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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
Another Story
82/118

第三章 救われる者は Ⅰ

 

 トモヤが『県立異能力精査研究所』に来てから、二週間が経とうとしていた。

 すでに『第三期「覚醒者」使用能力研究』も八割が終わり、あとは得られたデータを精査していくことと『覚醒者』の健康状態の確認を残すだけとなっていた。

 そのため研究所内では研究員が夜遅くまで作業をしている一方で、調査が終わった『覚醒者』たちはゆっくりと過ごしていることが多かった。

 研究所の施設内にある寮棟のある一室。

 その部屋でトモヤはぐっすりと眠っていた。隣のベッドには同室のユウヤという『覚醒者』が眠っている。

 時刻はすでに朝の三時を回っており、トモヤたちが目を覚ますのはまだ先である。

 窓際のベッドで眠っているトモヤの顔を、夜の明かりが小さく照らしていた。

 そんなトモヤは、夢を見ていた。



 暗いはずの夜空を強烈な赤色が照らしている。

 その赤は決して綺麗なものではなく、人に恐怖を与える赤色だった。

 その明るい色の下では、多くの悲鳴と轟音が響いている。起きている騒ぎに、多くの人が逃げ惑っているのだ。

「……これでいいんですか?」

 夜空を塗り替えるほどの強烈な赤色を発している光の元に、影が二つあった。その内の小さな影が、隣にいる大きな影に尋ねる。

「あぁ、我々の目的がまた一つ為された。君には感謝しよう」

「……感謝なんていらないですよ。あなたの言ったことを、僕も少なからずそうだなって思っただけです」

「その気持ちを抱いてくれることが我々には重要なのだ。世界には同じように報われない、救われない『覚醒者』があまりに多くいる。その一人一人を救い、安全を提供することが我々の目的なのだから――」

 大きな影は、一息で言葉を紡いだ。

 その言葉に、小さな影はじっと耳を傾ける。大きな影が言ったことを深く吟味しているようだ。

「……けど、分からない。こうすることで、『覚醒者』が本当に救われるんですか?」

「君はここでの生活に満足していたか?」

 大きな影は、質問に質問で返した。

 その質問に、小さな影は答えを詰まらせる。まるで心を見透かされているようだ。

「あ、い、いえ――」

「だろう? 君のような『覚醒者』を我々は多く見てきた。そして、救ってきた。我々に救われたことを感謝している者もたくさんいる。さて、君はどうだい?」

 大きな影は小さく笑みを見せて尋ねた。その視線が、小さな影をまっすぐと見つめている。

 見つめられた小さな影は言葉を返すことができずに、ただ頷くことしかできなかった。

 だが、大きな影はそれで満足したようで、

「我々の誕生から、すでに一〇年が経った。当初の混乱も治まり、世界は『覚醒者』を当然の存在として認識し始めている。しかし、その当然は憧れ、(おのの)き、畏怖(いふ)の対象としてのものだ。そこに我々を素直に受け容れる意味はない。よって、我々は片隅に追いやられるしかなかった」

「…………」

 大きな影の話を、小さな影はじっとしながら聞いている。

「『眠る街(スリープタウン)』、そして君のように研究所。我々が安穏できる場所は限られている。その状態からの脱却を我々は望んでいる。ゆえに、我々は弱き立場の『覚醒者』を救うのだ」

 そう言う大きな影の目の前で、また一つ大きな光が爆音とともに発生した。それを見て、小さな影は大きな影が断言するその考えに恐ささえ覚えてしまう。

 しかし、その恐ささえも大きな影に見つめられることによって、納得の感情へと無理矢理塗り替えられた。それほど大きな影が与える圧力は強く、小さな影は反論することはおろか、それ以上疑問を投げかけることができなかった。

「今宵はこれで君のもとから去ろう。しかし、我々はいずれまた君の前に姿を現す。それは知っておいてもらいたい。君はすでに我々の理解者であり、協力者なのだから」

「協力者……?」

「そうだ。君は我々の目的を代わりに為してくれた。その行動が、我々を認めてくれたことを意味している」

「すべての『覚醒者』を救うって目的を?」

「そうだ。我々、『救済者(ソーテール)』は弱き立場にある『覚醒者』を救う。いかなる方法を用いてでも。進化を果たした、とされた我々が正当な立場にいられない今の状況をおかしいとは思わないか?」

 その疑問に、小さな影は視線を落として考える。

 正当な立場、あるいは正当な評価。それらを『覚醒者』がちゃんと受けているとはとても言い難い。それは小さな影にも、なんとなく分かった。今の自分の立場が、まさしくそうだったからだ。

 その疑問に答えようと小さな影が再び視線を上げると、

「……っ!?」

 大きな影の姿が、すでに無くなっていた。

 驚いた小さな影の耳に、言葉が残る。



「我々はいずれまた君の前に姿を現す。その時まで、さようなら、だ」



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