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第四章 復讐は誰のために Ⅴ

 

 タクヤがサトシたちと一緒にマチダの元で話を聞いている間、コウジ、テツヤ、ナオキの三人は、この町にただ一つである駅の駅前広場に来ていた。

「どのビルなんですか?」

 三人の中で一番若いナオキが、年上の二人に尋ねる。

「……駅前通りの奥にあるビルがそうらしい。その三階のワンフロア丸々が、奴らの家になってるんだと」

 ナオキの質問に、相変わらず黒い帽子を目深に被っているコウジが指で示しながら答えた。

 その説明を受けてテツヤは、

「ワンフロアって随分豪勢な家だな、おい」

「どういう経緯で、その家に暮らしているのかは知らないが、そんなことはどうでもいい。……行くぞ!」

「あぁ!」とテツヤとナオキは応じる。

賞金稼ぎ(ゴールドハンター)』に捕らわれた仲間の敵がそこにいる、とコウジたちは士気を上げる。

 明らかな殺意と敵意を剥き出しにしている彼らは、駅前を歩いている町の住人とは異彩を放っている。それでも、コウジたちを見て警察へ通報するといった行動を取る者はいない。誰もが、見て見ぬフリをしているのだ。

 そうした視線を感じながら、コウジたちは目標のビルまで赴く。

 めらめらと復讐に燃える瞳をギラつかせて。



 一方。

 サトシたちが『覚醒者』のタクヤをつれて、家を出た後の『ビッグイーター』のメンバーは、その帰りを待っていた。

『ビッグイーター』の家は、ビルのワンフロア丸々がそうで、かなりの広さを持っている。しかし殺風景ではなく、家の中にはかなりの物があった。そのため、居住スペースは決して広いというわけではない。そこに、メンバーの全員が集まってじっと四人の帰りを待っているのだ。

「そろそろ、かな?」

「まだだろ。マチダさんの話はいっつも回りくどいじゃん。今日だって、脱線しながら会話してるよ、きっと」

「……でしょうね。あと一時間は帰ってこないんじゃない?」

 ぽつりぽつりと交わされる会話は、静かで全員には行き届かない。それぞれが、時間を持て余したように勝手に会話をしているだけだ。

 そのような会話は、それほど広くない居住スペースに集まっているメンバーの至るところで交わされていた。小さい声でされる会話だが、そのほとんどが四人の帰りはまだか、という答えのないものである。

「また、すぐに狙うのかな?」

 ふと、メンバーの一人である男子が口を開いた。

 その問いかけに、近くにたメンバーたちが肩を震わせる。

「……ダイチは積極的だったよね」

「あいつは、家族を殺されてるから――」

「それはここにいるみんなだって変わらないよ。みんな身内を亡くしてるんだもん」

「だからって、いつまでもこんな生活でいいかなって思って――」

「そりゃ、そうかもしれないけど……」

「それに、いつ俺たちがやられる側になるか分かんないんだぞ!」

 (うつむ)かせている顔から、口々に言葉が漏れる。

 一人が口にした不安の一言に、メンバーが一斉に感染していったようになる。

 それは、メンバーの誰もが今までずっと感じていた不安だ。『賞金稼ぎ(ゴールドハンター)』になった瞬間から、彼らが果たそうと躍起(やっき)になっていることには同等の危険がついて回る。今までは奇跡的に助かってきたと言っても過言ではないくらい、それは大きな危険だ。同じ『賞金稼ぎ(ゴールドハンター)』のグループが『覚醒者』一人に壊滅させられた、というニュースも聞いたことがある。

