第一章 賞金稼ぎ ~ゴールドハンター~ Ⅴ
悠生が『ルーム』の一室でマサキと話をしている頃、カツユキとアオイは街に繰り出していた。
二人は街のコンビニの壁に寄り掛かっていた。
二人の目の前を無数の人が行き交う。それらの人は足取りを止めることもなく、それぞれ目的の場所へ歩いている。その様子を、相変わらずのぼさぼさ頭であるカツユキは咥えている煙草をふかしながら見ていた。
(この人混みの中に、タクヤがいれば楽なんだけどねぇ~……)
朝早くから『ルーム』を出て探しているのだが、タクヤは一向に見つからないでいた。顔が知られている『覚醒者』であれば、世間の目を気にして街を自由に歩くということはしないだろうが、『覚醒者』であってもタクヤは世間に顔が知られているということはないだろう。それは『ルーム』にいる『覚醒者』が所属している研究所がきっちりと個人情報は管理しているからだ。
そのため街を探せばタクヤは案外早く見つかるかもしれない、とカツユキたちは数日前から探しているのである。
そうして探しているのだが、タクヤは見つからないでいる。
カツユキは吸っていた煙草の灰を携帯灰皿に手で落としながら、隣にいるアオイへ尋ねる。
「トモユキさんは何だって?」
「……先日ニュースになってた『賞金稼ぎ』のグループの足取りを掴めって言ってました。この『賞金稼ぎ』のグループの中にが、タクヤの知り合いがいるそうです」
アオイは『ルーム』にいるトモユキとさきほどまで電話で話をしており、耳にあてていた携帯電話を仕舞いながら、その内容をカツユキにも伝えた。
「なるほどね。けど『覚醒者』のタクヤが、『覚醒者』を狩る側の集団に身を置いとくか?」
真っ先に抱いた疑問をカツユキは口にする。
いくら知り合いだとはいえ、『覚醒者』だと知られれば自身も何処かへ売られる可能性があるグループに身を寄せているとは考えにくい。
「それは私も分かりませんよ。タクヤの過去なんて聞いたこともないですし――」
「……トモユキさんはタクヤの過去を詳しく知ってるみたいだな」
ニュースになっていた『賞金稼ぎ』がタクヤの知り合いだということは、カツユキたちも全く考えもしなかったことだ。それを知っているということは、トモユキは『ルーム』の『覚醒者』も知らないタクヤの過去を知っているのだろう。
「みたいですね。『賞金稼ぎ』に身を寄せてるのも確信があるみたいでした」
カツユキの言葉にアオイも頷いた。
『ルーム』にいる『覚醒者』たちが世話になっている研究所で働いているトモユキなら、『覚醒者』たちの過去を知っていても不思議はない。不思議はないのだが、なぜそれを教えてくれないのか疑問ではあった。
「ふ~ん。ま、気になることはあるが、今はそいつらを探す方が先決だな。とりあえず、そいつらが犯行を行ったっていう『眠る街』に行ってみるか」
腑に落ちないことはあるが、それよりもトモユキが言っていたように『賞金稼ぎ』の足取りを把握する方が大事だと判断した。
そして、ニュースになっていた『賞金稼ぎ』が犯行を起こした『眠る街』へと足を向ける。
立ち止まって街を行き交う人を眺めているだけでタクヤが見つかるのなら、誰も苦労はしない。それならアオイの『覚醒者』としての力を使用して探すようなものである。タクヤはアオイの力を知っている。見つかりたくない――あるいは『ルーム』には帰りたくない、帰りづらい――という思いでいるなら、簡単に見つかる所にはいないだろう。そして、タクヤが身を寄せている『賞金稼ぎ』は『覚醒者』を狩る側であり、『覚醒者』であるカツユキたちに見つからないために身を寄せるには最高の場所である。
「見つからないために『賞金稼ぎ』の所にいるのか、あるいは単に、他に頼れる知り合いがいないのか――。どっちにしろ、『賞金稼ぎ』相手は骨が折れるな」
「大丈夫ですか?」
「不安になるのは分かる。けど、どのような経緯であってもタクヤがずっとそこに居続けるのは危険でしかない。本当に『賞金稼ぎ』のとこに身を寄せてるのなら――な」
二人が得ている情報は、トモユキの確信めいた話、だけである。トモユキの話が間違いだという可能性もあるが、確かめない訳にもいかなかった。
それは、
「ずっと放ってたら、あの小僧が助けに行くとか言い出しそうだしなぁ~」
からである。
「……もう言ってるかもしれないですね」
カツユキの言葉に、アオイも苦笑しながら頷いた。
その予想が当たり前のように言えるのは、小僧がユウキと似ている部分があるからだろうか。『ルーム』にいる当の小僧――悠生はこの会話を知らない。そして『ルーム』のみんながどのような視線で自分を見ているのかも、悠生はまだ完全には気付いていなかった。
『賞金稼ぎ』が犯行を行ったという『眠る街』へ向けて、カツユキとアオイは歩いている。
街の景色は変わらず、行き交う人々も足を止めることはしない。ただ開かれている道をまっすぐ前へ進むだけである。
しかし、タクヤは前へではなく、かつての仲間という後ろへ向けてその足を伸ばした。それは、立ちはだかっている問題に目を背けたことにも繋がる。そのようなタクヤを再び、前へと進ませるためにも二人は『眠る街』へ向かうのだ。
同じ『ルーム』の仲間、として。