喚ばれしモノ
とりあえず、この話でプロローグ的な部分が終了します。
地下迷宮での成り上がりモンスターライフを期待していた読者の方はごめんなさい。
尚、今話から多大な厨二成分を含みます。
結局、ミミックは進化しなかった。
進化の選択条件の中に「進化を~回キャンセルする。」というものがあったということは、おそらくキャンセルし続けることで選択肢が増えるだろう…と、いうのはまぁ建て前であり。
(単純に怖かったんだよなぁ…自分が別の存在に
なるっていうのが。)
(ミミックロードになった時は、ミミックと大して変わらないし…そもそもあの時は訳も分からずいつの間にかロードがついてたし。)
(まったく…ゾン、いやリビングデッドを喰い漁ったり呪われてそうな鎧を取り込んだり、やることはどんどん人外に馴染んでるのにこんな所で人間時代の感情が足を引っ張るとはな。)
まぁ、いまさら何を考えても仕方が無いのだろう。
ミミック本人(本箱?)は後悔していない事だし。
それより今、彼が考えるべき事は…
ーナイトメア・ナイトアーマーを吸収したことで属性《炎》、特殊属性《闇》を取得しました。ー
ーエクストラスキル《劫火》を取得しました。エクストラスキル《常闇》を取得しました。ー
ー《炎》系統の魔術が使用可能になりました。《闇》系統の魔術が使用可能になりました。ー
(っていわれてもなぁ。)
文字の上で表示されても全く実感が湧かないようである。
(…まぁ、使えるってんだから使ってみるか。)
(それじゃ早速…どうやって使うんだろ。)
ー使用魔術を選択します。ー
(うおっ!?)
ー属性を選択してください。ー
(えー?…んじゃあ、炎?)
ー希望する現象を想像してください。ー
(現象?…あー、何かこう、火の玉とかで良いよ。)
ーイメージ操作を受信しました。《炎》系統魔術を発動します。ー
(え?いや、キャノンとかじゃなくてもっと小規模なファイアボール的な…)
次の瞬間
ミミックは、自分の意志では無く自動で大きく口(蓋?)を開いた。
その中に、紅く輝く光の粒子が集い、大きな玉を作り出す。
急速に成長した炎球の大きさは直径約1メートル、炎球の撒き散らす高温のためにミミックの周囲はゆらゆらとした陽炎に巻かれている。
(うそーーーっ!?ぇ、ちょっ、ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!)
ミミック本体には全く熱が来ないが、彼があくまで「試し」で発動させてみた魔術はとんでもなく「ヤバい」代物だったようだ。
そして。
最終的に約2メートルまで成長した炎球は、発動させた本体の意志と裏腹に射出された。
辺りの暗闇を切り裂いて飛ぶ炎球。
暗闇の世界は一瞬だけ真昼のように照らされ。
一拍置いて、凄まじい爆音が世界に響き渡ったのだった。
/////
(……ウソだろ…………?)
《フレイム・キャノン》を誤射(と、いっても良かろう。)したミミックは、すぐさま着弾点に向かった。
もちろん、ミミック基準のすぐさまであり、周りから見ればじれったい速度であったが。
自らの放った魔術が残した痕跡は、彼を絶句させるに余りある物だった。
頑丈だったはずの石の壁はクレーターのごとく削り取られており、周辺に広がるヒビまで入れると10メートルはあろうかという巨大な破壊痕。
(…とりあえず、しばらくは魔術の練習だな。)
(そもそも、今の俺の力ってどんなもんなんだろうなぁ?)
ミミックは、ふと先程のドラゴンを思い出した。
(そういえばさっきのドラゴン…あっちに行ったよな。何かあるのか?)