「……サトシをリーダーにした時に、みんなで決めたじゃん。どんなに危険が降りかかってきても、果たしたいことのために覚悟するって」

 それほど、『賞金稼ぎ(ゴールドハンター)』になるのは覚悟がいる。

「……分かってるけど――」

 そして、ここにいるメンバーの全員はその覚悟をした者たちだ。

 個人によってその大きさに違いはあれど、全員が一つの目標に向かって活動してきたことは変わらない。それは結成してからの、一年弱の期間が物語っている。

 しかし、それだけの期間が、メンバーの中により大きな不安を植え付けていったことも事実だった。

「…………」

「……」

 そこで、不安の吐露は止まる。

 けれど、それは不安を出し切ったわけではない。かろうじて残った(せき)が決壊するのを堪えているだけだ。

 その堰がいつ決壊するのか、それは誰も分からない。抱き続けた不安と、その恐怖とも『ビッグイーター』のメンバーは戦っているのだ。

「……俺たちの目標っていつ成し遂げられるのかな――」

 最後に出た言葉は、進むべきゴールが一向に見えないことに対する不安だった。

 その言葉に、メンバーの誰一人として言葉を返すことができない。メンバーの誰もが、同様にゴールを見据えることができていないのだ。

「……」

「……そんなの――」

 一人の少女が口を開いたが、すぐに言葉は途切れる。一度胸に抱いたゴール地点は、とても辿りつけそうなものではなかったのだ。

 別の少年が口を開いた少年に、慰めようと声をかけようとする。

 しかし、その間際、不意にビルのコンクリートの壁が大きな音とともに壊れる。

 壊れたコンクリートの壁は周囲にあるものを巻きこんで、部屋の端から端まで吹き飛んでいった。

「……っ?」

「な、なんだ!?」

 突然のことに、メンバー全員が目を丸くして驚く。

 何の拍子もなく、いきなり壁が壊れ、瓦礫(がれき)が部屋を縦断したのだ。瓦礫の動きを見ても、明らかに人為的な破壊であることは分かる。

 そして、ぽっかりと空いたコンクリートの壁の向こうから、



「そんなに気になるならよ、お前らの、終着地点を教えてやろうか――?」



 不気味な声が聞こえてきた。

「……っ!?」

「だ、誰だっ!?」

 聞こえてきた声に、メンバーの全員は警戒する。

 次の瞬間、ぽっかりと穴が開いた壁の残りが崩壊した。轟音を響かせながら、ビルの壁は外へと崩れ落ちていく。壁の一面が完全に崩れて、『ビッグイーター』の家からは、晴天が見えるようになってしまった。

「……本当に、ワンフロア丸々が家なんすね!」

「だから、言っただろ」

 そして、壊れた壁の向こう側に三人の男の姿が見えた。

「……お前たちは誰だ――っ!」

 いきなり姿を見せた三人の男に、メンバーの一人が突っかかる。

 その声を聞いた三人の男のうち、黒い帽子を被った一人が答える。

「言ったろ、お前らの終着地点を教えてやる者だよ」

「終着地点?」

「そうさ」

 黒い帽子を被った男は、ニヤリと笑う。

 その笑みを見て、『ビッグイーター』のメンバーは背筋を凍らせる。

「あ、こいつら、前に捕まえた『覚醒者』の仲間だ――っ!」

 メンバーの一人が気付いて、声を大きくした。

「そ、そういえば……っ」

 一人が気付くと、残りのメンバーも気付いていく。

 ビルの壁を壊して、いきなり現れた男たちは『ビッグイーター』が先日捕まえた『覚醒者』の仲間のコウジ、テツヤ、ナオキだった。それぞれ特徴的な黒い帽子、咥えた煙草、明るい髪色は同じだ。

