第二章 友達になろう Ⅵ
マサトシは『県立異能力精査研究所』内の自分の研究室にいた。
時刻は、すでに夜の一〇時を回っている。本来なら仕事は終わらせて、とっくに家に帰宅している時間だ。
しかし家に帰っても一人であることに変わりないため、マサトシはこうして時々、研究室に泊まることがあった。研究所内にはシャワー室もあり、着替えも研究室に常時置いている。食事は簡素なもので済ませることが多いため、家で食べようが研究室で食べようが特に変わらないのだ。
「……やはり、あまりに違いすぎる」
マサトシはオフィステーブルに置いたトモヤのデータをじっと見ていた。
これは、今朝取ったデータをコピーしたものだ。原本は別にしっかりと保存されており、自室まで持っていくことはできないようになっている。
その項目の一つ一つに目を通していき、マサトシは改めて顔を蒼白させていた。
「……うちで一番数値が高いショウコよりも上、なのか――」
ぶつぶつと呟いている独り言に、マサトシの本意が見え隠れしている。
能力制御の数値を除いて、トモヤの数値は高いレベルを叩きだしていた。それは午前の時点で分かっていたことだが、以前いた研究所のデータと比較してみると、さらにその凄さが分かる。
そして、マサトシは所長が言っていたことを思い出した。
(所長の憶測通りだと、閉鎖された研究所の真実は――)
その考えに至って、マサトシは首を横に振った。
(いやいや、一二歳の子どもにそんなことが……。けど、彼は『覚醒者』。私たち大人よりも圧倒的な力を持っている……)
そのことは、マサトシの目の前にある書類が示している。
薄い紙切れに書かれていることが、トモヤがマサトシよりもはるかに脅威な力を持っていることを証明していた。
「……だとすると」
独り言は止まらない。
所長は即座に判断するべきではない、と言っていた。マサトシも、その通りだと思っている。憶測が正しいと思えるには、あまりに情報が少なすぎた。
そして、マサトシは一つの決断を行う。
(情報が少ないのなら、自分で集めるしかない――か)