ドラゴンが去って行ったこの広場の奥は、ミミックが一度も足を踏み入れたことのないエリアだ。
(…行ってみよう。)
ミミックは、ドラゴンが消えた広場の奥に触手を向けたのだった。
/////
ミミックが黒騎士を取り込んでよくわからん事になってからちょうど半年。
現在ミミックは修羅場の真っ最中だった。
相変わらずの暗い迷宮(ミミック命名)の広場で、全身を白い鱗に包んだ全長約2メートルのドラゴンが暴れまわる。
相対するは高さ70センチの箱。
箱が沈黙したまま静かに触手を構えているのに対し、白いドラゴンは盛んに箱を威嚇する。
(…ふん、弱い犬ほどよく吠えるってね。)
箱…ミミックが触手を振り上げて見せると、白いドラゴンは瞬時に反応した。
翼を使った大きなバックステップをしながら炎を吐き出す。
放たれた炎は小さなミミックの身体を包み込もうと……
ー《ダーク・プロテクション》ー
ミミックの前に、周囲の暗闇から染み出すように現れた黒い壁が展開された。
壁に当たった炎は、まるで壁に呑み込まれたかのように消えていく。
数秒後には黒い壁も消え去り、はっきりと怯えているドラゴンと何事も無かったかのようなミミックが再び顔を合わせた。
(…仮にもドラゴンと戦ってるはずなんだがな。ミミックに勝てないドラゴンってのもシュールな光景だな。)
(ま、さっさといただきますか。)
ー《イグニス・ファランクス》ー
次の瞬間、ミミックの前方から現れた灼熱の熱線が空間を灼いた。
狙いを過たず身体の中心を貫かれた白いドラゴンは、致命傷を負って倒れ込む。
グオオォォォッッーーーーーーーーー!!!!
断末魔の絶叫を響かせるドラゴン。
その体に触手が巻きつき、ドラゴンはミミックの成長の糧となったのだった。
ーホワイト・レッサードラゴンの吸収でレベルが上がりました。ー
ーミミックロードLv70→ミミックロードLv71ー
あのダークレッドのドラゴンが消えた辺りを探索したミミックは、下の階へと続く階段を発見した。
しばらくの間はもともとの一つ下の階でそこに生息していた「小悪魔」を捕食していたのだが、いまさらインプごときを何匹吸収してもレベルアップには繋がらないと悟り下へ下へと下っていったのだ。
そして見つけた理想の獲物がホワイト・レッサードラゴンなのである。
確実に勝ててそこそこの良い餌となる獲物だ。
おかげで、ミミックのレベルは71に達した。
今現在、ミミックに勝てるモンスターは少ない。
もちろん、下へ下へと下っていけば巡り会うだろうが、ミミックはすでにレベルアップへの意欲を失いつつあった。
退屈なのである。
今は人外の身体と思考を持つミミックだが、その一方で人間としての思考も合わせ持つミミックだ。
毎日暗い迷宮でひたすら敵を捕食するだけの生活に退屈と疲労を感じていた。
(あー、暇だなー。死にたいとまでは言わないけど、何か起こんないかなー。)
その願いは、叶う。
/////
深い森の中にぽつりと建った一つの小屋。
中にいるのは一人の娘。
床に描かれた複雑を極める模様の陣に立ち、歌うように長い長い言葉を紡いでいく。
古来より伝わる、契約の言葉を。
全てを失う代わりにただ一つの願いを叶えるための、禁断の唄を。
歌い、紡ぐ。
敷かれた陣は光を放ち、世界が歪み始める。
歪み始めた部屋の中、朗々とした唄だけが確かに美しく響き渡る。
ー我は願いを捧ぐー
ー我は魂を捧ぐー
ー我は願いを持ちし者ー
ー我は汝に願う者ー
ー我の全てをゆだねようー
ー我の身体は汝の肉にー
ー我の魂は汝の力にー
ー我の願いは汝の枷にー
ー我は汝を呼びし者ー
ー呼びし非礼は肉で償いー
ー請いし願いに魂を捧ごうー
ー我は願う者ー
ー悲劇に報いる奇跡を待つ者ー
ーどうかー
ーどうかー
ー我はただ、汝に縋るー
陣を中心に広がった歪み。
その中心に、「彼」は喚ばれた……
プロローグ最終話でした。
…いつも以上に文才の欠片もない本文に自分で絶望しています。
プロローグである転生及び成長編が終了し、次話からは召喚新生活編が始まります。
今までとはガラリと違うテイストの小説になりますが、主人公はやっぱり四角い彼なので見捨てないでいただけるとうれしいなぁ…