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序章 それぞれの世界での一時 Ⅱ

 

 ある日の、ある時間。

 視界には周囲を照らす明かりはない。

 数メートル先もしっかりと視認できないような状態で、歩く集団があった。

 歩く集団は性別はわからないが、数は一〇人程度。その集団は揃って、同じ服を着用している。集団が着用している服は全身黒を基調としており、唯一違うのは履いている靴だけだった。そして集団は、各々の手に拳銃やアサルトライフルなどを持っていた。

 集団はその歩を止めない。

 数メートル先も見えない状況でも、しきりに周囲に視線を向けている。先に何があるのかを確認しているようでもあり、誰かに追われていて周囲を気にしているようでもあった。

 集団が歩いている周囲には音を発するものもなく、集団の歩く足音や呼吸の音、時折吹く風の音が普段よりも大きく聞こえる。それらの音は集団の緊張感をさらに高め、心臓の鼓動を速めていく。その音すらも、集団のみんなに聞こえてしまいそうだ。

「合流地点は近い。周囲により注意を向けろ」

 集団の先頭を歩いていた影が、後ろの影たちに注意を促す。

 注意を受けた影たちは、さらに足音や呼吸の音を出さないように、ゆっくりと慎重に歩を進める。

「…………」

「……」

 集団の緊張感は否応(いやおう)にも高くなる。

 集団の影たちは一言も声を発することなく、お互いを確認できる距離を保ちながら、数メートル先も分からない視界の先へと歩を進める。

 その先が、先頭を歩いていた影が言った『合流地点』、なはずである。

 手元には現在地を確認する術もなく、これまでの経験と先に得ていたデータを頼りに、視界が悪い中を歩いているのだ。

『合流地点』に近づいている――と思っている――集団の影たちは、一歩一歩進んで行く内に、お互いの距離を縮めていく。先がしっかりと見ないことの恐怖感から、お化け屋敷を進む際に寄りそって歩くように、なるべく密着して進んで行きたいという思考が働いているのである。

 それでも集団の影たちは声を発しない。

 それだけは絶対に守るのだ、と固く誓っているように見えた。

 やはり集団は歩を止めない。

 そのような状況の中、集団はさらに数十メートルの距離を歩く。一歩一歩と実直に先を進む集団の先は、視界が悪いにも関わらず開けた場所であることが分かった。

 それを認識して、影の一人がなるべく小さな声で尋ねる。

「ここなの、サトシ?」

「……あぁ。ここで間違いない」

 開けた場所に着いたことで、集団はその歩を止める。

 開けた場所であることは分かっても、そこがどのような場所であるのか、具体的には視認できない。周囲は建物の壁で囲まれているのか、それとも柵で囲まれているのか、自動車が停められていたり、自動販売機が置かれているのか、街路樹などがあるのか、それすらも分からない。

 開けた場所だと理解できるのは、暗闇の中でも感じる圧迫感が先ほどまでよりも感じないためである。

「みんな、待機だ」

 集団の先頭を歩いていた影は、後ろを続いていた影たちにそう指示をした。

 指示を受けて、影たちは各々の手に持っていた拳銃やアサルトライフルを下ろす。そうして初めて、集団の緊張感がいくらか(やわ)らぐ。

「ふう――」

「やっと一息か……」

 それまで声を発することすらも抑えていた集団の影たちは、ようやく一息つく。

 先頭を歩いていた影を除き、他の影たちは地面に腰を下ろしたり、会話をし始めたりとそれぞれ高まった緊張をほぐそうとしている。

「…………」

 そのような中でも先頭を歩いていた影だけは、じっと立ったままである。

 その視線は絶えず、周囲へ動かされている。

 合流地点と言っていたことから、合流する相手を探しているのだろうか。それは分からないが、他の影たちはそれぞれ緊張をほぐそうとしているのに対して、彼だけは一人その緊張を解かない。

 数分間にわたって、その状態は続いた。

 その後、足音が開けた場所で鳴り響いた。

「……やっとか」

 足音が聞こえたことに気付いた影は、ぽつりと呟いた。

「遅れたか?」

 足音の主は短く尋ねる。

 その直後、開けた場所に強烈な光が当てられた。

 唐突に光が発生したことに、その場にいた影たちは目を細めたり、顔を背けたりして、光から目を防ぐ。光に当てられて、影たちの顔が明るみになる。鮮明に見えるようになった影たちの顔は、皆一様に若い。成人を迎えている者はいないようで、学生だとはっきりと分かるような表情の者もいた。

 それらの顔を見ても、尋ねた足音の主は驚く様子を見せない。相手が若者だということも事前に知っていたのだ。

「……ほんの数分さ。タイムロスにはならない」

 尋ねられたことに、先頭を歩いていた若者は答えた。

「そうか。だいぶ粘られちゃってね」

「支障はきたさないだろう。被害は?」

「怪我をした者もいるが、ひとまず全員無事だ」

 その言葉を受けて、光の先から新しい集団が姿を見せる。

 光の先から現れた集団は、若者たちと同じデザインの服で身を固めている。その数は六人。その集団も、各々の手に拳銃を握っている。そして、一人の成人男性を縄で縛り、従えていた。

「今日の収穫は?」

「三〇代の男が一人、後は取り逃がした」

 答えた声は、先ほど尋ねた足音の主のモノだ。

 彼あるいは彼女が、新しく現れた集団のリーダー的役割を担っているみたいだ。

「……まぁ、仕方ない――か。その男をすぐに連れて行こう」

「すぐにか? こっちも疲れてる。少し休息を取ってほうがいいんじゃないのか?」

「仲間を取り戻しに、奴らが来るかもしれない。休息を取るにしても、ここは移動したほうがいい」

「……わかったよ」

 若者の言葉に、足音の主も同意する。

 彼らとしても、これ以上被害を大きくすることはしたくなかった。たった一人を捕まえるために出した被害はとても小さいとは言えない。本来の目的の数を捕まえるためには、必然的に被害は大きくだろう。

 今は、そうしてまで目的の完全遂行を優先するべきではない。

 合流地点で、目的の相手と合流したことから、二つの集団はすぐにもこの地点から移動をしようとする。先に来て、心身の回復と緊張緩和を行っていた若者たちも二人の会話を聞いて立ち上がる。

 そして、移動しようとした時に、





「……探したぞ」





 もう一つ、新しい声がかけられた。

 さらに聞こえてきた声の方へ、その場にいた全員が視線を向ける。

「お、お前は――」

「……まだ、そんな稼業をやってんのか――」

 声の主は集団の服装や所持している拳銃、縄で縛られた成人男性を見て、すぐに看破する。

「俺たちの存在理由だから――な」

 呆れたように言ってくる声の主だが、若者ははっきりと言い返す。

 それ以外の理由はない、とでも言うように。

「それで、お前の用は何なんだ、タクヤ?」

 そこにいたのは、『覚醒者』のタクヤだった。




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