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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
Another Story
41/118

第一章 日野市 Ⅱ

 

 気持ちいい温水がつやつやとした肌の上を上から下へと流れていっている。

 水の流れに合わせてボディソープの泡が排水溝へと流されていく。排水溝へ消える間際のゴボゴボッ、という音がシャワーの音に(まぎ)れて、微かに耳へ届けられる。その音でさえも気にならないほど、肌に伝う温水は心を(やわ)らげていく。

(気持ちいい~)

 シャワーを浴びているのはかれん。

 先ほどまでマサトシの研究室にいたかれんはフライトの疲労感を取るためと、涙ぐんだ表情をすっきりさせるためにシャワーを浴びている。

 大きく張った胸元を伝う温水は、かれんの心の不安なども綺麗に洗い流していく。

 浴室に設けられている鏡は湯気で曇っており、かれんの身体をはっきりと映してはいない。

「……ほんと、不器用に優しいんだから」

 ぽろりと零れた言葉は排水溝へ流れる水と同じように、流れるように消えていく。その声は誰にも届かない。

 シャワーから流れる温水を気持ち良さそうに浴びるかれんは、マサトシが気にもしていなかったことをふと考える。

(この施設に来るかどうかは別として、研究所が閉鎖したってことは何人かの『覚醒者』が野放しになってる可能性もある)

 それは由々(ゆゆ)しきことである。

『覚醒者』は一般人から(うと)まれている。ここ数年で一般人の認識が変わってきたという結果があったとしても、根本的な部分でそれは変わらない。『覚醒者』が()してきたことは、それほど大きなことだったのだ。

 そのような世論の中で『覚醒者』だと知られれば、生活は一気に辛くなる。直接的な被害を受けるということは少なくなってきているが、周囲の視線が変わるのだ。そのため街によっては『覚醒者』が住みづらい街が存在する。

 かれんは、彼らがそのような状態に(おちい)っていないか、と心配しているのだ。

 そして、もう一つ。

『覚醒者』と(ひと)(くく)りにしても、人間であることに変わりはない。様々な性格や趣向を持った人がおり、中には攻撃的な『覚醒者』もいる。彼らが、もしそのような人であった場合、一般人に対して『覚醒者』としての力を行使する可能性もある。もちろん『覚醒者』対策の警察特殊部隊や自衛隊部隊もあるが、必ず頼りになるというわけではない。

(一般人が被害を受けるか、彼らが被害を受けるか――)

 どうなるかは分からない。

 しかし、どちらになっても悲しみや憎しみはまた増えるだけだ。



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