終章 帰るべき家へ Ⅰ
ビルからは依然として黒煙が空へと昇っていっている。
その黒煙を、タクヤは電車の窓から見つめていた。
恐らくこの町がまた活気を取り戻すのには時間がかかるだろう。それほど、大きな惨劇が起こったのだ。その一因を作ってしまったことを悔やんでいるのだろうか。タクヤは何も喋らない。
「……あの三人は?」
一方で、隣の四人掛けボックス席に座っているマサキは目の前に座っているトモユキにサトシたちのことを尋ねていた。
「警察が来る前に駅から離れさせた。これからはひっそりと暮らしていこうと考えているようだ。もちろん彼らの憎しみが消えるには相当の時間がかかるだろう。それこそ、この町が元気を取り戻すよりも、ね――。彼らが『覚醒者』にも『賞金稼ぎ』にも関わらない生活をしてほしいと私も願っている。かなり難しいことだと分かっているがね……」
「…………」
難しい。
そう言ったトモユキの話を、悠生はタクヤと同じボックス席に座って聞いていた。その隣には疲れて眠ったミホが座っており、タクヤの隣はぽっかりと空席になっていた。
(……俺も『覚醒者』や『賞金稼ぎ』とこれからも関わっていく生活をすることになるんだろう……)
悠生を助けてくれた『覚醒者』だけでなく、今回のように敵対する『覚醒者』とも今後出会っていくことになる。そう悠生は心で覚悟する。
(今日だって人質に取られるし、俺は何もできていない……。俺ができたことは――)
今回の出来事で、悠生ができたことは唯一つ。殺されかけていたタクヤを庇ったことだけだ。やはり、みんなにそれよりも大きな迷惑をかけている。
それでも、悠生は自分にできることを再度認識していた。
(俺も……もっとみんなの役に立てるようにならないと――)
電車の中で一人、悠生が覚悟と決意を新たにしていると、トモユキが続けて、
「それに何かあれば、私を頼るように言っている。彼らなら懸命な判断を今度はすることが出来るだろう。それに、多くのことを経験している彼らなら大丈夫だ。私のような者を頼る必要もきっとないだろう」
そう言ったトモユキはちらっと相変わらず窓の外を見つめているタクヤへと視線を移す。
トモユキは電車に乗る前にタクヤが言った「ごめんさない」という短くて、それでもとても大きな謝罪を思い返していた。
ほんの少しの時間離れていただけかもしれない。
それでも、家族となりきっている関係だからこそ、トモユキはそう謝ったタクヤを許してあげようと思えた。
これだけの被害があった出来事を招いた要因の一つだったとしても――。
電車は変わらずに同じ速度を保って、町から街へと走っていく。
帰るべき家がある街へと。