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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
Another Story
77/118

第二章 友達になろう Ⅱ

 

 トモヤの『覚醒者』としての力の把握は、一段階目が終わった。

 研究調査が終わった後、トモヤは談話室へと戻ってきていた。

 その談話室には、すでに先客がいた。

 かれんである。

「やぁ」

 研究調査を終えて戻ってきたトモヤを見て、かれんは声をかける。トモヤの目に、声をかけたかれんはやはり恐いと思う。

 しかし、『県立異能力精査研究所』にいる『覚醒者』の中で、かれんは一番の年上である。そのかれんが、率先して仲良くしようとしなければ、他の『覚醒者』の子どもたちも話しかけない恐れがあった。

「……どうも」

 かれんの挨拶に、少し遅れて返事をする。

 そのことに、

(人と話すのが苦手なのかな……)

 と疑問に思った。

 トモヤの第一印象は、鋭い目から感じる恐怖に塗り固められている。しかし、それを置いといても、トモヤの昨日のあいさつはとても上手いとは思えなかった。もっと言えば、事前にこう(・・)言え(・・)と誰かに言われていたような喋り方だった。

 そのことをかれんは思い出す。

(だったら、なおさら私が頑張らないと――)

 かれんは、そう意気込む。

「どう? ここの研究所は?」

「……僕が前いた所よりも大きいです。人も前の所よりもたくさんいて、ちょっと息苦しいような……」

「そ、そう? まぁ、いきなり慣れるのは難しいよね」

 あからさまに、かれんはショックを受けた。

 トモヤが以前いた研究所の事は知らないが、かれんは『県立異能力精査研究所』が一番良い施設だと思っているのだ。トモヤの「息苦しい」という言葉には大きく動揺する。

 一方のトモヤは深い意味もなく、その言葉を言ったようで、談話室をきょろきょろと見回していた。

「どうかした?」

「い、いえ……。ここには、こういう部屋があるんだなって思って――」

「トモヤくんが前いたとこにはなかった?」 

 談話室を物珍しそうに見ているトモヤに、かれんは必死に話を広げようとする。ここで食い下がる訳にはいかない。トモヤとの距離を縮めて、他の『覚醒者』の子どもたちとも仲良くなってもらわなければならないのだから。

「はい。前の所は『覚醒者』は僕ともう二人しかいなかったし、その二人も僕よりも年上だったから話すことも少なくて……」

 少し寂しそうにトモヤは口にした。

 その研究所でのことを思い出しているのかもしれない。その胸中はかれんには分からない。

 だが、

(『覚醒者』と接する機会が今までは少なかったのかも――。もし仲良くなりたいって思ってるなら、私たちから積極的に話しかけたら心を開いてくれるかもしれない)

 かれんは、そう捉えた。

 そう考えると、後は簡単である。トモヤの性格や趣味趣向などを理解して、かれんの方から積極的に話しかけに行けばいい。

 そうと決まれば、かれんは積極的にトモヤに話しかけていく。

「前のとこは年上の人ばかりだったみたいだけど、ここはトモヤくんと同世代の『覚醒者』もいるからね。昨日の挨拶の時にいた、あの子たちだよ」

「……僕もびっくりしました。初めて同い年くらいの『覚醒者』を見たから――」

 それほど大きくない声で、トモヤはぼそぼそと答えている。

 かれんはそれを、緊張しているのかな、と捉える。

「そうなんだ。うん、子どもの『覚醒者』がいる研究施設は少ないもんね。でも、ここは子どもしかいないから、きっとトモヤくんも気に入るよ」

「……そうなると、僕もいいなって思います」

 少しだけトモヤの表情が変化した。

 かれんには、それが笑ったように見えた。

 人ならば誰もが持つ感情の一つをようやく見られて、かれんはホッと胸を撫で下ろした。無表情の人を相手に話すのは意外に労力がいるのだ。

「うん。私も、きっと他の子たちもそう思ってるよ。それに、トモヤくんが居心地良いって思ってくれるように、私たちも努力するから」

「……ありがとうございます」

 小さくお辞儀を混ぜて、トモヤはお礼の言葉を述べた。

 その仕草と言葉に、かれんも満足そうに「うん」と微笑む。

「あ、それと敬語じゃなくていいよ。敬語だと窮屈でしょ?」

「けど、年上の人には――」

「うん。そういう風に考えてるのはいいことだと思う。日本じゃ常識のようだしね。でもね、研究員の人には敬語で接するべきだと思うけど、私には別に敬語じゃなくていいよ。私もトモヤくんも対等な『覚醒者』なんだから――」

 そう言って、かれんは笑った。

「……い、いいの?」

「うん! それでいいの。敬語でおしゃべりするよりも、そのほうが仲良くなれそうでしょ?」

 笑顔を絶やさないかれんの言葉に、トモヤはおずおずといった感じで頷いた。

「……わ、わかった」

「それでよし!」

 二人の間に妙な雰囲気が漂う。最初に恐いと思ったかれんの印象は、いくらか薄らいでいた。

 談話室の空気が変わったことに、かれんはほっとする。

(案外話しやすい子なのかも)

 一度そう思うと、あとは簡単に思えた。

「それとね、トモヤくんと仲良くなりたいって思ってるのは、私だけじゃないよ」

「え?」

 いきなりそう言いだしたことに、トモヤは疑問で返す。

「見てごらん。みんな、トモヤくんと話したいって思ってるから」

 そう言って、かれんは談話室の扉のほうを指さす。

 そこには、扉を少しだけ開けて、ショウコたちがこちらをじっと見ていた。


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