序章 ダウト Ⅱ
『市立基橋高校』。
本来ならば悠生が通っている――生徒数一〇〇〇人を越えるマンモス校だ。しかし、現在この高校に通っているのは悠生ではない。
通っているのはユウキ、だ。
『時空扉』の使用により、こちらの世界へ来たユウキは帰る方法を探しながらも、こうして一般的な生活を送っていた。
現在。
そのユウキは授業終了のチャイムを聞いた後、休憩時間でも誰も来ないような教室からはかなり離れたトイレの個室にいた。
(……なんで)
その手には携帯電話が握られている。
携帯電話の画面の光がユウキの顔を照らしている。その表情は困惑と焦りが色濃く出ていた。実際に、ユウキは冷や汗をかいていた。
ユウキが見つめている携帯電話の画面は待ち受け画面になっているわけでも、受信したメールを開いているわけでもなかった。
画面に映し出されているのは、一つの写真。
拓矢が、ユウキに見せたいものがあると言っていた写真。
その写真には、血まみれのユウキが写っていた。
(なんで、こんな写真が――)
いくら考えても、ユウキは分からない。
こちらの世界へ来てから、最初に会ったのは気絶していたユウキを助けてくれた岩井真希だ。出血が酷かったユウキを、内科ではあるが父親が医者をやっているため、真希は自分の家につれていったのだ。
その時に真希が写真を撮ったのだろうか。ユウキはそう疑うが、意識が戻った後に聞いた話では、相当慌てていたようで写真など撮る暇はなかっただろう。
となると、真希が助ける前に拓矢が気絶しているユウキを見つけて写真を撮ったのだろうか。
(いや、それも――)
考えにくかった。
まだ数日しかこちらの世界にいないが、こちらの世界の悠生と拓矢が自分たちと同じように仲が良いことは窺えた。親友が血まみれで倒れているのに、写真だけ撮ってその場を離れることは考えられない。
(それじゃ、誰が――)
いくら考えても、ユウキはやはり分からなかった。