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第十二話 試験勉強?

 イレイシア王国は大陸の最南端に存在する強国だ。その領土は広大で、優秀な魔術師、魔装師が数多く存在するため非常に高い軍事力を持っている。だが、現在の国王は国内の発展に力を入れており、大陸全土も現在は非常に安定しているため、長らく戦争などは起こっていない。

 しかし、いくら平和だといっても魔術師、魔装師の需要が少なくなることはない。魔獣に襲われる危険は常に存在し、街の外に出れば盗賊なども出現する。また、戦闘以外の面でも魔術師、魔装師の能力はあらゆる場面で使用される。魔術師、魔装師以外の国民もその能力に差はあれど日常的に魔力を活用している。

 そのため、魔術師、魔装師の適性を判断する魔力試験は非常に重要な行事だ。年に一度、イレイシア王国のあらゆる場所で同時期に行われる。

 ボーティス伯爵領はイレイシア王国の中でも最も南に位置し、領地の一部は大陸を取り囲む海に面している。僕の住んでいる屋敷も、海から馬車で半日ほどの位置にあるハイアという街にある。そして、魔力試験はこのハイアでも行われることになっている。

 今回、叔父が屋敷にやってきたのはこの魔力試験の準備のためらしい。また、数日後にやって来るという彼の娘も魔力試験を受けることが目的だ。もちろん、先日三歳になった僕も魔力試験に参加することになっている。

 屋敷の者たちは僕の魔力試験の結果を楽しみにしているようだ。結果と言っても、僕は魔力量が多いので合格すること自体はあまり期待されていない。まだ試験の前だというのに、自分は何回落ちただとか口々に言ってきて、一発合格の難しさを語ってくる。恐らく、僕が落ちてもショックを受けないようにと気遣ってくれているのだろう。

 彼らが期待しているのは僕の魔術適性だ。アンが懐いたことから、僕には召喚魔術か特殊魔術の適性がある可能性が高い。そのため、僕に召喚魔術の適性があることを期待しているのだ。

 英雄リオン・ボーティスの話はとても有名だ。ボーティス家にとって、英雄リオンは誇りであると同時に越えなければならない壁でもある。彼らは自身の仕える家に再び英雄が誕生することを待ち望んでいるのだ。そうすれば未だにわずかだが存在する、英雄リオンの呪いという声もなくなると信じて……。




「魔力試験って具体的には何をやるの?」


 魔力試験の三日前、僕はノアに質問してみた。以前のノアの口ぶりでは、事前に情報を知っていてもあまり結果に影響はないようだが、気になったので訊いてみた。


「以前も少し話しましたが、魔力試験では二つの試験を行います。一つは魔力適性試験、この試験では自身の魔力適性がわかります。内容としては適性ごとに用意されている魔道具に触れるだけです」

「それだけなの?」

「はい、適性を持つものが魔道具に触れると光を放ちます。ただ、特殊魔術の場合はその内容まではわからないので自分で調べなければなりません」

「自分で調べるっていうのは?」

「特殊魔術は一応一括りにされてはいますが、それは種類が多すぎて把握できないからです。同じ特殊魔術という括りであっても内容は別物なので、まずはどういった特殊魔術なのかを調べなければなりません。専用の魔道具もありますが、その魔道具が非常に貴重なのでほとんどの人は自分で色々試してみて調べます」

「大変そうだね」


 僕も特殊魔術の適性がある確率は結構高いから人事じゃないな。


「リオ様が使える可能性が高い特殊魔術もありますよ」

「え、どんな魔術?」

「ボーティス家に伝わる特殊魔術で何種類かありますが、一番有用な物は魔眼ですね」


「魔眼!?」


 なにそれカッコいい!


「はい、属性魔術師にとってとても有用な魔眼です。ボーティスの魔眼と呼ばれ、使い手はは全員が優秀な属性魔術師です。旦那様も使えるはずですよ」


 父様のくせにそんなカッコいいものを持っているなんて。やっぱり魔術師としてはすごいんだな、あの人。親馬鹿のせいで台無しだけど。というか、やっぱり召喚魔術とかいらない気がする。


「二つ目の試験は?」

「もう一つは魔力操作試験です。試験官によって魔力を強制的に引き出されるので、それをコントロールできれば合格です」

「危なそうな試験だね。以前言ってた魔力の暴走とかは大丈夫なの?」


 この世界ではそれを恐れて赤ん坊を一年間隔離するはずだ。僕は二年だったけど。


「ええ、ちゃんと試験官がついているので問題ありません。暴走の兆候があったら、彼らがすぐに対処しますから」


 なるほど。


「この試験は合格するのは難しいんだよね?」

「はい、この試験は魔力を扱うセンスが問われますから。年齢が上がれば自然と習得できる技術ですが、どれだけ早くできるようになるかは才能次第です。ですが、魔力量によってはその難易度が格段に上がります」

「僕は魔力量が多いからとくに難しそうなんだよね?」


 僕がそう尋ねると、ノアは少し考え込んだ。


「ノアもそう思っていたんですけど・・・。リオ様は大丈夫かもしれません」

「どうして?前は難しいっていってたと思うけど。」


 才能がないって言われたと勘違いしてショックを受けた覚えがある。


「アンはこの一年で大きくなりましたよね」


 そう言われて、傍にいたアンに視線を向ける。確かにアンは大きくなった。現在では直径一メートルくらいある。初めて会ったときの五倍だ。でも相変わらず可愛い。


「アンが関係あるの?」

「アンがここまで大きくなったのは、恐らくリオ様が無意識に魔力を与えていたからです。普通に漏れ出る魔力だけではここまで成長しません」

「そうなの?」

「はい、ノアが魔力をあげようとしてもあまり吸わなかったので、リオ様の魔力ばかり吸って成長しているはずですし」

「そんなことしてたんだ」

「ええ、吸ってくれなくて残念です」


 ノアが少し悲しそうな顔をする。確かに、ペットに食べ物をあげたのに拒否されるのはちょっと悲しい。


「それじゃあ、僕はもう魔力のコントロールができてるってこと?」

「そこまでは断言できませんが、遅くても六歳になる頃には合格できると思いますよ」


 つまり、普通の子供と同じくらいということか。さすがに十歳まで試験を受け続けるのは嫌だったので少し安心した。

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