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第二話 エレナVS新米騎士団員

 エレナに抱かれたまま、庭へとやってきた。僕が本邸の外に出るのはこれが初めてだ。この庭は普段僕が生活している本館とは離れたところにあるため、今日初めて目にすることとなった。窓から見えていた木や池がある庭とは違い、庭というよりも学校の運動場のような場所だった。

 エレナによると、ここは修練場と呼ばれる場所らしい。そこで十人ほどの騎士のような甲冑を着た男たちが素振りをしていた。……コスプレ?


「すみませーん。ちょっといいですかー?」

 

 エレナの呼びかけによって四十代くらいの男性がこちらにやってきた。騎士のコスプレをしている人たちの中でも、ひときわ立派な装飾の鎧を着ている。


「やあ、エレナちゃん。どうしたんだい? おや、こちらの方はもしかして……」

「はい、リオ様ですよー。どうしても私のカッコいいところが見たいっていうのでお連れしましたー」


 僕はそんなこと言ってないよー。


「はじめまして、リオ様。私はボーティス家騎士団団長のライナーと申します。以後お見知りおきを」


 男性はこちらに向かって、ニコニコとほほ笑みながら挨拶をする。なんだか穏やかそうな人だ。

 彼の話によると騎士団の者たちは屋敷の敷地内にある騎士団専用の宿舎に寝泊まりしているので、普段僕が暮らしている本館に来ることはあまりないらしい。そのため、これまで僕と会うことがなかったようだ。

 ……とりあえずコスプレではなく本当の騎士団だということはわかった。


「それで、エレナちゃんはどうするんだい? 模擬戦でもやってみるかい?」

「いいですねー。相手は団長ですか?」

「ああ、かまわない――――――」

「団長ォ! そんなメイド相手に戦うなんて正気かよ!?」

 

 エレナの頼みを騎士団長が快諾しようとしたとき、若い男の怒声が割り込んできた。そちらを見ると騎士の姿をした十代半ばくらいの少年がこちらを睨んでいた。


「ここは女子供の来るとこじゃねぇ! 消えろ!」


 えー。


「なんか出ましたね。ライナーさん、なんですかコレ? リオ様に対して失礼ですよ」


 エレナが若干苛ついたような表情で騎士団長に尋ねる。


「最近、騎士団に入った子だよ。……丁度いいからエレナちゃんの模擬戦の相手は彼にしよう」


 騎士団長が少し思案した様子の後でそう言う。すると、少年が噛みついてきた。


「はぁ!? 何で俺がコイツと……」

「団長命令だよ、早く用意してね」

 

 穏やかな表情で騎士団長が彼に告げる。すると、少年は一瞬ビクッとした後不承不承な様子で修練場の奥の空いているスペースへと向かう。この優しそうな騎士団長でも怒ると怖いのだろうか?


「それじゃあエレナちゃん、申し訳ないけどよろしく頼むよ。リオ様は僕が預かろう」

「仕方ないですねー。リオ様、ちょっとあの失礼なガキ泣かしてくるので見ててください!」

 

 そう言って、騎士団長に抱いていた僕を渡そうとする。だが、僕はそれに抵抗する。


「どうしたんですかー、リオ様? あ、団長に抱かれるのが嫌なんですかー? ほら、加齢臭とか」

 

 その言葉に騎士団長がショックを受けたような顔をする。違うよ? 別に臭わないから安心してね?


「えれなしんぱい」


 僕がそう言うとエレナが嬉しそうな顔をする。


「ふふふー、安心してくださいリオ様! こう見えても私は戦えるメイドさんなのです!」

 

 いや、大剣背負ってるからパッと見はそんな感じなんだけど。その剣をエレナが振り回せるとはとても思えない。


「大丈夫ですよ、リオ様。彼女はこう見えても上級魔装師です。下級の彼が戦っても泣かされるだけです」


 騎士団長がそう言って僕を安心させようとする。何が上級なのかはわからないけど、騎士団長がそう言うのなら本当に大丈夫なのだろう。二人の中ではあの少年を泣かすのはすでに決まったことみたいだし。


「むりしないでね?」


 僕の言葉にエレナは笑顔でうなずく。


「はい! リオ様はそこで私のカッコいいところを見ててくださいねー。……リオ様を守る私の力、お見せしましょう」

 

 最後の言葉だけは真顔で言って、エレナは少年の元へと向かう。何だかカッコいい。




 修練場の奥、練習を一時中断した騎士たちが見守る中でエレナと少年が対峙して剣を構える。模擬戦なので一応木製の剣を使用するようなのだが、何故かエレナは大剣を背負ったままだ。下ろそうよ……。


「てめぇ、背中のそれはなんだ! さっさと置いてこい!」

「面倒なのでいいです。どうせすぐに終わりますし」


 少年の額に青筋が浮く。なるほど、手間を省くことができる上に挑発までできるんだ。一石二鳥だね?


「はい。それじゃあ、エレナちゃんの準備もいいようだしそろそろ始めるよ。二人とも構えなさい」


 団長の言葉に二人が木剣を構える。いや、構えたのは少年だけでエレナは自然体のままだ。ただ単に、右手に木剣を持っているだけのように見える。その様子に少年がまた何か言いかけるが、それよりも騎士団長の声が早かった。


「では、これより模擬戦を開始する。始めッ!!」




 先に動いたのは少年だった。開始と同時にエレナに向かって走り、そのままの勢いでエレナの右手にある木剣を弾き飛ばそうと剣を振る。

 しかし、向かってきた木剣をエレナは左手でガシッと掴む。そして、自身の木剣をポイッと捨てるとそのまま少年の顔を右手で掴んだ。……えー。

 少年はエレナの手を外そうと、木剣を手放して両手でエレナの右手を掴むがビクともしない。

 やがて少年の抵抗が少なくなり、エレナの右手によって隠された彼の目元から何か光るものが零れ落ちる。ああ……。

 それを確認したエレナはとても満足そうな顔で一つ頷くと、審判である騎士団長に視線を向ける。すると、騎士団長も笑顔でそれを受け入れた。


「はい、そこまで。勝者、エレナちゃん!」

 

 その宣言と同時にエレナは右手を離し、少年は崩れ落ちて自身の涙で地面を濡らす。騎士達からは歓声が上がった。


「さすがはエレナさん! 相変わらず素晴らしい魔装だ!」

「あいつもバカだよなー、よりによってエレナさんに喧嘩を売るなんて」

「当主のご子息であるリオ様を軽んじたんだ、あいつにはいい薬だよ。これを機に心を入れ替えればいいんだが……」

「いやー、次があったらさすがに団長が……。恐ろしい……」

 

 どうやら、この結果は騎士団の者たちにとっては当然のことらしい。しばらくすると、一仕事終えて満足げな様子のエレナが戻ってきた。


「リオ様ー! 見ててくれましたかー? カッコよかったですかー? 惚れちゃいましたかー?」


 宣言通りに少年を泣かすことができたからだろうか、テンションが高い。しかし、木剣とはいえ素手で受け止めて大丈夫なのだろうか? エレナの強さには驚いたが、彼女の手が心配だ。


「えれな、てー」

 

 彼女の手が無事がどうかを確認するために手を見せるよう促すと、何を勘違いしたのかこちらの手と握手してブンブンと振り回す。まあ、怪我はなさそうだね。


「だいじょうぶ?」

「大丈夫ですよー。ちゃんと魔力でガードしてますから!」

 

 一応確認する僕にエレナは笑顔で答えた。……まりょく?

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