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第三十話 ネコ(異世界Ver)

評価、ブクマを付けてくださった皆さん、本当にありがとうございます!お陰さまで日間にもう一度載ることができました。できるだけ維持できるように頑張ります。

 早朝、ボーティス家の屋敷前には一台の馬車と数人の人影があった。魔力試験から一週間が過ぎ、叔父が帰ることになったのでその見送りをしているのだ。

 やはり、トーニャも寂しいのだろう。出発前の叔父に抱きついている。


「トーニャ、私はそろそろ出発する。お前が立派な魔術師になるのを応援しているよ」

「……うん」

 

 叔父の言葉に、トーニャは名残惜しそうに離れる。その様子を見て微笑みながら、叔父は両親の方を向いた。


「ロベルト、トーニャのことを頼む。リーシアさんもよろしくお願いします」

「任せてください、兄さん。トーニャちゃんは責任を持って僕たちがお預かりします」

「お義兄様、トーニャちゃんはとてもいい子だから大丈夫ですよ。私も娘が二人になったみたいで嬉しいわ」


 母様ー? 僕は息子ですよー? 叔父は両親の言葉に頭を下げ、今度は僕とノアの方を向く。


「リオ君、トーニャは君によく懐いているようだ。どうか仲良くしてやって欲しい」

「父様、私が懐いてるんじゃないわ! リオが私に懐いているのよ!」

「任せてください、叔父様」


 トーニャが割り込んでくるが、僕は相手にせず叔父に返答する。


「聞きなさいよ!」

「はいはい、僕はトーニャ姉様に懐いてるよ」

「知ってたわ」

「どうせならもっと喜んでよ……」

  

 途中から叔父を忘れてトーニャとばかり話してしまったが、叔父はそんな僕達を笑顔で眺めていた。

 叔父はノアとエレナにも声をかけた。


「ノアさんとエレナさんも、トーニャのことをよろしくお願いします」


 それを聞いたトーニャとエレナは静かに一礼し、叔父は満足そうに頷いた。叔父も二人の実力は知っている筈なので安心したのだろう。

 最後にトーニャの頭を撫でると、叔父は馬車に乗り込み、去っていった。




 叔父を見送るトーニャは、涙こそ流してないが寂しげだ。


「やっぱり寂しい?」

「……別に平気よ。私はリオのお姉ちゃんだし。それにお父様は手紙を送ってくれるって言ってたわ!」

「手紙か、早く来るといいね」


 トーニャの実家はここから馬車で二日程の所にあるらしい。手紙くらいならすぐにでも届くだろう。


「私の荷物を送ってくれることになっているから、一通目はお父様が家に着いたらすぐにでも送ってくれることになってるわ」

「ああ、しばらくこの家に住むなら服とか日用品は必要だもんね」


 トーニャは小さいとはいえ女の子だ。色々と必要なものは多いだろう。


「ええ、リオへのプレゼントもあるから楽しみにしててね!」

「プレゼント?」

「あ、これは内緒だってリーシア様と約束してたんだった。リオ、聞かなかったことにしてね?」


 プレゼント、母、送られてくるのはトーニャの私物……。いったい何をもらえるんだろうなー。何故かとても気分が重いなー。絶望的な未来が容易に想像できたが、一応思い過ごしであることを祈っておこう……。




 叔父を見送り、皆で朝食を食べた後は今日もノアによる魔術の授業が始まる。


「今日のリオ様の課題は生物との契約です。折角ですからリオ様の好みで契約する生物を決めましょう。リオ様、何がいいですか?」


 授業が始まってすぐ、そうノアに聞かれた僕は悩む。好きな生物かー、猫とかいいな。可愛いし。


「ネコがいい」

「「「え!?」」」


 僕がそう言った途端、その場にいたノア、エレナ、トーニャが驚いた顔で僕を見る。なんで?


「……リオ様、さすがにネコは危険すぎます。そもそもあれはドラゴンと並ぶ最高位の魔獣です。いくらリオ様でも今の段階で契約するのは不可能です」


 ……どうやら異世界のネコは僕の知っているものとは全くの別物の様だ。でも、ちゃんと動物図鑑に載ってたんだけど……。


「……ネコってどんな生き物なの? この動物図鑑に載ってたのは可愛い生き物だったんだけど……」


 そう言って僕は本棚にある図鑑を持ってきて、そこに載っているネコを指さす。


「ああ、なるほど。そういうことでしたか」


 それを見たノアは納得したようにうなずく。


「あれは百年以上前に書かれた本ですよー。あの図鑑に載っているネコは魔力を暴走させて魔獣になる前の動物ですねー。元の数が少なかったこともあってもう絶滅してますよ?」

「絶滅?」


 何と異世界のにゃんこ達は既に絶滅していたらしい。エレナの言葉に訊き返すと、今度はノアが口を開く。


「はい。今ではネコといえば魔獣しかいません。強靭な脚は高いジャンプ力を誇り、気配や匂いにも敏感で警戒心も強く、周囲の生き物が近寄るとすぐに気付きます。そして、可愛い声でニャーと鳴くのです」


 ただのネコじゃないか。


「肉体的には普通の動物と変わらないのですが、ネコは上級属性魔術、上級召喚魔術、上級治癒魔術を使いこなし、個体によっては特殊魔術や特級レベルの魔術を使うモノもいます。魔力も人間の魔術師より遥かに多いので上級魔術師であっても一人で勝つことは難しいでしょう……」


 ……全然ただのネコじゃなかった。上級魔術を使える魔術師はイレイシア王国でもそれほど多くは存在しない。もっと問題なのは特級魔術を使う個体だ。話に聞く特級魔術のすごさが本当なら、それ一匹で小国を滅ぼせる可能性すらある。


「……ネコは止めておくよ」

「リオ、諦める必要はないわ! 私達はさいきょーの魔術師を目指すんだもの! リオならいつか契約できる様になるわよ!」

「……頑張るよ」


 そんな危ない生き物とはあまり契約したくないけど……。

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