腹…壊さないよね…?
「ヴ~~~~ア~~~~」
暗闇に包まれた石の通路をふらふらとさまようモノがあった。
腐りかけの身体を重そうに引きずって歩く、生き続ける死者。
「リビングデッド」と呼ばれるモンスターだ。
世界に満ちる神秘のエネルギーである「魔素」、その密度が高い場所に放置された死体は、魔力にあてられ仮初めの命を取り戻す。
「ウ~~~~~~~」
危なっかしい足取りで石の冷たい通路を進むリビングデッド。
ふと、リビングデッドは何かを見つけたようだ。
さっきまでのたださ迷うだけの足取りと違い、明確にどこかを目指して足を進め始めた。
…それでもやっぱりふらふらはしているのだが。
とにかく、何か興味を引く物を発見したらしいリビングデッドは、あっちへふらふらこっちへふらふら通路を進む。
目指した先には、木箱が一つ鎮座していた。
50メートルを30秒もかけて箱にたどり着いたリビングデッドは、見たところただの木箱であるそれに興味津々で顔を寄せた。
すると……
ガバッ!
シュルルル
グイッ
バタン!
…………。
あっと言う間の早業だった。
変化は一瞬、次の瞬間には先程までとなんら変わらぬ静かな世界が広がっていた。
さっきまでいたリビングデッドの姿が無い事を除いて、だ。
木箱は、ひとりでに蓋を開けたとおもうと一瞬の早業でリビングデッドを触手に巻き取り、箱の中へ引きずり込んでしまったのだった。
……この、どう見てもホラー映画の化け物役みたいのがこの物語の主人公である。
(?何か悪口言われたような…。)
気のせいです。
とにかく、「彼」がミミックに生まれ変わってから3ヶ月が経過していた。
もともとの人間であった「彼」がこんな空間に3ヶ月もいたら発狂していたろうが、今の「彼」はミミックである。
むしろ、暗くて狭い場所は大好きであったりした。
この3ヶ月、ミミックは積極的に獲物(大体リビングデッド。)を捕食?している。
当然、理由がある。
(今ので10匹は食べた。そろそろか…?)
突然、空間に半透明に輝く文字が浮かんだ。
ーCongratulations!!ー
ーリビングデッドLv5(11)の吸収でレベルが上がりました。スキルレベルが上がりました。ー
ーミミックロードLv18→Lv19ー
ースキル「誘引」Lv5→Lv6ー
これである。
ミミックは、というより全てのモンスターなのだろうが、他のモンスターを殺すと何らかの力が蓄積され、一定値貯まるとレベルアップの通知があるのだ。
ゲームみたいな不可思議なシステムであるが、特に害もないためそういう物なのだとミミックは納得していた。
一つくらいではわかり辛いが、三つもレベルが上がると確かに自分の違いがはっきりとわかる。
以前よりも触手の力が増し、周りの知覚範囲も格段に広がった。
…それでもやっぱり鈍足ではあるが、こればかりは仕方がない事だろう。
いくらレベルが上昇しても、本来自分が得意としていない事はやっぱり得意では無いのだった。
そもそもミミックの身体構造的に考えても、獲物の近くまで行ったら後は騙しておびき寄せてひと呑みのほうが効率がいいこともあるし。
(いやー、しかしもうレベル19か。最初はただのミミックLv1で焦ったよな~。)
今のミミックは、レベル12で進化してミミックロードである。
…長いので呼び方はミミックのままとさせていただく。
(しかし…ミミックロードに進化しても外見上変化がほとんど無くて悲しいよなぁ)
※箱がちょっぴり立派になりました。
余談ではあるが、この世界においてミミックというモンスターがミミックロードに到達する事は稀である。
自分からアピールしない限りモンスターがミミックに気づく事は少なく、通常のミミックは移動するという考えを持たない。
よって、普通ミミックといえば運が良くてもレベルが1上がるのに数十年の月日を必要とするのだ。
大抵のミミックは、レベル10になる前に格上のモンスターに破壊されてしまうのだが。
ただし、生きているモンスターを丸呑みにするという攻撃は、相手の力を全て吸収するという利点があるために獲物さえ豊富ならば凄まじい勢いで成長する可能性も秘めている。
そして、現在の「彼」ことミミックがその状態なのだった。
(あ~、ようやくレベル19か。まだまだ先は長いなぁ。)
既にミミック系モンスターとしては規格外のレベルに達しつつあるミミックだが、まだまだ上に行くつもりである。
(さて、次の獲物を探すか~)
そうしてミミックは、ズルズルと亀の歩みで闇の奥に消えてゆくのであった。
/////
ドーーーーーーーン!!!!
(!?)
ある日のこと、いつも通りにリビングデッドを捕まえていたミミックは、とてつもない衝撃を感知した。
何かが壁に叩きつけられたような鈍い打撃音と巨大な衝撃に辺りがぐらぐらと揺れる。
(何だ!?こんな事初めてだぞ!?)
