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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
Another Story
80/118

第二章 友達になろう Ⅴ

 翌日から、『異能力精査研究所』での『第三期「覚醒者」使用能力研究』が本格的に始まった。

 今回の研究調査では、能力使用時の身体的あるいは精神的変化や使用後の変化。さらには能力使用の原理を解き明かすことを第一とている。

 それぞれの『覚醒者』が持つ人知を超えた力の性能を正確に測ること、そして『覚醒者』の身体変化を正確に知ることで、『覚醒者』が能力を使える原理を解き明かそうとするものだ。

 トモヤを加えて、六人になった『覚醒者』たちはそれぞれ別の部屋で研究対象となり、自身が持つ人知を超えた力を使用する。その様子を、多くの研究者がじっと見つめているのだ。

「……どう思います?」

『覚醒者』が能力を使用している一つの部屋。

 その部屋の壁の一部に取り付けられたカメラの映像から、所長とマサトシはトモヤの姿を見ていた。

 そこは『覚醒者』を見守りながらデータを取る別室であり、他にも三、四人の研究者やスタッフがいた。ちなみに今日の所長はしっかりと研究者らしく白衣を着用している。以前の休日のような服装ではない。

「彼が持っている力は単純な――火を操る力。いや、自分の身体から火を発せられる力か。視認できて、分かりやすい力だな」

「その分、人の脅威にもなりやすい力です」

 マサトシとは別の研究者が、はっきりと言う。

「……そうだな。簡単には触れられないものを、人は恐れ、(おのの)き、羨望の対象にまでするからな」

 少し(ゆれ)いた声で、所長は同意した。

 その所長の横顔を、マサトシはちらっと横目で見ていた。



 その後も午前中いっぱいを使って、六人全員の研究が一段落した。午後からは得られたデータをまとめる作業に研究者たちは移っていく。

 そのため『覚醒者』六人は暇なのだ。

「どこか遊び行けたらいいのになぁ」

 そう言ったのは、トモヤと同じ寮部屋のユウヤだ。

 隣には、ユウヤとは一つ年上の中学生の『覚醒者』二人が歩いていて、その後ろにかれんとショウコの二人が並んで歩いていた。トモヤはその五人の後ろを、ゆっくりとした足取りで歩いている。

「無理だよ、外に行くのは付き添いが必要だろ! 今日はみんな、そんな余裕ないって」

 そう言ったのは、ユウヤの隣を歩いている男子だ。

「分かってるよ! 言ってみただけっ」

「まぁ、どこかに出掛けたくもなるわよね。今日は天気もいいし」

 後ろを歩いていたかれんも、ユウヤの言葉には同意した。

 歩いている研究所の廊下の窓からは、燦々(さんさん)と太陽が照らしている。近くの学校では、子どもたちの活気ある声が飛び交っているだろう。

「なんで、付き添いが必要なの?」

 そう思っていると、ショウコが不思議そうに首をかしげながら尋ねてきた。

「前にも言ったよね、私たちは普通の人とは少し違うって。その違うことをね、嫌う人もいるんだよ。もし普通の人たちが、私たちの違うとこを見つけちゃったら、私たちは今の生活を失くしちゃうかもしれない。――だから、私たちだけで外にお出掛けすることはダメだって決まってるの」

 かれんはショウコだけでなく、みんなにもう一度確認してもらうように説明した。

「そうなの?」

 その説明に、疑問で返したのはショウコだ。

「うん。私たちが今みたいに暮らせてるのも、みんな大人の人たちが頑張ってくれてるからなんだよ?」

「そっか。分かった、我慢する」

 かれんの返事に、ショウコも出掛けたいという気持ちを抑える。

 けれど、かれんも少なからず危惧していた。

(いつまでも研究所の中にいることは不味い。気分転換はやっぱり必要よね)

 身寄りもなく学校に行くこともできない『覚醒者』の子どもたちは、一年のほとんどをこの研究所で暮らしている。たまに研究員やスタッフの付き添いで研究所の外へ出掛けるくらいだ。

 今まではそれで上手くいっていたが、いつその抑制が効かなくなるか、誰にも分からなかった。

(私も同じ立場で、訴えることくらいしかできない……っ)

 危惧していても、かれんが自らどうこうすることはできない。彼女もまた、それを受け容れている立場なのだ。

「かれん姉ちゃん聞いてる?」

 考え事をしていたかれんに、ユウヤの隣を歩いている男子が声をかけた。

「あ、ごめん。聞いてなかった」

「せっかく良い提案したつもりだったのにさ~」

「良い提案?」

「外に行くことはできないんだから、今日はみんなでトモヤと話そうって言ったんだよ。トモヤもこっちに来たばかりで、分からないことばかりだろうし」

 男子の提案に、かれんは「いいね」と言って笑う。

「それじゃ、談話室行こっか?」

『覚醒者』六人は研究所から出られないことに不満や疑問を少なからず感じながらも、これからの空いた時間をトモヤと仲良くなるために使うことにした。

 寮棟の談話室は、研究所にいる『覚醒者』たちの憩いの場になっていた。

 談話室はそれほど広くないが、六人が座るには十分な広さだ。談話室に戻ってきたかれんたちはトモヤも入れて輪になって座った。

「それじゃ、今日はみんなでトモヤくんと仲良くなろっか?」

 輪になって座ったみんなを見て、かれんが声をかけた。

 ぎこちない表情を見せているトモヤとは違って、他の『覚醒者』たちは笑顔で頷いた。昨日もそうだったように、みんなはトモヤと話したいと思っていたのだ。

「トモヤくんがいたとこはどんなとこだったのー?」

「……ここよりも、もっと小さい研究所だった。『覚醒者』も大人ももっと少なくて」

「へぇ~。じゃあ、みんな仲良しだったんじゃないのか?」

「ううん。みんな、ぴりぴりしてることが多かった……かな。よく大人たちは余裕がないって言ってたから」

「余裕がない? どういうこと?」

「それは私たちは考えないでいいのよ、ショウコちゃん」

 疑問を口にしたショウコに、かれんは優しい声で諭した。

「うん。大人の人たちが考えることだからね」

「ふ~ん」

 納得したのかどうか微妙な反応をショウコは見せた。

 それもすぐに消えて、またトモヤとの会話に意識を向ける。

「研究所って、どこもここみたいなんじゃないの?」

「僕がいたとこはだいぶ違った。ここみたいに、みんなが楽しそうな雰囲気じゃなかった」

「へぇ~、そうなんだ」

「うん」とトモヤは答える。

 その話を、かれんはじっと聞いていた。

(その時のことがあるから、トモヤくんはあまり積極的に人と仲良くなろうとしないのかも)

 けど、とかれんは思い返す。

 初めてトモヤを見た時のことを思い出す。

 トモヤの第一印象は、あまりに冷たく怖いと思わせる切れ長の目が強烈に残っている。その印象はこうして他の『覚醒者』たちと話している様子を見ても、消えることはない。むしろ、かれんの中でより強く残っていった。

「だから、ここの雰囲気を見て、僕もみんなと仲良くなりたいって思ったんだ」

「そっかそっか。それは俺たちも同じだよ! みんなは同じ寮で暮らしてるし、友達ってより兄弟みたいな感じもあるからなっ」

「そう……なんだ。僕も、みんなとそうなれるかな?」

「なれるよ。私たちも同じ気持ちなんだから。――だから、友達になろう?」

 そう言って、かれんは笑顔を見せた。

 トモヤを不安にさせないような暖かい笑顔はかれんだけでなく、他の『覚醒者』の子どもたちも見せている。

 その笑顔に応えるように、トモヤもぎこちなく笑った。



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