャー」

「うわ……」


 名前だけで嫌な感じが半端ない。


――――――隷属契約とは召喚魔術を発動した際、召喚対象に対して強制力を持つ命令権が、召喚者に発生する特殊な契約のことで、通常の召喚魔術の数倍の魔力が必要となり、難易度も跳ね上がる。


 ……思い出した。知らないけど思い出した。知りたくないのに思い出しちゃった……。


「名前は気にしなくていいニャ。ちょっと珍しいだけで普通の契約ニャ」

「ウソつくな」


 ネコがすっごく楽しそうに笑いながら言ってくる。コイツ、絶対おちょくってる……。


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