 その特徴を見間違えるはずもない。

「俺たちが誰か分かったんなら、目的も分かるよな?」

「…………」

「……」

 威嚇するような物言いに、『ビッグイーター』のメンバーたちは怖気づいてしまう。

 圧倒的な威圧。

 それは一般人と『覚醒者』では、やはり大きく違っていた。

「コウジさん。先輩はいないみたいですっ!」

「……そうか」

 ナオキの言葉を聞いて、黒い帽子を目深に被ったコウジは一度目を伏せる。

『ビッグイーター』に捕まった仲間の『覚醒者』の安否を心配しているのか。それは分からないが、目を伏せた行動に『ビッグイーター』のメンバーは不気味がる。

「遅かったか……」

 再び上げた目には、うっすらと涙が光っていた。

「容赦はしない。俺たちとお前たちの関係は十分分かってるだろう? 覚悟しろ」

 一言。

 その一言で、ビルのワンフロアがそれまでと様子を変える。

 コウジ、テツヤ、ナオキの三人の『覚醒者』は失った先輩のために、とその牙を『ビッグイーター』のメンバーへ向ける。

 それぞれの『覚醒者』としての人知を超えた力が炸裂する。

 テツヤが作り出した空気の塊は大小様々な爆発を引き起こし、ナオキは作りだした槍を振るっている。そして、コウジはカツユキも分析できなかった力で猛威を振るっていく。

「まずい……っ! みんな、逃げろ!!」

 力を行使してきたコウジたちに、メンバーは慌てふためく。

 コウジたちの目的は捕らわれた仲間の復讐だ。その達成のために、『ビッグイーター』を壊滅させようと目論んでいる。

 そして、それは『ビッグイーター』のメンバーも容易に予想できたことだ。しかし、『ビッグイーター』のメンバーは為す術もなく慌てて逃げ去ろうとするだけだった。

 三人の『覚醒者』はそうはさせない、とさらにそれぞれの力を発揮していく。

 大きなビルのワンフロアに轟音と悲鳴が響きわたる。音はその空間だけに留まらず、外へも響いていっていた。

「くそ……っ!」

 逃げようとしていたメンバーの一人は、追い詰められていることを確認して拳銃を取り出した。そして、取り出した拳銃の引鉄を迷うことなく引く。

 しかし、弾丸は確かに一人の『覚醒者』に当たったはずなのに、『覚醒者』は倒れることも痛みに呻くこともしない。

「な、なんで……」

「鉛玉は俺には効かない。残念だったな」

 銃弾が効かないということを知ると、発砲したメンバーの一人は慌てて逃げようとする。けれど、それよりも速くコウジの手が伸びた。

「ぐ……っ」

 首を掴まれたメンバーの一人の身体が宙に浮く。

 必死に足をジタバタとさせ、両手が首を掴んでいる手を握り締めるが、首は解放されない。

「俺たちの仲間をやった報いを受けろ」

 その一言で、首を掴んでいるコウジの手にさらに力が込められた。

 力はさらに込められていき、必死に抵抗しているメンバーの一人の顔が青白く虚ろになっていく。

「く、そ……っ。…………」

 そして、メンバーの一人は完全に抵抗しなくなった。

 抵抗しなくなったメンバーの一人を、コウジは瓦礫が散乱している床に放り捨てる。その視線は同じように抵抗していたり、逃げ惑っている残りのメンバーに向けられていた。

 それらのメンバーも、テツヤやナオキたちよって確実にやられていっている。

 三人の『覚醒者』の奇襲によって、『ビッグイーター』のメンバーは為す術もなく殺されていっていた。

(……肝心の奴がいない)

 逃げ惑う人の顔をざっと見て、コウジはそのことに気付いた。

「全員、ビルから逃がすな! ナオキは外に逃げた奴らをやれっ。ここに、リーダー格の奴がいない! 逃げた奴が、そいつに伝えるかもしれない――っ!!」

 そのことに気付くと、コウジはすぐに暴れている二人に指示を出す。

「あぁ、分かったよ」

「了解ですっ」

『ビッグイーター』のメンバーが逃げ惑う叫び声、抵抗しているメンバーが撃つ銃の発砲音、テツヤが放つ『覚醒者』としての力の爆発音。それらの音が響いている中で、コウジの指示に二人はすぐに応じる。

 テツヤは変わらずビルの中で逃げようとしているメンバーや抵抗しているメンバーに、自身の力を行使し続け、ナオキは崩れ落ちたビルの壁面から外に飛び下りていった。外に逃げたメンバーを追いかけるためだ。

(全員を()らないと、復讐にはならない……っ)

