第三十五話 インコ(異世界Ver)
二人と別れた僕達はしばらく森を進んだ後、一度昼食をとり再び鳥探しを行っていた。ちなみに、昼食は僕とトーニャの希望通りサンドウィッチだったが、トーニャはトリモドキのせいで食欲がなかったらしく、昼食を食べずに別れることになってしまった。
「リオ様、あの鳥なんかいいんじゃないですかー?」
エレナがそう言って指さした先にはインコの様な小さな鳥が近くの木に留まっていた。羽根は綺麗な赤色をしている。
「あれは?」
「マネドリという名の鳥です。危険が迫ると自分が住んでいるところで一番強い生き物の鳴き声を真似て敵を追い返すんですよー」
「へー、賢いんだね」
異世界のインコって感じかな? 色々役に立ちそうだしあの鳥にしよう。可愛いしね。
「エレナ、あの鳥にしよう」
「わかりましたー。網を使ったら逃げられない代わりに警戒されますけど、どうしますかー?」
「ここから呼びかけてみるよ。話は通じるんだよね?」
生物と契約する場合、その際に何らかの対価を決めておくのが一般的だ。対価なしで強制的に従わせる方法もあるらしいが、その場合は召喚時に召喚対象が協力してくれないため、召喚の難易度や必要な魔力が跳ね上がってしまうそうだ。なので、普通の召喚魔術師は召喚対象とはできるだけ良い関係を作ろうとする。一応、網は用意しているが無理やり契約するつもりはない。あくまでも、話をできる状況にするためのものだ。
「おーい、そこの赤い羽根のマネドリさん!」
僕が大きな声で呼びかけるとマネドリは一瞬ビクッと反応した後、キョロキョロと辺りを見渡してから「自分のこと?」とでも言いたげに首を傾げてこちらを見つめてくる。何だか人間臭い反応する鳥だな……。
「僕と召喚魔術の契約をしてくれないかな?」
僕がそう言うと、マネドリはこちらの方にパタパタと飛んできて僕の肩に留まった。
「いいの?」
「ぴー!」
僕の言葉にマネドリは可愛らしく鳴いて返事をする。何だかあっさり承諾してくれて拍子抜けだ。まだ、対価の話とかしてないけどいいのかな?
「それじゃあ、君が呼び出しに応じてくれるたびに何か食べ物をあげるよ。今日は契約してれるお礼にこれをあげる」
「ぴ!」
僕は懐から包みを取り出して、中に入っていた赤い木の実をマネドリに差し出した。マネドリは嬉しそうな声を上げてそれを啄ばむ。この木の実は出発前にノアに渡されたものなんだけど、鳥が好む木の実で契約の役に立つからと渡されたものだ。
「上手くいったみたいですねー。私が聞いてた話だともっと大変そうな感じだったんですけどねー」
「そうなの? まあ、僕もあっさり行き過ぎて驚いているけど」
「普通は話をすることすら大変みたいですよー?」
確かにこのマネドリは意外なほど警戒せずに近寄ってきた。この子、ちゃんと野生で生きていけるんだろうか?
「ぴ?」
僕の視線を受けてマネドリが首を傾げる。可愛い。
「それじゃあ、早速契約してもらってもいいかな?」
「ぴー!」
僕の言葉を聞いたマネドリは元気よく鳴くと、自分の羽根をクチバシ引き抜いて差し出してきた。これを使えということらしい。魔力の交換は血液の交換以外にもいろいろあるが、これは互いの体の一部を渡すという方法だ。体の一部というと怖い感じもするが、渡すのは髪の毛一本でも構わない。
僕はマネドリの羽根を受け取り、代わりに自分の髪の毛を引きぬいてマネドリの足に結んであげた。これで契約の半分が終わった、あとは呪文を決めるだけだ。
「それじゃあ、契約の呪文を決めようか。君って名前はある?」
「ぴー!」
どうやらあるらしい。なかったら僕が名付ければいいんだけど、既にあるのならその名前を呪文に使わなければならない。アレ? 僕の方は言葉がわからないのにどうやって名前を知ればいいんだろう……?
僕が困っていると、マネドリは近くの木へと飛び立ち、一枚の葉っぱを持って帰ってきた。
「これはルーイの木の葉っぱですねー」
マネドリの持ってきた葉っぱを見たエレナが教えてくれる。もしかして、この葉っぱが名前と関係あるのんだろうか?
「君の名前はルーイっていうの?」
「ぴー!」
マネドリ……ルーイは僕の言葉を肯定するように鳴いた。
「そっか、それじゃあルーイを召喚するための呪文を唱えるから聞いててね」
「ぴー」
だが、ここまでずっと僕の言葉を聞いてくれていたルーイが初めて否定するよう鳴き、首を横に振った。
「どうしたの?」
「ぴー!」
僕の問いかけに対して、ルーイは自分と同じ名前の葉っぱを僕の手にぐいぐいと押しつけることで答えた。
「もしかして、呪文を唱えなくても名前を呼んだら来てくれるってこと?」
「ぴー!」
ルーイが肯定するように頷く。それだと無詠唱ってことになるけど大丈夫なのかな? いや、召喚される本人がいいって言うのならたぶん問題ないだろう。
「わかった。ありがとう、ルーイ。君の力が必要になったら名前を呼ぶよ」
「ぴー!」
僕の言葉にルーイは力強く鳴いた。




