第四章 復讐は誰のために Ⅷ
駅で二手に分かれた後、トモユキとミホは『眠る街』のほうへ向けて走っていた。
『眠る街』を出たカツユキと合流したアオイは、駅までまだかかる、と電話で言っていた。具体的な場所は分からないが、『眠る街』へ向かって走っていればカツユキとアオイがいるだろう、と考えての行動だった。
それは間違いではなく、程なくして駅へと通じる路地で二人の姿を見つけた。
「カツユキ、アオイ!」
ようやく見つけたカツユキはアオイの肩を借りた状態で、ゆっくりと歩いている。その服は袖の所が破けていた。
「大丈夫か?」
慌てて、トモユキとミホは駆け寄った。
「え、えぇ、なんとか。でも、カツユキさんが――」
アオイは自分の肩に腕を回しているカツユキを心配する。
そのカツユキの表情は強張っていて、痛みに必死に耐えているように見えた。
「カツユキ、何があった?」
「『覚醒者』三人がいて、それで――」
トモユキはカツユキから何があったのかを聞く。
『眠る街』で三人の『覚醒者』を見つけたこと。その『覚醒者』が企てていたこと。その『覚醒者』と争ったこと。そして、深手を負って逃げのびたこと。
それらを聞いて、トモユキは渋い顔をした。
「やはり、あの騒ぎは――」
カツユキを話に出た『覚醒者』三人の仕業だと、トモユキは判断する。だとすると、なおさら急がなければいけない状況ということになる。
トモユキは、さらに三人の『覚醒者』の特徴を尋ねる。
「特徴ですか……。身体のはおいといて、一人は『覚醒者』の力で槍を使います。もう一人は空気を圧縮した塊を爆弾のように扱う奴です。最後の一人は分かってなくて、身体強化系だろうってのは分かるんですけど――」
「……そうか。それだけ分かっていれば十分だ。ミホ、カツユキに処置を施してくれ。私はすぐに戻るが。アオイ、ここは任せていいな?」
「は、はいっ」
いきなり声をかけられたアオイは驚きながらも、頷いた。
「駅前ですでに騒ぎが起こっている。そこに、先に悠生くんとマサキを向かわせた。二人が心配なのもあるが、そこに恐らくタクヤもいる。私は二人の後を追いかけるから、何かあったらすぐに連絡しろ。カツユキの状態が酷いようなら『ルーム』に戻るんだ」
「わ、わかりました」
それだけを言い残して、トモユキは来た道を全力で戻っていく。
その走り方を見れば、普段は『ルーム』で冷静そのもののトモユキがかなり慌てているのが分かった。
「……いい、カツユキさん?」
トモユキが走っていったのを見て、ミホはカツユキに向き直る。
その口調からは普段のような幼さは感じられない。全快していない身体でタクヤを助けに行くと言ったミユキに言葉を投げかけた時のような鋭さがあった。
「……あぁ、頼む」
カツユキの返事を聞いて、ミホは両手をカツユキの背中に当てる。
そして、目を閉じて意識を集中させる。
すると、カツユキはミホの手が触れている背中の辺りが妙に暖かくなったような感じがした。それまで強張っていたカツユキの顔もゆっくりと次第に弛緩していく。傍目には何が起こっているのか分からないが、確実にミホがカツユキに何かを及ぼしていた。
「……どう?」
「あぁ、楽になった。――さすがだな」
「分かってると思うけど、怪我は治ったわけじゃないよ。カツユキさんが感じている痛みを取ってあげただけだから」
「分かってるさ。でも、十分だ」
カツユキは両手や身体の動きを確認して、立ち上がる。
立ち上がる際の表情も、やはり苦痛に顔を歪めることはなくて、普段のカツユキの表情に戻っていた。
「サンキューな。これで、また戦える」
「やっぱり戻るの?」
それまでじっと様子を見守っていたアオイが、口を開いた。
じっと見つめている視線は、カツユキを心配している。
「あぁ、ミホの力で身体は動かせるようになったし、相手の『覚醒者』の力を見たのは俺だけだ。俺が一番あいつらを知ってるから戦いやすいだろ?」
笑って答えるカツユキ。
先に騒ぎの現場へ向かって行ったのは悠生とマサキ、そして後から追いかけたトモユキの三人だけ。その中で『覚醒者』なのはマサキだけだ。タクヤも直接的な戦闘には向いていないことから、カツユキもやはり不安なのだ。
「カツユキさん、勘違いはしないでね。私の力は痛みを取るだけで、怪我を治すものじゃない。怪我自体は治ってないから、無理したらまた倒れちゃうよ?」
「それも分かってるさ。それでも、あいつらと戦うには俺の力がいると思うから行くんだ」
カツユキは、笑顔を見せながらそうはっきりと断言した。
「で、でも……」
と、言葉を紡ごうとしたアオイを抑えて、
「それに俺だけの力がいるわけじゃない。ミホの力はたぶんまた必要になるだろうし、人混みの中からタクヤを見つけるならアオイの力が必要になる。みんなで戦うんだよ。だから、お前たちは駅で待ってろ。――いいか、ミユキのためにも必ずタクヤを連れ帰るんだぞ!」
「う、うんっ」
カツユキの力のこもった言葉に、圧倒されるようにアオイは頷いた。
みんなでタクヤを連れ帰る。
その言葉に、アオイとミホはみんなで戦っているという意識を強くしていく。