第三章 救われる者は Ⅳ
マサトシが『眠る街』を訪れている間、トモヤは『県立異能力精査研究所』の中庭に来ていた。
今日は休日で、研究員の多くは出勤していない。警備員などの最低限のスタッフがいるだけだろう。
(あの夢は……)
ふとトモヤは昨晩見た夢のことを思い出す。
すでに忘れかけている部分もあるが、大きな影が自分に何かを語りかけていたことは覚えている。
(弱い立場の『覚醒者』を助ける……。それで本当に世界が変わるんだろうか。僕たちは救われるんだろうか――)
夢で言われたことを、思い返した。
納得した上での行動だったが、それさえも誘導された感情のように思えたのだ。それは大きな影が放つ圧力を肌が覚えているからだ。『覚醒者』である自分よりも、大きな力を持っているような言い難い恐さを大きな影は放っていた。
(……そういえば)
と、トモヤは思い出す。
大きな影は、その前にトモヤに別のことも言っていた。
『これを君に渡しておこう。苦しい時や悩んだ時に飲むといい。君が落ち着くのを助けてくれるだろう』
トモヤはその言葉を思い出して、ポケットを漁った。
ポケットから取り出したのは白い錠剤だ。トモヤの手の平に転がった一つの錠剤は、異様な存在感を放っている。自分を必要としてくれ、と訴えかけているような存在感に、トモヤは流されてしまう。
そして、錠剤を一気に飲み込んだ。
次の瞬間。
トモヤの身体からドッカーンという大きな爆発が、周囲の物を巻き込みながら広がっていった。