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第十九話 魔力操作試験開始

 僕たちが病院の外に出ると、近くに魔力試験の会場が見えた。どうやら、この病院は魔力試験の行なわれている広場のすぐ隣にあるらしい。恐らくアクシデントがあったときに備えてここを会場に選んだのだろう。そして、実際に役立ったわけだ。

 ノアと分かれて受験者達の待機するスペースへと向かっていると、その途中でエレナと遭遇した。


「リオ様! もう大丈夫なんですか?」

「もう平気だよ。このまま試験を受けるつもり」


 僕の返事を聞いてエレナはホッとしているようだ。彼女も本当は病院に行きたかったそうだが、トーニャもいるのでそういう訳にはいかなかったらしい。トーニャは別に構わないと言ったそうだが、父とノアもついているのでこちらに残ったのだ。


「それにしてもすごい光でしたねー。しかもボーティス家にとって念願の召喚魔術ですよー」

「僕はリオン以上の召喚魔術師になるつもりだから期待してて」


 僕がそう言って胸を張るとエレナは微笑ましいものを見るように笑った。


「もちろん期待してますよー。なんたってエレナのご主人様ですからねー。魔力操作試験、頑張ってくださいね」

「うん、できれば合格するように頑張るよ」


 その場で二人と分かれ、僕は待機場所へと向かった。




 待機場所に向かうと試験の係員をしているお姉さんがいたので事情を話した。係員の人もステージで起きたことは知っていたようですぐに通してくれた。名前を呼ばれたらステージに上がるよう言われ、待機場所に入る。

 待機場所にはまだたくさんの子供がいた。エレナと一緒にいなかったということは、トーニャはまだここにいるはずだ。そう思って周囲を見回していると僕に気付いたトーニャがこちらに駆け寄ってきた。

 

「リオ! もう平気なの?」


 彼女もエレナと同じように僕を心配してくれていたようだ。


「うん、もう平気だよ。魔力試験も続けていいみたい」


 僕の言葉にトーニャが嬉しそうな顔をする。


「ホントっ!? それじゃあ二人とも合格すれば一緒に王立魔術学院に通えるわね!」

「僕が合格できればね。一発合格は難しいと思うけど」


 それにしても、父もトーニャも王立魔術学院の名前しか出さないな。僕が行くことも半ば決まっているようだ。その方が魔術の腕は上がると思うので文句はないが、名門とか聞くと怖気づいてしまう。僕が前世で通っていたのは普通の学校だったし。


「何言ってるのよ! リオなら絶対合格できるわよ! なんたって英雄リオン以来初のボーティス家の召喚魔術師なんだから!」


 トーニャがキラキラした目でそう言う。……父が不安になる気持ちがわかった気がする。

「……そうだね。トーニャ姉様も頑張ってね」

「もちろんよ!」


 トーニャの純粋なまなざしに耐え切れず、僕はそう言ってお茶を濁した。




「トーニャ・ボーティスさん、ステージに上がってください」


 トーニャにせがまれて適性試験のときのことを話していると、先程の係員がやってきてトーニャを呼んだ。


「いよいよきたわね! リオ、お姉ちゃんの雄姿を見てなさい!」


 トーニャは鼻息荒くそう言うとステージに向かった。この待機場所からもステージはよく見える。ステージに上がったトーニャが僕を見つけてブンブンと手を振っているのが見えたので僕も手を振り返した。観衆達はその様子を微笑ましそうに見ている。既に主賓席に戻っている父がその様子を笑いながら見ているけどいいのだろうか?

 そして、トーニャの魔力試験が始まった。トーニャはステージの中央で試験官と向き合う。試験官はトーニャの頭へと手のひらを向けた。

 そのとき、トーニャの全身から黒い靄の様なものが出てきた。どうやら、あれが魔力らしい。トーニャは真剣な表情でその靄を制御しようとしている。

 あの黒い靄に見覚えがある。僕と契約した黒い少女の全身を覆っていたものに非常に似ているのだ。もっとも、あの少女を覆っていた靄はトーニャのものに比べて色が濃く、その量も多かったが。

 あの少女の正体を隠している黒い靄は魔力なのだろうか? だが、本来魔力というのは見えないものだ。

 実はこの会場には魔力を可視化させる魔道具があり、そのお陰で今は見えている。これは、魔力を視認できるようにしないと観衆には何が起こっているのかわかりにくいかららしい。

 確かに、魔力が見えなければ、ステージでトーニャがうんうん唸っているようにしか見えないだろう。……ステージで真剣な表情で何もせず唸っている幼女と、それを見守る観衆達というのはあまりにもシュールな光景だ。

 とにかく、魔力というのは本来見えないものだ。魔術師、魔装師としての力量が上がれば自然と感じられるようになるそうだが、決して見えるようになる訳ではない。 

 それなら、あの少女の魔力は何故見えたのだろうか? 彼女が顔を隠すために魔力を可視化させていたのか、それともあの空間が特別なのだろうか。

 ……駄目だ、情報が少なすぎて判断できない。それに、あの黒い靄が魔力ではない可能性もある。見た目が似ているだけの全く違う何かなのかもしれない。

 僕がそんなことを考えながらステージを見ていると、トーニャの周りの黒い靄が動き出した。靄はゆっくりとトーニャの身体の中に入っていく。その様子を僕は周囲の観衆達と共に固唾を飲んで見守る。

 やがて、靄は完全にトーニャの身体へと消えた。そして、試験官がトーニャの魔力試験合格を言い渡したのだった。




「リオ、やったわ! 私合格したのよ!」


 試験を終えたトーニャは待機場所へと戻って来ると大喜びで言った。試験を終えた者は本来ここには戻ってこないのだが、トーニャは何故かこっちに来ていた。まあ、係員のおねえさんもこちらを見て笑っているので問題はないのだろう。


「おめでとう、トーニャ姉様。これで魔術学院に行けるね」

「リオも合格しなさいよ! それで一緒に学院に通うのよ!」


 トーニャはそう言うが、初試験での合格率がどのくらい低いか知っているのだろうか。確か、数年に一人とかノアが言っていた気がする。


「いい? 絶対合格するのよ!」


 トーニャはもう一度そう言った後、待機場所へと迎えに来たノアとエレナに連れられて出て行った。




「リオ・ボーティスさん、ステージに上がってください。」


 トーニャが出て行ってから一時間ほど経った頃だろうか。僕は係員のお姉さんに名前を呼ばれた。いよいよ僕の番が来たようだ。

 僕は待機場所を出てステージへと上がった。すると、会場中から大きな歓声が沸き上がった。え、何これ。他の子のときはもっと静かだったはずだ。

 僕が戸惑っていると試験官が話しかけてきた。適性試験を受けたときと同じ、二十歳くらいの青年だ。


「驚いているようですね。でも、英雄リオン以来の召喚魔術師がボーティス家に誕生したんです。ボーティス領の民である彼らが君に期待するのも当然ですよ」


 試験官がそう説明してくれた。……正直、ここまで反応が大きいとは思っていなかった。英雄リオンの名は僕が思っていたよりも遥かに大きかったらしい。

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