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一般ファンタジー小説

パ音の世界

作者: 藍上央理

「パ音の世界」 妹の死



 わたしの世界には音の工房がある。

 私自身は色の工房に属しているが、妹は音の工房で日々働いている。

 その妹が、居なくなった。

 里帰りをすると言って、工房を出たきり、そのまま行方知れずになってしまった。

 わたしと家族は思い当たる場所を探したが、結局、見つからずじまいだった。

 妹はピ音の調律をする職人だ。

 上位の音であるパ音までの段階を作るのだ。ピ音まで表現できる妹はある意味天才であった。上位音を表現することで、上位の世界との交信が可能になるのだ。

 わたしはまだそこまでの体感を経験したことがない。

 この世にはパピプペポに属する音が存在する。我々はペ音の住人である。

 ポ音の世界は可視化することが可能だが、ペ音より上位の世界を見ることは出来ない。

 調律は魂をその世界に導く。

 才能ある職人はみな上位の世界を垣間見たことがあるだろう。

 肉眼ではない。それは感覚器で〈視る〉のではなく、感じるに近いだろう。

 いつか、妹に聞いたことがある。

 上位の世界の住人は我々よりも巨大な体をしており、この世界すべてを認識している。

 それはまるで、ポ音の住人を認識するかのごとくであるという。

 結局、妹は発見されるのだが、生きてはいなかった。

 実家の屋上に、あらゆるところから死角になる一角がある。

 そこで生き絶え、骨になっていた。

 なぜ妹の存在に気付いたかというと、見事なパ音が鳴り響き、我々家族は慌ててその所在を探したのだ。

 腐敗していく臭気は分からなかった。もともと実家のある地域は食べ物が腐敗する匂いに満ちているからだ。

 調べた結果、おそらく、妹は酩酊するシロップを飲み、呼吸器官を紐で縛り、屋上の段差になった高い突起にその紐の端を結びつけて、ぶら下がったのだろう。

 いったいなぜ妹が自ら命をたったのか、それは分からない。

 ただ、存在を示すパ音だけが、妹の心情を知っているのかも知れない。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 「パ音の世界」、面白かったです。 「妹」さんはピ音まで表現できる「ある意味天才」の調律師だったんですね。 >上位音を表現することで、上位の世界との交信が可能になるのだ。 >ポ…
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