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勢いに乗ってアップしちゃいます。
といっても、日付は変わってますが。
スマホで投稿のため、変な文字が割り込んでいる可能があります。見つけた場合はお知らせください。
誰にでも平等に朝はやって来る。
望まなくても。
ただし、美月が迎えた朝はいつもと異なったものだった。
重いまぶたを開けたときに飛び込んできたのは幾つもの瞳、瞳、瞳。
好奇心の光を帯びた無数の瞳が美月の顔を覗きこんでいる。大半は無邪気そうな子どもの瞳だった。
誰?
口は開くが、声にならなかった。
思ったより、長く寝ていたようだ。喉が渇いて、唇が乾燥している。
「はい」
小さな手に包まれた器が美月に差し出された。
上体を起こすと、差し出された器と小さな手の持ち主を見比べた。
どうして…
全く覚えのない顔ぶれが並んでいる。
「飲んで」
押し付けられた器を思わず、受け取ってしまった。
「あたし、タダ!」
タダと名乗った子どもは、にたりと笑った。色黒な肌の中に真珠のような輝きをもった歯が浮き上がる。
何よりも美月の視線と言葉を奪ったのは、その子どもの髪の色だった。
日本では、いや、地球では見ることはないだろう水色の髪。決して人工的な色ではない。
周りを見渡せば、同じように様々な色の髪をもつ子どもたち。
「あなた、誰?どうして倒れてたの?」
ぼんやりと見つめる美月をよそに、タダは興奮した様子でまくし立てた。
「ねえ、どうして髪と目が黒いの?」
「「タダ!」」
一斉に声が反響する。
美月は手にした器に目を落とした。
器に湛えられているのは、水だと、思われる。
多分?
見慣れた透明度はないが、恐る恐る口を近づけた。癖のある匂いがするが、目をつぶった。
生ぬるいものが、喉を過ぎていく。
「あっ…」
少し掠れてはいるが、確かに音がでた。
「ここは、ど、どこ?」
美月の言葉に子どもたちはお互いの顔を見合わせた。伝わらなかったのかと、もう一度、言葉を発しようとするが、興奮して騒ぎはじめた子どもたちに閉口する。
「お母さ~ん」
「お姉ちゃん、起きたよ!!」
「ここ、どこだって?」
それぞれが好き放題に発言する。
あまりの騒々しさに、目を丸くする。祖父との静かな暮らしが長かったため、驚きを禁じ得ない。
おじいちゃん…
思い出したら、胸が痛んだ。
「あらあらあら…騒がしいね、あんたたち。ほら、でておいき」
子どもたちの母親だろうと思われる女性が、大きなエプロンで手をふきながら、顔を見せた。
タダと同じ水色の髪をしている。温かな琥珀色の瞳は優しそうに眦を下げている。
女性はテナと名乗った。
予想通り、タダとその上の三つ子の母親だった。
テナの話は美月に衝撃を与えた。
美月は家や家族を失っただけではなかった。生まれ育った世界からも引き離されたのだ。
「泣いていいのよ」
美月は虚ろな瞳をテナに向けた。
「一人でよく頑張ったわね。もう、我慢しなくていいのよ」
柔らかい手が、美月の真っ直ぐな黒髪をゆっくりと撫でる。
その声が、慈しむ目が、優しい手が、美月の心の奥底にあった澱を溶かし、感情を突き上げさせた。
まるで獣のように雄叫びをあげ、泣きすさんだ。
「全て出してしまいなさい。そして、空っぽになったら、顔を上げて、前に進むのよ…」
優しく宥めてくれるテナからは美月が忘れていた母の香りがした。
ここから、美月の異界ライフです。