今までミミックが出会ったのはリビングデッドと他のミミックだけである。
(意外と近いな…よし、こっそり見に行こう。)
ミミックは、ズルズルと移動を開始した。
相変わらず移動に関しては役立たずの触手を使い、暗い通路をノロノロと進む。
ドタバタギャーギャー大音響を響かせている原因の場所は既に目星をつけている。
ドォーーーーーン!!!!
再び辺りが大きく揺れた。
何が起こっているのやら…。
ミミックが現場に到着したとき、ちょうど決着が着く瞬間だった。
初めて見る巨大なドラゴンと、いかにも禍々しい気配を纏った鎧の騎士が戦っていたのだ。
この石造りの迷宮は、基本的には狭い通路と石室で構成されているが、今眼前に広がる空間だけはやたらと広いホールになっていた。
勿論、ミミックも既に訪れたことはあったが、ただ広いだけであり、獲物がなかなか自分に気づかないというデメリットしか無かったため一度来たきりだったのだ。
全長7、8メートルはあるだろうダークレッドのドラゴンと、禍々しい黒い鎧の騎士、戦いは騎士の劣勢だった。
騎士は、手に持つ明らかに呪われている感じの剣を振るいドラゴンに浅く無い傷を刻みつけていくが、ドラゴンはその巨体を武器に騎士を吹き飛ばし叩きつけ蹂躙する。
ギャオオオォォッーーーー!!!
ドラゴンの鳴き声と共にミミックの目の前で黒騎士が壁に叩きつけられた。
ドラゴンの方も軽くないダメージのようで、足がふらついているが、黒騎士は既に立つことも厳しいようだ。
ガシャガシャと鎧を鳴らすが立ち上がる気配は無い。
やがてその動きも緩慢になると、僅かに剣を持ち上げてドラゴンに向けたまま動かなくなった。
さっきまでの騒音から、一転して静まり返る場。
黒騎士はドラゴンに剣を向けたまま静止し、ドラゴンはフラフラながら黒騎士を睨み付けて臨戦態勢、ミミックはビビりながら箱の中に閉じこもった。
緊張が高まり、爆発するかに思われたその時…
ドラゴンがくるりと背を向けた。
小さく鳴くと奥の暗闇に消えてゆく
ドラゴンの後ろ姿が完全に消えると、黒騎士はガシャリと剣を下ろした。
そうとう消耗しているようで、もう動く事が出来ないようだ。
黒騎士に興味を持ったミミックは、そろそろと近づいてみる。
5メートル
4メートル
3メートル
2メートル
1メートル
(ここまで約5分経過。遅い。)
至近距離で黒騎士の顔の部分を覗き込む。
(?中が無い?)
倒れてなお禍々しい気配を放つ鎧の中身は空のようだ。
(そういうモンスターなのか?…まぁ、ミミックがいるんだし空の鎧がいても不思議じゃないよな。)
そんなことを思いながら黒騎士を触手でつついてみようとした瞬間…
ガシャ!!
(ギャー!!)
突如として黒騎士が再稼働し、ミミックの触手を握り締めたのだ。
ミミックは必死に触手を引っ張るが、弱っているとはいえドラゴンと1対1が出来るような超高レベルモンスターと勝負になるはずもなく。
(ギャー!離せー!)
全力で触手を引っ張り続ける。
だが、相手は微動だにせず、むしろミミックがだんだん黒騎士に引き寄せられていた。
そしてついに……
ミミックを鬱陶しく思ったのか、黒騎士は握り締めたミミックの触手を凄まじい力で引いた。
その力に抗しきれるわけもないミミックは宙を舞う。
ふわりと浮いたミミックは、勢い良く黒騎士に引きずり寄せられ、そのまま叩きつけられ……
る直前に大きく箱の口を開いた。
それが本能的な行動なのか、悲鳴でもあげようとしたのかは定かでない。
が、結果的にとんでもない事が起こった。
大きく開いたミミックの口は、黒騎士の頭部にかぶさり……そのまま呑み込んだ。
少し遅れて全身が呑み込まれていく。
数秒後には、ミミックだけが残っていた。
(え?嘘?……く、食っちまったー!?)
(相手の方が大分レベル高かったはずだけど大丈夫だよな?突然口から手が出てきたりしないよな!?)
ーCongratulations!ー
ーナイトメア・ナイトアーマーLv89(1)の吸収でレベルが上がりました。ー
ーミミックロードLv19→ミミックロードLv62ー
ーLv28に達したため、進化が可能です。ー
ー進化がキャンセルされました。ー
ーLv40に達したため、進化が可能です。ー
ー進化がキャンセルされました。ー
ーLv62に達したため、進化が可能です。ー
ー進化系統を選択してください。ー
ーパンドラLv62
選択条件 レベル62に到達。
ーリベリオンボックスLv62
選択条件 レベル62に到達。
自分より10以上高いレベルのモンスターを倒す。
ースローターボックスLv62
選択条件 レベル62に到達。
自分より30以上高いレベルのモンスターを倒す。
一度以上進化をキャンセルする。
ーPlease Select ?ー
ちょっと急ぎ足ですが、話が進みます。
…早く本編に入りたいなぁ。
ご意見、ご感想等お待ちしております。
習作なので、色々な意見をいただきながらより良くしていきたいと思っています。