 そう決意を見せるコウジの顔は、醜く歪んでいる。

 悪魔を連想させるその顔に、拳銃やショットガンで抵抗を見せているメンバーたちも恐怖で震え上がる。

「な、なんで銃が効かないんだよ……っ」

「こいつ、不死身なのか!?」

 震える身体を必死に抑えて、いきなり襲来してきた『覚醒者』に銃弾を浴びせ続けるメンバーたち。

 しかし、目立った効果はなく、銃弾を身体に浴びながらもゆっくりと近づいてくるコウジに圧倒的な恐怖を感じていた。

「ひ、ひ……っ」

「俺たちの怒りを受けろ」

 またしても、その一言とともにコウジの手が伸びる。

 そして、今度は先ほどよりも早く銃を乱射していたメンバーの二人は床に崩れ落ちていった。二人とも息の根を止められたのだ。

 次々と『ビッグイーター』のメンバーたちは倒れていく。

 そこに、男女の区別はない。『ビッグイーター』のメンバーだから、で殺されていっているのだ。

 聞こえてくる悲鳴と銃声はだんだんと少なくなり、瓦礫の中にさらに悲惨な光景が広がっていく。

 派手に聞こえてくるのは、テツヤが放ち続けている『覚醒者』の人知を超えた力による爆発の音ばかりだ。悲鳴と銃声が少なくなるほど、その爆発音は場を支配していく。

「……歯ごたえがねぇな」

 ぽつりと出た言葉は、闘争本能によるものか。

 攻撃的な性格をしているテツヤは、強い抵抗を見せない『ビッグイーター』のメンバーたちに興ざめしているのだ。

「リーダーがいないと、ダメなようだな」

 コウジも、概ねそれに同意した。

 その表情は冴えていない。テツヤ同様に、どこか物足りないと思っているようでもあった。

 一方、崩れたビルの壁を飛び下りて、外に出たナオキは駅の方へ逃げようとしている人を見境なく襲っていた。

『ビッグイーター』の家から逃げ出したメンバーは数人であり、少年少女で構成されているとはいえ、一般人が逃げ惑っている中では見分けるのは難しい。そのため、ナオキは手当たり次第に槍を振るっているのだ。

「きゃあああああ!」

「に、逃げろっ!」

 槍を振るっているナオキを見て、駅前通りにいた人々は散り散りに逃げていく。いや、逃げ惑っていく。

 散り散りに逃げていく人々は背中を襲ってくる爆発音と悲鳴から、恐怖の表情を作っている。中には鮮血が肌や服に付着している人もいて、事態の大きさを物語っていた。

「……これじゃ、どいつが『賞金稼ぎ(ゴールドハンター)』なんだか分からないな」

 逃げ惑う人々を見て、ナオキは悪態をつく。

 住宅街のほうは出歩く人は少なかったが、駅前となるとやはり人は多い。それらの人に紛れて逃げているのだろう、とナオキは推測している。

「ぐ、ぁああああ」

「あ、あなたぁ――!!」

 容赦なく振るわれる槍は逃げ惑う一般人を斬りつけていく。噴き出る鮮血を浴びながら、ナオキは次々に人を斬りつけている。

「ち、違ったか」

 そこに、躊躇いはない。

 そして、斬りつけた相手が『ビッグイーター』のメンバーでないと分かるとすぐに照準を切り替えている。

「おらぁ、『ビッグイーター』! どこ行きやがったぁ!?」

 探すのがめんどくさくなり、ナオキは声を張り上げた。

 少しでも反応を見せた奴が『ビッグイーター』のメンバーであり、探す面倒が省けると踏んだからだ。

 しかし、予想以上に反応は多く返ってくる。

 逃げていた多くの人がビクッ、と身体を震わせたり、一度振り返ったりしたのだ。

「……ちっ、上手くいかないか」

 仕方なくナオキは槍を振るい続ける。そのうち、当たりを引くだろうという戦法だが、それが手っ取り早くもあった。

 しかし、そこへある男女が現れた。

「あ? なんだ、お前ら?」

「……仲間ばかりか、関係のない人たちにも手を出したのか。お前らはやっぱりそういう奴らなんだな――っ!!」

 激昂(げっこう)が駅前通りに響きわたる。

 現れたのはマチダの家から慌てて戻ってきた――サトシ、ダイチ、ユミ。そして『覚醒者』のタクヤの四人だ。




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