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今日は少し短めです。
「決めた!」
銀のもふもふに寄りかかっていた美月は急に身体を起こした。
驚いたのか、目は閉じたままだが、彼の耳がピクピクと左右に動いている。
美月はそんな様子を気にすることなく、草の上で正座して、銀の獣にビシッと人差し指を突きつけた。
「あなたに名前をつけてあげる」
先ほどまで、しんみりと自分の過去を語っていた少女の姿はもうない。
彼女の勢いに、流石に心穏やかにはいられなかったのか、ゆったりと瞼をあげる。
「さっきまでの殊勝な態度はどこいった、と思っているでしょ」
何故だか、勝ち誇った感がある。
獣の彼も納得できないのか、胡散臭そうな視線を向けた。
「だって、しょうがないじゃない!」
頬を膨らませて俯く姿は、年齢より幼い。
「もう、喪うものないんだもの…この世界に来た理由もきっかけも、記憶がぐちゃぐちゃでわからないけど、喪うものがないなら、手にいれていくしかないじゃない。大事なものを一つずつ」
鼻を啜る音だけが聞こえる。
「だから!」
勢いよきく顔を上げて、高らかに宣言する。
「あなたに名前をつけてあげる!!そうしたら、私はあなたの特別でしょ!?」
両手で銀の虎の頭を掴んで、無理やり自分に向ける。蕩けた蜂蜜のような金色の瞳を覗きこむ。
映っているのは、不細工な笑い顔。
思わず口が尖る。
「ずるいなぁ、きれいな澄んだ目で見ないでよぉ」
わしゃわしゃと掴んだ頭をなで回す。
綺麗な毛の流れが乱れて、くしゃくしゃになった。笑っちゃう。
「あなたの名前は、今日からジンガーよ!ジンガー!聖なるって言葉と銀って言葉を足してみたのよ。カッコいいでしょ?」
美月にされるがままだった獣は、金色の瞳を極限まで見開いて固まった。
「拒否権なしだからね」
ジンガーの鼻先に自分の鼻を擦り付けた。親愛の情を表すように。
そんな二人(一人と一頭)を、青空を渡っていく鳥たちだけが見ていた。
いやぁ、やっともふもふの名前(仮称)がでてきました(笑)